表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ガチョウの羽毛布団

作者: 暇有
掲載日:2026/05/11

勢いです。

設定はノリで決めました。ドライアイスは妹が決めた。

妹とTRPGみたいなノリでGPT巻き込みながら遊んでいたら、

「アヒル軍団 vs 炎の白スーツおじさん」

の短編小説が完成しました。


最初は完全にギャグだったのに、

気付いたら孔雀が命懸けで特攻し、

ガチョウの羽毛布団で情緒が終わりました。


作者も何を書いたのかよく分かってません。

夕方の河川敷だった。


空はオレンジ色。

風は少し強い。


そして──。


「……なんでいるの?」


姉が震えた声で言った。


橋の下。


白いスーツ。

黒いリボン。

眼鏡。

そして、静かに燃えているバケツサイズのフライヤー。


そこに立っていたのは、

白スーツの男だった。

(仮)白おじさんと呼んでおこう。

「……フッフッフ」


ゴォ……と、

彼の背後で炎が揺れる。


妹が姉の袖を掴む。


「お、お姉ちゃん……あの人絶対ヤバい人だよ……」


「分かってるよ!!」


ガァ!!!!


ガチョウが前へ出る。


頼れる仲間。

名前はまだない。


だが強い。

そして妙に態度がデカい。


その横ではアヒルが

「クェ……」

と低く鳴き、

小さなアヒルの子供たちは姉の足元に集まっていた

完全にファミリー映画の陣営だった。


対して向こうは、

明らかにラスボス。


「……この河川敷で」

白おじさんが低く言う。


「チキン以外が歩いているのが気に入らん」


ボッ!!!!!!


突然、

彼の右手から炎が吹き上がった。


「うわああああ!!?」


姉が妹を抱えて転がる。


直後、

さっきまでいた場所が燃えた。


熱風。

焦げ臭さ。


ガチョウがブチギレた。


「ガァアアアア!!!!」


翼を広げ、

ミサイルみたいな勢いで突進する。


速い。


だが──


「甘い」


キィン!!


白おじさんが取り出した包丁で、

ガチョウの突進を受け流した。


「ガッ!?」


「え!?今の捌いた!?」


成人男性、強すぎる。


姉は震える手で、

リュックから武器を取り出した。


──水鉄砲。


しかも夏祭りで買ったやつ。


終わっている。


「こんなんでどうしろっての!?」


だがその瞬間。


妹が叫んだ。


「お姉ちゃん!!後ろ!!」


「!?」


ゴォッ!!!!


炎が迫る。


姉は反射的に水鉄砲を撃った。


ぴゅっ。


しょぼい水が飛ぶ。


当然意味ない──


……はずだった。


ジュウウウッ!!!


「あっ」


炎が一瞬だけ揺らいだ。


白スーツおじさんの目が細くなる。


「……ほう?」


姉は気付く。


(火、弱まった……!?)


その時だった。


アヒルが河川敷の隅に置かれていたクーラーボックスを嘴でつつき始めた。


ガコン。


中から大量の白煙が溢れる。


「……え?」


妹が目を見開く。


ドライアイスだった。


モクモクモクモク……!!!


一瞬で橋の下が白い霧に包まれる。


視界ゼロ。


「ガァーーーーッ!!!」


ガチョウ突進。


「チッ」


白おじさんが舌打ちした。

白おじさんが止まっている間に姉は妹の手を掴み逃げ出した。


「今だ!!走るよ!!」


「う、うん!!」


アヒルたちが水面を滑るように進む。


白煙の中、

燃えるシルエットだけが浮かんでいた。


ゆっくり。


ゆっくりと。


白スーツおじさんが笑う。


「逃げるか……」


炎が、

霧の中で揺れた。


「ならば次は、“本気のレシピ”を見せよう」


その瞬間。


橋の上に、

巨大な圧力鍋みたいな影が現れた──。





川辺はもう地獄だった。


「ガァアアア!!」


ガチョウが羽を広げる。


バシャバシャ!!


水しぶきが飛ぶ。


その奥で、

燃える白スーツがゆっくり近づいてきた。


白おじさんは、

水辺にいるはずなのに、

まるで関係ないみたいに歩いてくる。


ジュウ……

ジュウ……


靴の裏から蒸気が上がっていた。


「なんで普通に歩いて来れるのこの人!?」


姉が叫ぶ。


妹は半泣きだった。


「お、お姉ちゃん……!!岸!!岸行こう!!」


「行けるなら行ってる!!」


問題はそこだった。


さっき逃げ込んだせいで、

姉妹は川の浅瀬に追い込まれていた。


後ろは深い。


前には白おじさん。


完全に詰み。


アヒルたちも水面をぐるぐる回るしかない。


そして。


ボッ──!!!!


「うわぁっ!!」


炎が水面に叩きつけられた。


熱っっっっっっっ。


蒸気が爆発みたいに広がる。


「熱い熱い熱い!!」


妹が転びそうになる。


姉が咄嗟に腕を掴む。


だがその瞬間。


ズルッ。


「あ」


妹の足が滑った。


川の深い方へ身体が傾く。


「きゃ──!!」


ドボンッ!!!!


