クリスマスに届くものは。
聖夜といえば、何を思い浮かべるだろか?
恋人との時間、家族の温もりなど色々あるだろ。
だが――私が思い出すのはいつも、雪の降る静寂の商店街だ。
昼間はそれなりに賑わう商店街も、高齢化が進んだ今ではかき入れ時のはずの聖夜をスルーする始末である。
でも、気持ちは分かってしまう。
誰も、掻いたはじから積もっていく日に店など開けたくはない。
そう、私の向かうあの店以外は。
雪掻きした後に、薄く積もった白い床を私は歩いている。
足音はない、だが敷かれた白い床を踏むたびに小さな肉球が痕跡を作ってしまう。
まぁ、バレたところで問題はない。
どうせいつもの様に、あの店は私を迎え入れるのだから。
そう思案しながら歩いていると、見えてきた。
月夜と雪しかないはずの空間に、煌々と灯る人口の光。
その店は、雪の日に特に需要のない陶器類を販売している個人店。
それも、店主の美的センスのない手作り陶器を売っているのだ。
需要供給が成立していないのだから、こんな雪が降る日くらいさっさと閉めればいいものを。
私が見上げるこの男は――。
「来たか、あんこ」
私を、待っているのだ。
足音のない私を、足跡を頼りに。
「全く、いつも来るのが遅いんじゃ」
赤い鼻になりながら、ジジイは文句を言う。
無茶を言うな。
ここまで来るのにだって色々大変のなに、配達屋じゃないのだから時間指定まで対応はしていない。
「まぁ毎年来てくれるだけでうれしいよ、あんこ」
当然だ。
だってお前は、私が来なければいつまでも待っているじゃないか。
「まぁいいあがれ、寒かったろう」
寒いのはお前だけだ。
そう胸中で愚痴りながら、立て付けの悪いシャッターをくぐり勝手知った我が家に入っていく。
「お前の足跡は、相変わらず可愛いな」
シャッターを閉めたジジイが、私の足跡を追いながら呟く。
「お前は成猫になっても、あまり大きくならなかったからな」
やかましい、これはこれで需要があるのだ。
濡れた足で、店を汚してやろうか?
「でも――この足跡が来るたびに、思う出すのう」
ジジイが呟く、懐かしむように。
あるいは、呪うように。
「お前はもう、この世におらんのじゃな」
……。
「妻に先立たれ、クリスマスがお前の命日になってからクリスマスなぞ来なければいいと思った」
……。
「だが、お前が来てくれると分かった時からこの日だけがわしの楽しみになった」
……。
「けど――もうそんな手間は掛けさせん、もうすぐわしもそっちに行くから待っておれ」
ジジイはそういって朗らかに笑った。
……何を、笑っているのだ?
このジジイは、本当に分かっていない。
あぁ本当に腹が立つ、私がわざわざここに来る理由を理解していないのか?
今ほど、自分が猫であることを恨めしく思ったことはない。
私には、自分の気持ちを伝えるすべがない。
なら毎年、ここにきてやる。
この日を、ジジイの生きる目的にしてやる。
そして、いずれ死ぬとしても――。
その笑顔で、死ね。
そんな憤った私の視線を、ジジイは笑って受け止めるのだった。




