第6話 マチスの激怒、ペルリタの冷徹
ペルリタと和解してほっと一息ついた瞬間、首筋に冷たい衝撃が走った。
ペルリタが一瞬早く僕のうしろをカバーして、マチスさんの斬撃を跳ね返した。
「ペルリタ、正気に戻りなさい、お前は、その変質者にテイムされ洗脳されています」
「失礼ですねお父様、リュートさまは私のご主人様です、誓って変質者ではありません、気高い心の持ち主なのです」
「それが騙されているというんだ、お前のその気持ちはテイムスキルによる幻覚にすぎないのだっ!」
ペルリタとマチスの親子はもの凄い速度で斬り合っていた。
「ペルリタ、うっかり流れで使っちゃったけど、やっぱり人をテイムするのは良く無いと思う。外すから、君の方でも魔力のラインを外してくれ」
「駄目ですわ、何をおっしゃっているの? テイムを解いたらお父様にあなたは一瞬で首を落とされますわ」
いや、確かにペルリタが介入してくれなかったら、僕の首がポロリと落ちた感じはするけども、だけども。
「ペルリタ、私の可愛い娘よ、今、その変質者を殺してテイムを解いてあげるよ」
「絶対にやらせません、お父様といえど、ご主人様には指一本触れさせるものですかっ!」
なんだかヒートアップしているー。
そして、僕の力が三割ほどペルリタに乗ってる~。
ペルリタの能力も三割ほど僕に来ている。
なんだこの、双方向で増えてパワーアップした三割は。
テイムの特典だろうか。
パワーアップしたペルリタはマチスさんと互角に斬り合っていた。
「凄い、無限に力が湧いてきます。これもご主人様の愛のなせるわざなのっ」
「くそっ、強い、目を覚ましなさい、ペルリタ」
「ペルリタ、お父さんを殺しちゃ駄目だっ!」
「ああもう、面倒臭いですわね」
僕はマチスさんを説得することにした。
とりあえず、ペルリタがマチスさんを殺すのも駄目だし、ペルリタが死ぬのも、僕が死ぬのも駄目だ。
話合えば解ってくれる。
そう、いつも神父さんは日曜説教で……。
いや、神父さんは真っ先に実力行使に出てるけど、出てるけど、まあ、しょうがないんだ。
それでも僕らは女神の愛を信じないと駄目なんだ。
「マチスさん、僕は誓う、この力を間違った事には使わない事を、だから、だから、剣を引いて……」
「そんな変質的なスキルの持ち主が何を言おうと信じる事は出来ない。口ではなんでも言える、だが、スキルは嘘を吐かない。リュート、お前は変質者の嘘つきだ」
「どうして解ってくれないんだ、僕はあなたが死ぬのも、ペルが死ぬのも嫌なんだっ」
「まあ、愛称で呼んでくださるのね、ご主人様」
うるさい、だまれペル。
特殊な歩法で詰めたり離れたりしてペルとマチスさんの親子は戦い続ける。
だんだんと、ペルが押されてきた。
やはりスキル無しと【処刑術】スキル持ちでは勝負にはならないのか。
「あと二手でペルリタ、お前は死にます、良いのですか」
「かまいません、私はご主人様は卑屈な変質者と誤解して酷い事を言いました。でも彼は素晴らしい人なのです。私が命を賭けてでもお守りします」
「やめろ、僕はそこまでは望んでいないっ!」
ペルはこちらを見て微笑んだ。
「出来の悪い奴隷でごめんなさい。私がこうしたいのです」
とんとマチスさんが踏み出した。
必殺の一撃が大上段から振り下ろされる。
そして、チェスのように詰められた状況はペルの回避をゆるさない。
「ああ、やっぱりお強いですわ、お父様……」
「馬鹿娘め」
ペルの頭蓋を真っ二つに剣が割る、という瞬間、空から真っ白な光が差してきて、白い衣白い羽の美しい青年が現れた。
時間が奇妙に引き延ばされた感じでマチスさんもペルも動きを止めた。
「義人マチス、その娘ペルリタ、双方剣を引くがいい」
ハープの音色のような美麗な声だった。
大天使さまだ。
「だ、大天使リカルエルさま、地上にご顕現とは、ご尊顔を拝し奉り望外の喜びにあふれ破裂しそうでございます」
マチスさんとペルリタはひざまずいた。
釣られて、村中の人間がひざまずいた。
僕は最後にひざまずいた。
「【幼女テイム】は、かの暴虐な幼女魔王ピエラを倒す為に女神様がリュートに下された決戦用スキルである」
は?
なんだ、そのでっち上げは。
というか、魔王様は幼女なの?
「幼女魔王ピエラの凶悪スキル【支配】に対抗するための対人テイムである、一般人に害を及ばさぬよう、幼女限定にしたが、逆に人聞きが最悪となった」
最悪だよなあ、でも決戦スキルなのか。
などと、村人が噂をしていた。
でも僕は知っている、単にメロディが割ってしまって間違えてくっつけて生まれた人聞きの悪いスキルだということを。
「義人が親子で殺し合う事は無い、かの者リュートは勇者の協力者として魔王に雄々しく立ち向かうであろう」
「ははあ、大天使さま、女神さまの深謀に気付かず、表面的な聞こえの悪さで禁忌スキルと思い、狩ろうとした私の目の曇りが許せません」
「よい。では、リュートを害すなかれ。さらばだ」
大天使さまは現れた時のように唐突に去って行った。
……。
いったいどうなっているのだろう。
と、ペルが肩を寄せてきて、手を握ってきた。
「な、なんだよ」
「さすがはご主人様です、わたくしは信じておりました。これで誰はばかる事無く、主従関係を結べますね」
「あ、いや、テイムはずそうよ」
「嫌でございます」
マチスさんがひざまずいたまま、ブツブツと独り言を唱えながら、凄く良い笑顔をしていた。
「そうか、決戦スキルであったのか、何と言う深慮遠謀なのか、天界の方々のなさることに間違いは無いのだなあ」
マチスさんの信仰の深さが怖いなあ。
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