「妹!!!!!」


沈む。


流れは思ったより強かった。


妹は泳げない。


必死に手を伸ばす。


「おね、ちゃ──!!」


ガァッ!!!!


その瞬間、

アヒルが水中へ飛び込んだ。


続いてガチョウも。


バシャァッ!!!!


「えっ」


アヒルが妹の服を嘴で引っ張る。


ガチョウは流れに逆らって羽を叩きつける。


必死だった。


小さな体で、

必死に妹を沈ませまいとしていた。


「う、うそ……」


姉の目が揺れる。


だが、

その隙を見逃す敵じゃない。


ゴォォォッ!!!!


「ッ!?」


炎。


白おじさんが岸から手を向けていた。


「家族愛……実に美しい」


眼鏡の奥で、

目が笑っていない。


「だからこそ、“揚げがい”がある」


怖すぎる。


姉は震える手で水鉄砲を構えた。


こんなので勝てるわけない。


でも。


でも──。


「……返せよ」


「?」


「私の妹、返せよ!!」


ぴゅっ!!!


水が飛ぶ。


小さい。

弱い。

しょぼい。


それでも。


ジュウウッ!!!


炎が少しだけ揺らぐ。


白おじさんの眉が動いた。


その瞬間。


ガチョウが、

水面を蹴った。


ガァアアアアア!!!!


「!?」


突進。


まっすぐ。


一直線。


燃える男へ。




ガァァァッ──!!!


突進したガチョウは、

燃える腕に真正面からぶつかった。


次の瞬間。


ボォッ!!!!


「ガッ──」


炎が羽を包む。


焦げ臭い匂い。


「いやあああああ!!」


姉が叫んだ。


ガチョウは地面を転がる。


白い羽が黒く焼け、

煙が上がる。


しかし。


まだ倒れていなかった。


「……ガァ」


「生きてる!!」


だが限界だった。


アヒル軍団は完全に動揺していた。


「クェッ!!クェクェ!!」


「ガァガァ!!」


翻訳すると多分、


『無理!!』

『火力不足!!』

『相手が人間性能じゃない!!』


だった。


実際そう。


向こうは炎と刃物持ちの成人男性。

こっちは水鉄砲と鳥。


終わっている。


そして。


ゴォ……


炎を纏った白おじさんが、

ゆっくり近付いてくる。


「そろそろ終わりかね」


「……っ」


姉の手が震える。


その時だった。


妹が、

クーラーボックスを見た。


「……お姉ちゃん」


「え?」


「これ……まだある」


中には、

大量のドライアイス。


白煙がモクモク溢れていた。


姉の目が見開く。


「……やるしかない」


「クェ?」


アヒル達が見る。


姉はドライアイスを掴んだ。


冷たすぎる。


「うわっ冷たっっ!!」


でも離さない。


白おじさんが笑う。


「氷で私を止める気かね?」


「止まれぇぇぇぇ!!」


ブンッ!!!


姉はドライアイスを全力で投げた。


ガンッ!!


「む」


直撃。


次の瞬間。


モクモクモクモクモク!!!!


大量の白煙が爆発した。


視界ゼロ。


しかも。


ジュウウウウッ!!!!


炎と冷気がぶつかり、

蒸気が発生する。


「チッ……!」


白おじさんが

明確に体勢を崩した。


「効いてる!!?」


妹が叫ぶ。


アヒル達もざわつく。


「クェ!?」

「ガァ!!」


さらに姉はもう一個掴む。


「まだあるぞコラァ!!」


ブン投げる。


ボコン!!


白煙。


蒸気。


視界ゼロ。


熱と冷気で空間がぐちゃぐちゃになる。


そしてその中で──


ガァアアアアア!!!!


半分焦げたガチョウが、

再び立ち上がった。


姉「貴方まだ行くの!?」


羽の先は焦げ、

煙も出ている。


だが目だけは死んでなかった。


ガチョウは、

白煙の中へ突っ込んでいく。


ラスボス戦みたいに。




………





モクモクモクモク──!!!


白煙が橋の下を覆う。


ドライアイス。

蒸気。

熱気。


視界は完全に死んでいた。


「今だ!!走って!!」


姉が妹の手を掴む。


アヒル達も一斉に水面を蹴った。


その瞬間。


ガァアアアアア!!!!


焦げたガチョウが、

最後の力みたいに突っ込んだ。


「……!」


姉は振り返る。


白煙の奥。


燃えるシルエットに、

ガチョウが飛びかかっていた。


時間稼ぎだった。


完全に。


「ガチョウ!!戻って!!」


返事はない。


その代わり。


ドゴォンッ!!!!


何かがぶつかる音。


そして。


「小癪な……鳥が」


低い声。


白おじさんはまだ動ける。


でも。


その数秒で十分だった。


姉達は河川敷を駆け上がる。


息が切れる。


足が重い。


妹は泣きそうだった。


「お、お姉ちゃん……ガチョウ……」


「……分かってる」


でも止まれない。


止まったら終わる。


後ろからは、

白煙を突き破る炎が見えた。


ボッ──!!!!


