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第5話 ペルリタとの死闘

 ペルリタの雰囲気が重く尖った。

 こちらを人の屑と見下す事はやめたようだ。

 そうだ、それでいい。

 同じ殺されるにも馬鹿にされたまま殺されるのはまっぴらごめんだ。


 ペルリタの歩法は特殊だ。

 一瞬で距離を詰めて、思ってもみない方向からレイピアが飛んでくる。

 避けるとすくい上げるようにパーリングダガーが来る。

 なんとか杖を当てて攻撃を避ける。

 なにげに杖は防御力が高い武器なんだ。


 踊るようにペルリタは僕を蹂躙していく。

 足を、腕を浅く切って血を流し、動きを鈍くさせる。


 くっ。


 小さい動きだから避けにくい。

 右手にも左手にも傷が出来、痛みで動きが遅くなる。

 逆にペルリタの動きは華麗に素早くなっていく。


 もうすぐ、僕は死ぬ。


 それは岩のような硬さの直感で、恐怖で背筋に震えが走る。

 心が折れそうになる。


 妹が、妹が……。


 妹がなあっ、死んだんだっ、疫病でっ!!

 それに比べたらなあっ!!

 自分の傷や痛みなんかはなあっ!!

 なんでも無いんだよっ!!

 メリーは小さかったのにっ!!

 怖かったのにっ!!

 疫病を家族に移さないようにと一人で死んだんだっ!!

 お前は健康で、生意気で、明るい将来が決まっていて、そんな奴に殺されるなんて、いやなんだよっ!!


 満身創痍だった。

 体中に傷が出来た。

 血が足りなくなってふらふらした。


 その姿を見て、ペルリタは、ふふっと笑った。


「人の死に際を見て笑う奴がいるかっー!!」


 僕は絶叫して杖を滅茶苦茶に振り回した。

 ペルリタが息をのんだ。

 技術的な事では無いだろう、この後に及んで怒鳴れる僕に怯んだのだ。


 むくり。

 と、心の深い所で何かがうごめいた。


 なんだろう、これは?

 なんだか、懐かしい感触のある、だが見上げるほどの大きな力が腰骨の向こうから、背骨に沿ってぞわぞわと上がってくる。


 それは悲しみの匂いがした。

 なんだか甘いお菓子のような匂いがした。

 それは、得体の知れない巨大な力の奔流だった。


 時間がビキリと音を立てて止まった。


 ペルリタと僕だけが動いている。

 声が出ていた。

 僕は、自然に、そのスキル名を放っていた。


繋がれ(テイム)!』


 ペルリタの心と僕の心が直接、魔力によって繋がった。


「これが幼女テイム……」


 どっとペルリタのこれまでの人生の記憶が奔流のように流れ込んできた。


 彼女は教会の処刑人の家系に生まれた。

 血と拷問が小さな彼女を包んでいる世界だった。

 誰も、誰も、彼女に笑いかけてくれなかった。

 面と向かって指を指して嗤う者は居なかった。

 ただ、ひんやりとした拒絶だけが彼女を包んでいた。


 母が死んだ。

 ペルリタを唯一愛してくれて、無条件の笑顔をくれていた母が疫病で死んだ。


「大丈夫よ、世界の全てがペルリタを憎んでも、お母さんだけは味方だからね、だから元気を出してね」


 そう言って笑ってくれた母が死んだ。


「お父様を憎まないでね、ペルリタ。処刑のお仕事は誰かがやらなければならないお仕事で、ペルリタもまた処刑人の旦那様に貰っていただいて、家を支えて行くのですよ」


 母はそう言って笑って逝った。


「だから、だから、私はっ!! 処刑人にならなければならないのっ!! お父様っ!!」


 そういうペルリタに向けて父は静かに笑って首を横に振るだけだった。


「ペルリタ、君が処刑人にならなくても良いんだよ、処刑人の家系から腕利きの旦那様をもらおう、それで良いんだよ」

「いやです、私は処刑人になります、お母様の遺言だから!」


 強情を張る愛娘に父マチスは武道を教えてみた。

 痛い目に合えば、きっと目が覚めるだろうと思っての事だった。


 だが、ペルリタには武道の才能があった。

 罪を犯した高位貴族のご婦人の為に女性の処刑人の需要もあった。

 マチスは折れて、ペルリタが処刑人になることを認めた。


 だが、その修行は血と汚物と拷問にまみれ、少女にとっては辛いものだった。

 神学校でも誰もペルリタに声を掛けようとはしなかった。


 そしてスキル発表会の今日、禁忌スキルの持ち主の少年を処刑することで実績を上げようとしたのだ。


 僕はペルリタを理解した。

 彼女も、僕の記憶を見たようだった。

 涙が浮かんでいる。


「あなたは、天使になった亡くなった妹さんのために、そんな人聞きの悪いスキルを、あえて一年間、その身に宿そうというのね」

「そう、僕はお兄ちゃんだから」


 ペルリタは身をよじって泣き始めた。


「そんなに、そんなに傷つけられて、死の恐怖に打たれても、あなたは、リュートさまは、私に立ち向かったんですね。武道もなにも知らないのに」

「君の人生も酷いね、僕でよければ友達になるよ」


 ペルリタは首を振った。

 そしてレイピアをカタリと床に置いた。


「あなたが、私のご主人様(マスター)です」


「え、いや、それは良く無いよ、と、友達からやろうよ」

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そう来たか・・・
そうか・・・心はまだ幼い娘のままだったのか。
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