「うわぁっ!?」


熱風が背中を撫でる。


ギリギリ。


本当にギリギリだった。


姉は走りながら考える。


(水鉄砲じゃ無理)

(ドライアイスも足止めだけ)

(真正面で戦ったら絶対勝てない)


向こうは成人男性。


しかも、

炎と刃物持ち。


こっちは女子供。


戦力差が終わってる。


「……武器いる」


姉が呟く。


妹が涙目で頷く。


「う、うん……」


アヒル達も静かだった。


さっきまでの勢いがない。


みんな分かっていた。


このままじゃ、

次は逃げ切れない。


その時。


姉の目に、

河川敷の向こうの建物が映った。


古びた倉庫。


半分シャッターが開いている。


「……あそこ」


「え?」


「入るよ!!」


バンッ!!


倉庫へ飛び込む。


暗い。


ホコリっぽい。


だが──


「……え」


妹が固まった。


棚。


工具。


ロープ。


消火器。


金属バット。


古い工事用ヘルメット。


そして奥には、

何故か業務用の巨大扇風機。


姉の目が変わる。


「……戦える」


外からは、

ゆっくり足音が近づいていた。


コツ。


コツ。


コツ。


炎の明かりが、

シャッターの隙間から揺れている。


「見つけたぞ」


低い声。


白おじさんが、

倉庫の前に来ていた。








倉庫の空気は重かった。


誰も喋らない。


焦げた羽の匂いが、

まだ服に残っている。


姉はゆっくり、

工具棚から金属バットを取った。


ギィ……


重い。


今まで持ったことない重さだった。


妹も震える手で、

少し大きめの消火器を抱える。


アヒル達は、

工具箱の周りをうろうろしていた。


そして。


床には、

ガチョウの羽が一枚落ちていた。


黒く焦げた羽。


さっきまで一緒にいた仲間。


姉はそれを拾い、

ポケットにしまう。


「……忘れない」


妹が小さく頷く。


「うん……」


その時。


ゴォ……


外が赤く染まった。


「……来る」


白おじさんが…!

倉庫のシャッターの向こうに、

炎が揺れている。


まだ倒れていない。


当然だった。


ドライアイスも、

水鉄砲も、

ガチョウの突撃も。


全部“時間稼ぎ”でしかない。


真正面で勝てる相手じゃない。


姉は歯を食いしばる。


「……人数足りない」


「うん……」


「近接も危ない」


「うん……」


「助っ人探そう」


その瞬間。


倉庫の奥から、


ガサァッ……


何か音がした。


全員止まる。


妹が消火器を抱え直した。


アヒル達も警戒している。


ゆっくり。


ゆっくり奥を見る。


暗闇の中。


棚の上に、

何か巨大な影がいた。


「……え?」


バサァッ──!!!!


突然、

極彩色の羽が広がる。


青。

緑。

金。


そして、

圧倒的な存在感。


そこにいたのは──


孔雀だった。


沈黙。


アヒル「クェ……」


妹「……くじゃく?」


孔雀は高い棚の上から、

全員を見下ろしていた。


異様にデカい。


しかも、

妙に威厳がある。


まるで

隠しボスみたいな空気。


姉が恐る恐る言う。


「……もしかして助っ人?」


孔雀は答えない。


代わりに、

ゆっくり羽を広げた。


その瞬間。


シャッターの向こうから、

炎が吹き込んだ。


ボォッ!!!!


「うわっ!?」


しかし──


バサァァァッ!!!!


孔雀が羽を振る。


とんでもない風圧。


炎が横へ逸れた。


「えっ」


妹が固まる。


孔雀は静かに着地すると、

こちらを振り返った。


そして。


「ォォォォ……」


めちゃくちゃ低い声で鳴いた。


怖い。


完全に猛者だった。


その時、

アヒル達がざわつき始める。


「クェ!?」

「ガァ!?」

「クェェ!!」


姉は察した。


「……もしかしてこの辺、

鳥しかいないの?」




…………





「ここ狭い!!」


姉が叫ぶ。


倉庫の中は、

思った以上に終わっていた。


棚。

工具。

狭い通路。


こんな場所で

白おじさんに近付かれたら終わる。


刃物持ち相手に接近戦は無理。


その時。


ゴォッ──!!!!


炎がシャッターを焼いた。


「ッ!!」


鉄板が赤く染まる。


時間がない。


姉は周囲を見る。


出口は一つ。


正面は塞がれる。


なら──。


姉「壁壊すしかない!!」


妹「えぇ!?」


アヒル達「クェ!?」


だが。


孔雀だけは静かだった。


ゆっくり。


ゆっくり壁の前へ歩く。


そして。


バサァッ──!!


巨大な羽を広げる。


美しい。


なのに圧がある。


完全に強キャラ。


孔雀は壁を見つめると、

静かに後ろへ下がった。


「……まさか」


次の瞬間。


ドゴォンッ!!!!


孔雀が体当たりした。


壁が揺れる。


ヒビが走る。


「えぇぇぇ!?」


妹が叫ぶ。


もう一撃。


ドゴンッ!!!


ヒビが広がる。


外の光が見えた。


「やれる!!」


姉は金属バットを握る。


妹も工具を持つ。


「せーの!!」


ガンッ!!!


ゴンッ!!!


壁を叩く。


崩れる。


粉塵が舞う。


後ろでは、

シャッターが限界だった。


メキ……


メキメキ……


「急げ!!」


最後に孔雀が羽ばたく。


ドォォン!!!


壁が崩壊した。


外の風が吹き込む。


「逃げるよ!!」


姉が妹の手を掴む。


アヒル達も一斉に飛び出した。


その瞬間。


バァン!!!!


シャッターが吹き飛ぶ。


炎の向こうから、

白スーツの影が現れる。


「……ほう」


煙の中。


白おじさんが立っていた。


だが、

姉達はもう外。


夜風の中を全力で走る。


孔雀が後ろを飛ぶ。


アヒル達も続く。


ボロボロ。


でも生きてる。


姉は走りながら、

ポケットの焦げた羽を握った。


「……絶対、無駄にしないから」






……………




夜の河川敷に、

嫌な音が響いた。


ゴゴゴゴゴ……


地面が揺れる。


「……なに?」


妹が立ち止まりそうになる。


姉は振り返った。


そして、

顔が青ざめる。


橋の上。


炎の中心に、

白おじさんが立っていた。


白スーツを焦がしながら、

両手をゆっくり空へ向けている。


その頭上には──


巨大な圧力鍋。


「は?」


デカい。


意味わからんくらいデカい。


ビルみたいなサイズ。


しかも浮いてる。


ボコ……


ボコボコ……


中で何か煮えていた。


赤黒い液体。


油。


炎。


肉みたいな何か。


地獄。


妹「お姉ちゃんアレ何!?」


姉「知らないよ!!!」


次の瞬間。


白おじさんが、

静かに指を振った。


「やれやれ…すばしっこい…」

グワン──……


巨大圧力鍋が、

ゆっくり傾く。


嫌な予感しかしない。


「逃げ──」


ドォォォォン!!!!


空から、

“何か”が降ってきた。


熱々の塊。


油を撒き散らしながら、

隕石みたいな速度で落下する。


「うわああああ!!?」


着弾。


爆発。


アスファルトが溶ける。


ジュウウウウッ!!!!


「熱っ!!熱っっ!!」


妹が泣きながら走る。


アヒル達もパニックだった。


「クェーーー!!」

「ガァーー!!」


さらに。


ドゴォォン!!!!


二発目。


三発目。


熱々の謎物体が、

空から降り続ける。


河川敷がクレーターだらけになる。


完全に終末。


孔雀が羽を広げた。


バサァァッ!!!


爆風が逸れる。


だが全部は防げない。


「このままじゃ追いつかれる!!」


姉は息を切らしながら周囲を見る。


逃げ場。


隠れ場所。


水場。


何でもいい。


だが。


上空では、

巨大圧力鍋がさらに傾いていく。


まだ降ってくる。


「料理される……!!」


妹が半泣きで叫ぶ。


その言葉に、

姉の顔色も変わった。


そう。


これは攻撃じゃない。


“調理”。


完全に。


「絶対イヤ!!!!」


ドゴォォォン!!!!


すぐ後ろに熱塊が落ちる。


爆風。


熱風。


転びそうになる妹を、

姉が引っ張る。


「走れ!!!」


アヒル達が先導する。


孔雀が最後尾で爆風を受け止める。


みんなボロボロだった。


でも。


止まったら終わる。


油の匂いと炎の中、

姉達は必死に夜を駆け抜けた。




………




ドゴォォン!!!!


また遠くで熱塊が落ちる。


夜なのに、

空が赤かった。


河川敷はもう半分戦場になっている。


姉達は、

なんとか燃えていない古い高架下へ逃げ込んでいた。


コンクリート。

湿った匂い。

暗闇。


「……はぁ……はぁ……」


妹が座り込む。


アヒル達もぐったりしていた。


孔雀だけは、

入口付近で外を警戒している。


バサ……


羽がわずかに揺れる。


遠くでは、

まだ爆発音が続いていた。


つまり。


白おじさんは、

まだこちらを探している。


「……時間の問題だね」


姉が呟く。


妹が黙って頷く。


鳥達は隠れられる。


小さいし、

暗所にも入れる。


でも人間二人は違う。


見つかったら終わる。


しかも。


「水鉄砲だけじゃ無理だ……」


姉は俯く。


消火器。

ドライアイス。

バット。


全部、

“時間稼ぎ”。


決定打にならない。


その時。


妹が、

暗闇の奥を指差した。


「……お姉ちゃん」


「?」


そこには、

大量のポリタンクが積まれていた。


青いタンク。


透明な容器。


バケツ。


ホース。


「……これ」


姉は目を見開く。


逃げ込む途中。


実は少しずつ、

ここへ運んでいたものだった。


水。


大量の水。


姉「こんなに集めてたの!?」


妹「だって……火だから……」


妹は震えながら言う。


正しかった。


完全に。


姉はタンクを持ち上げる。


重い。


でも希望だった。


「……やれるかもしれない」


アヒル達が反応する。


「クェ?」

「ガァ!」


孔雀もこちらを見た。


姉の頭の中で、

点と点が繋がる。


火。


油。


巨大攻撃。


なら。


“消す”。


真正面から倒せなくても、

炎を止めればいい。


「……戦う」


妹が驚く。


「えっ」


姉は静かに頷いた。


姉「次来たら、水全部ぶつける」


妹「でも相手だよ!?成人男性だよ!?しかも炎!!」


姉「分かってる!!」


姉の声が震える。


怖い。


本当は逃げたい。


でも。


ポケットの中には、

焦げたガチョウの羽が入っていた。


姉はそれを握る。


「……ここで終わりたくない」


外から、

重い足音が聞こえた。


コツ。


コツ。


コツ。


熱風も近い。


見つかった。


孔雀が羽を広げる。


アヒル達も立ち上がる。


妹は消火器を抱え直した。


姉はホースを掴む。


暗闇の奥で、

大量の水が静かに揺れていた。






…………


コツ。


コツ。


コツ。


足音が止まる。


高架下の入口。


炎が揺れた。


白おじさんが、

ゆっくり姿を現す。


白スーツは煤だらけ。


だが、

圧だけは増していた。


「……隠れんぼは終わりかね」


ゴォ……


背後で炎が燃え上がる。


熱い。


息苦しい。


妹が震える。


アヒル達も怯えている。


でも。


姉は前へ出た。


「……今だ」


「クェ?」


孔雀が振り返る。


姉はホースを握り締めた。


手汗で滑りそうだった。


怖い。


怖いけど──。


「行けぇぇぇぇぇ!!!!」


その瞬間。


バシャァァァァァァッ!!!!


大量の水が放たれた。


ポリタンク。

バケツ。

ホース。


ありったけ。


全部。


高架下に激流みたいな水が流れ込む。


「なっ──」


ジュウウウウウウウウ!!!!


蒸気爆発。


炎が暴れる。


白い煙が視界を埋める。


「今だ!!」


妹が消火器を噴射。


ブシュゥゥゥゥッ!!!


さらに視界が潰れる。


孔雀が羽を広げた。


バサァァァッ!!!!


暴風。


蒸気が一気に敵へ流れる。


「チッ……!」


初めて。


初めて白おじさんが後退した。


「効いてる!!」


アヒル軍団突撃。


「クェェェェ!!」

「ガァァァ!!」


足元へ飛び込む。


滑る。


大量の水で地面は最悪だった。


白おじさんの体勢が崩れる。


「ぐっ……!」


姉は走った。


バットを握って。


怖い。


近い。


デカい。


成人男性、怖すぎる。


でも──。


「ガチョウの分だぁぁぁ!!!」


ガンッ!!!!


金属バットが、

白おじさんの手へ叩き込まれる。


包丁が宙を舞った。


カランッ!!


「!?」


妹が叫ぶ。


「武器落ちた!!」


さらに。


孔雀が飛ぶ。


ドォォンッ!!!


巨大な羽が、

炎を纏う男を押し返す。


後ろには、

大量の水。


ぐらり。


ぐらりと、

白おじさんの身体が揺れる。


そして──


ドボォォォン!!!!


河川敷の深い水へ落下した。


大量の蒸気。


白煙。


爆音。


みんな息を呑む。


静寂。


水面だけが揺れていた。


姉は息を切らしながら、

ゆっくり前を見る。


「……勝った?」


誰も動かない。


アヒル達も固まっている。


孔雀だけが、

静かに水面を見つめていた。


その時。


ボコ……


水の中から、

赤い火が揺れた。






………………




ボコ……。


ボコボコ……。


赤い光が、

水の中で揺れていた。


誰も喋れない。


河川敷には、

蒸気だけが漂っている。


そして。


ザバァッ──。


ゆっくり。


本当にゆっくり、

白おじさんが水面から現れた。


白スーツは水を吸って重そうだった。


髪も濡れている。


だが。


眼鏡の奥の目だけが、

異様に鋭い。


「…………」


ぐらり。


ぐらり。


揺れながら立ち上がる。


ホラーだった。


完全に。


妹が青ざめる。


「な、なんで立てるの……」


姉も後退る。


普通なら終わってる。


水。

消火。

蒸気。

転落。


全部入った。


なのに。


白おじさんは、

ゆっくりこちらへ歩き始める。


ジュッ……


濡れた服から、

まだ煙が上がっていた。


嫌な予感がした。


姉は振り返る。


誰もいない。


「……?」


気のせい。


そう思った。


でも。


もう一度、

妙な寒気がして振り向く。


その瞬間。


白おじさん「──後ろだ」


姉「ッッッ!!!!!」


いた。


真後ろ。


いつの間にか、

白おじさんが立っていた。


近い。


近すぎる。


濡れた白スーツ。


水滴。


焦げ臭い匂い。


そして、

ギラつく目。


「いやあああああ!!?」


姉が転びそうになる。


包丁は落としたはずなのに、

いつの間にか手には巨大なフライ返しみたいな鉄板武器。


終わった。


そう思った瞬間。


バサァァァッ!!!!


孔雀が飛び込んだ。


「ォォォォォォォ!!!!」


羽が広がる。


極彩色。


そして次の瞬間──


シュババババッ!!!!


羽が飛んだ。


まるで手裏剣。


「!?」


白おじさんが腕で防ぐ。


ガガガガッ!!


羽が白スーツへ突き刺さる。


強い。


孔雀、

思ったより戦闘民族だった。


「今のうち!!」


妹が叫ぶ。


アヒル達も一斉に動く。


「クェーー!!」


姉は立ち上がり、

全力で走る。


だが。


後ろから。


ゴォ……


嫌な熱を感じた。


振り返る。


そこには、

羽が刺さったまま笑う白おじさんがいた。


「……素晴らしい」


炎が再び燃え上がる。


「ますます“揚げたく”なった」


怖すぎる。



……………


風が止んだ。


河川敷は、

燃え跡と蒸気でぐちゃぐちゃだった。


姉達は息を切らしながら後退する。


孔雀も羽を乱している。


アヒル達は、

低い声で唸るように鳴いていた。


その時。


白おじさんが、

静かに何かを持ち上げた。


白い布。


ふわり。


夜風で揺れる。


「……え?」


妹が目を細める。


それは。


羽毛布団だった。


真っ白で、

やわらかそうで、

妙に綺麗な布団。


だが。


姉は気付いてしまった。


混ざっている。


焦げた羽。


見覚えのある、

大きな白い羽。


ポケットの中にある羽と同じだった。


「……まさか」


白おじさんは、

静かに布団を地面へ置いた。


「無駄にはしておらん」

「あの鳥を返しにな。」

その言葉で。


空気が変わった。


アヒル達が止まる。


全員、

布団を見ていた。


仲間だった。


一緒に逃げた。


一緒に戦った。


あのガチョウ。


その羽が。


羽毛布団になって返された。


沈黙。


そして。


「…………クェ」


一羽のアヒルが前へ出た。


小さい体。


でも、

震えていた。


怒りで。


「クェェェェェェェ!!!!」


絶叫。


次の瞬間。


アヒル軍団が突撃した。


「ガァァァ!!!」

「クェーーー!!!」


水を蹴る。


地面を滑る。


数十羽が一斉に向かう。


姉が叫ぶ。


「待って!!危ない!!」


でも止まらない。


仲間だった。


家族だった。


なのに。


なのに。


“加工”された。


白おじさんは、

静かに炎を構える。


だが。


その瞬間。


孔雀が前へ出た。


バサァッ!!!


巨大な羽が広がる。


アヒル達を守るように。


姉もバットを握り直す。


妹は涙目で消火器を抱えた。


もう怖いとかじゃなかった。


みんな怒っていた。


河川敷に、

鳥達の叫びが響いたのだった。





…………



羽毛布団を抱えたままでは、

走れない。


戦えない。


姉は震える手で、

それを地面へ置いた。


ふわり。


白い羽が夜風で揺れる。


静かだった。


でも。


その静けさが逆に苦しかった。


妹が小さく言う。


「……あとで、ちゃんと持って帰ろうね」


姉は答えられなかった。


ただ、

強く頷く。


その時。


ゴォォォ──……


熱風。


白おじさんの背後で、

炎が巨大化していく。


水で濡れたはずなのに、

逆に不気味だった。


まるで、

怒りで燃えているみたいに。


「……来る」


孔雀が羽を広げる。


アヒル軍団は低く構えた。


妹は消火器を握り締める。


姉はバットを持ち直した。


河川敷。


夜。


燃える空。


ボロボロの仲間達。


完全にクライマックスだった。


そして。


白おじさんが、

ゆっくり腕を上げる。


ボッ!!!!


巨大な炎。


今までよりデカい。


熱い。


空気が歪む。


「散開!!!!!」


姉が叫ぶ。


次の瞬間。


ドゴォォォン!!!!


炎が河川敷を薙ぎ払った。


爆風。


熱風。


地面が割れる。


「クェェェ!!」


アヒル達が散る。


孔雀が前へ飛ぶ。


バサァァッ!!!!


巨大な羽で炎を逸らす。


だが全部は防げない。


羽の先が焦げる。


「ォォォ……!!」


苦しそうな声。


妹が消火器を噴射。


ブシュゥゥゥッ!!!


白煙が広がる。


姉はその中を突っ込んだ。


怖い。


近い。


でも止まれない。


「あああああああ!!!!!」


バットを振る。


ガンッ!!!!


カーネルおじさんの腕へ直撃。


重い。


硬い。


成人男性、怖すぎる。


だが。


「クェェェ!!!」


アヒル達が足元へ飛び込む。


滑る。


崩れる。


一瞬、

体勢が揺れた。


「今!!」


妹が叫ぶ。


孔雀が飛ぶ。


夜空を切る。


極彩色の羽が、

月明かりで光る。


そして──


シュバァァッ!!!!


無数の羽手裏剣。


炎の中へ突き刺さる。


ガガガガガッ!!!!


ついに。


ついに白おじさんが膝をついた。


「……ッ」


やっと見せてくれた。

倒したかった人の苦しそうな表情。


河川敷が静まり返る。


姉は息を切らしながら、

バットを構える。


あと少し。


本当にあと少しだった。





………




孔雀の呼吸が荒かった。


「ォ……ォォ……」


羽はボロボロ。


焦げ跡。

裂けた跡。

無理やり飛ばした羽手裏剣の痕。


もう、

最初の美しい姿じゃない。


それでも。


孔雀は前を見ていた。


白おじさんを。


炎の向こうで、

まだ立ち上がろうとしている怪物を。


姉は気付く。


「……飛べなくなってる」


妹の顔が青ざめた。


「そんな……」


孔雀は、

もう高く飛べない。


羽も減っている。


つまり。


もしここで倒れたら──


終わる。


誰も逃げられない。


孔雀だけが、

今まで爆風と炎を防いでいた。


沈黙。


その時。


孔雀が、

ゆっくりこちらを振り返った。


月明かりの中。


静かな目だった。


まるで。


“あれは…見たことがある覚悟を決めた目”。


「……ダメ」


姉が一歩前へ出る。


「行っちゃダメ!!」


だが。


孔雀は止まらなかった。


バサ……。


ボロボロの羽を広げる。


そして。


ドォォンッ!!!!


地面を蹴った。


「待ってぇぇぇぇ!!!」


孔雀は炎へ飛び込む。


一直線。


迷いなく。


まるで、

最初のガチョウみたいに。


「ォォォォォォォォ!!!!」


叫び。


極彩色の羽が、

夜空へ散る。


白おじさんが顔を上げる。


「……!」


次の瞬間。


ドゴォォォォンッ!!!!


孔雀の体当たりが直撃した。


炎が揺れる。


河川敷が震える。


だが。


それを見たアヒル達が、

止まらなかった。


「クェェェェ!!!」

「ガァァァ!!!」


次々と飛び出す。


姉の顔から血の気が引く。


「やめて!!」


でも。


アヒル達は振り返らない。


仲間が行った。


なら自分達も行く。


そんな勢いだった。


小さな身体で、

巨大な炎へ突っ込んでいく。


完全に、

“覚悟”だった。


肉になる覚悟すらある。


妹がその場に崩れ落ちる。


「なんで……」


姉も呆然としていた。


止められない。


間に合わない。


炎。


叫び。


羽。


全部がぐちゃぐちゃだった。


その瞬間。


姉のポケットから、

焦げたガチョウの羽が落ちた。


ふわり。


地面へ落ちる。


姉はそれを見る。


そして。


何かが変わった。


震えていた手が、

ゆっくり止まる。


姉は、

静かにバットを握り直した。


目の前では、

仲間達が命懸けで道を開いている。


なら。


ここで止まるわけにはいかなかった。





………



「クェェェェェ!!!」


アヒル達の叫びが、

夜の河川敷へ響く。


炎。


蒸気。


爆風。


その中を、

小さな身体が突っ込んでいく。


「ォォォォォォ!!!!!」


孔雀が最後の力で羽を広げた。


極彩色の羽が、

燃える夜空で散っていく。


綺麗だった。


なのに、

泣きそうになるくらい必死だった。


白おじさんが、

炎の中で腕を振るう。


ドゴォォン!!!!


爆発。


熱風。


だが。


アヒル達は止まらない。


「ガァァァ!!!」


足元へ飛び込む。


滑らせる。


噛みつく。


邪魔をする。


泥だらけになりながら、

必死に食らいつく。


姉は叫んだ。


「みんなぁぁぁぁ!!!!」


妹も涙ぐみながら叫ぶ。


「頑張れぇぇぇぇ!!!」


その声に、

アヒル達がさらに鳴く。


「クェーーー!!!」


完全に少年漫画の最終回だった。


孔雀が、

最後の力を振り絞る。


バサァァァァッ!!!!


巨大な羽ばたき。


爆風。


炎が逸れる。


その一瞬。


白おじさんの胸元が、

ガラ空きになる。


姉の目が見開いた。


「……今だ」


ポケットの中。


焦げたガチョウの羽を握る。


怖い。


でも。


仲間達が命懸けで繋いだ。


なら。


「行っけえええええええ!!!!」


姉が走る。


バットを握って。


妹が後ろから消火器を噴射する。


ブシュゥゥゥゥッ!!!


白煙。


アヒル達が突撃。


孔雀が羽を広げる。


そして。


姉が、

炎の中心へ飛び込んだ──。



…………



ゴォォォォ……


燃えていた炎が、

ゆっくり小さくなっていく。


静かだった。


さっきまでの爆発音も、

叫び声も、

もうない。


河川敷には、

焦げた匂いだけが残っていた。


姉のバットは、

地面へ落ちている。


最後の一撃。


あれで終わった。


白おじさんは、

崩れた橋の近くで動かない。


白スーツは黒く焦げ、

炎も消えていた。


勝った。


本当に、

ギリギリで。


でも。


代償は大きかった。


「……ぅ」


妹が膝をつく。


ボロボロだった。


服も泥だらけ。


火傷。

擦り傷。

煙で喉も痛い。


そして。


孔雀。


極彩色だった羽は、

かなり抜け落ちていた。


もう飛べない。


静かに横たわっている。


アヒル達も、

ぐったりしていた。


「クェ……」


か細い声。


それでも、

生きていた。


姉は泣きそうになる。


「……みんな、生きてる」


妹も目を潤ませながら頷く。


「うん……」


姉は、

そっとアヒルを抱き上げた。


軽い。


小さい。


なのに、

命懸けで戦ってくれた。


妹は孔雀のそばへ行く。


「ありがと……」


孔雀は静かに目を閉じた。


その姿は、

最初に現れた時よりずっと小さく見えた。


そして。


地面には、

白い羽毛布団。


ガチョウだったもの。


姉はゆっくりそれを持ち上げる。


ふわり。


まだ少し暖かい。


姉は、

静かに呟く。


「……帰ろう」


妹が頷く。


もう戦いは終わった。


残っているのは、


帰り道を探すことだけ。


夜風が吹く。


焦げた河川敷を、

姉妹はゆっくり歩き始めた。


傷だらけの鳥達を抱えて。


仲間だった羽毛布団を持って。


空には、

少しだけ朝の色が混ざり始めていた。





………



河川敷を抜けた頃には、

空が白み始めていた。


「……終わった?」


妹が掠れた声で言う。


姉は答えられない。


まだ耳鳴りがしていた。


爆発音。

炎。

鳥達の叫び。


全部、

頭の奥に残っている。


でも。


後ろを振り返っても、

もう炎は追って来なかった。


静かだった。


姉は、

そっとアヒルを抱え直す。


軽い。


孔雀も、

妹の腕の中で動かない。


「……生きてる?」


「うん……たぶん」


羽は熱かった。


でも、

呼吸はしている。


それだけで十分だった。



街へ戻る。


朝のコンビニ。


新聞配達。


通学の学生。


全部、

普通の日常だった。


誰も知らない。


数十分前まで、

河川敷で圧力鍋隕石が降っていたことを。


姉は変な笑いが出そうになる。


「……夢みたい」


妹も小さく笑う。


でも。


抱えている鳥達の重さだけが、

現実だった。



動物病院の先生は、

孔雀を見た瞬間、

言葉を失った。


「……これは」


姉が慌てて言う。


「助かりますよね!?

 この子達、すごく頑張ったんです!」


先生は、

静かに羽を触る。


焦げ跡。

傷。

呼吸。


全部を見て。


そして、

困ったように目を伏せた。


「……鳥は、とても繊細なんです」


妹の顔が止まる。


「え……」


「人間なら耐えられる傷でも、

 小さな身体には大きすぎる」


静かだった。


さっきまでの戦場みたいな音はない。


だからこそ、

その言葉が重かった。


姉は、

何も言えなくなる。


やっと帰って来れたのに。


やっと助かったのに。


孔雀が、

小さく鳴いた。


「……ォ」


まるで、

大丈夫だと言うみたいに。

………

家に帰ってから最初に弱ったのは


特攻していた小さいアヒル。


以前みたいに走れない。


水辺にも行かない。


でも、

私達が近付くと、

ちゃんと寄ってくる。


妹が泣きながら撫でる。


「……頑張ったもんね」


その夜。


羽毛布団の近くで、

静かに眠るみたいに動かなくなった。

大好きな親のアヒルの元で。

………


次は、

一番元気だったアヒル。


まだ仲間を探すみたいに、

河川敷の方向を見てる。


時々、

「クェ」

って鳴く。


まるで、

あの日の続きを探してるみたいに。


でも、

だんだん声も小さくなる。


孔雀は最後まで生きる。


最後まで姉妹を安心させる役

だから。


ボロボロなのに、

私達二人が泣いてると、

無理やり羽を少し広げようとする。


でももう、

綺麗には開かない。


そして最後の日。


朝日。


窓際。


孔雀は、

静かに外を見ている。


姉が近付くと、

小さく鳴く。


「……ォ」


最初に会った時みたいな、

低い声。


姉は、

涙を堪えながら笑う。


「……ありがとうね」


孔雀は、

ゆっくり目を閉じる。


羽が、

朝日に少しだけ光る。


それから私達は、河川敷の近くへ、何度も花を置きに行った。

何度も。

何度だって。


羽毛布団は、今も使えないまま、私達の部屋にある。


あの夜、鳥達は本気だった。

だから私達も、忘れてやらない

登場していただいた方々

アヒル達

ガチョウ

白おじさん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