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第4話 巡回処刑人見習いペルリタ

 マチスさんはどう見ても温厚な教会関係者だった。

 まさか、巡回処刑人という聞いたこともない物騒な職業の人だなんて。


「禁忌スキルを甘く見てはいけません。五百年前に悪女王エリンカが持つ【魅了】によって、大陸全土は悪夢のような戦乱が巻き起こり、全人口の半分が死亡いたしました。どんな人間も彼女の【魅了】に抵抗することはかなわず、ただ唯一、エリンカの息子フランの【冷血】だけがそれを打ち破り、エリンカの首をはね、彼女の王朝を終わらせました」


 悪女王エリンカの名前は僕も寺子屋で習って知っていたけど、禁忌スキルのせいだったなんて、そんなに【魅了】がすごいのか。


「また三百年前の悪食帝ヨーハンは、その禁忌スキルである【洗脳】で臣下を惑わし、大帝国を築きました。異世界から呼び出した勇者シイタケだけが、そのスキルが無効で、彼が彼を打ち倒し、帝国を滅ぼしました」


 去年の秋に来たお芝居で見た。

 悪帝ヨーハンは邪悪な権化のような男で、人々を操りくるしめたという。

 【幼女テイム】は、そんな邪悪王、邪悪女王に匹敵するほどのスキルだとでもいうのか。

 メリーのドジで発生したスキルなのに。


 教会の中はシンとして咳をする声も無い。

 皆、僕の事はもう、死んで行く家畜を見るような目で見ている。

 ただ、お父さんだけが台上に上がろうとして寺男ともみあっている。


「リュートくんのスキルは【幼女テイム】です、幼女と制限はありますが、対人のテイム技術です。人の心を家畜のように操る技術なのです。そして皆さんお聞き下さい。スキルは進化するのですよ」

「ぼ、僕は使いません」

「スキルは進化します、使えば使うほど練度はあがり、そして範囲が広がったり、深度が深くなったりします。私のスキルは【処刑術】ですが、若い頃に比べ、今では何倍もの強さとなっています」


 は、話を聞いてくれよ。

 これは間違いなんだ。

 メリーに、いや、メロディに聞いてくれよ。


 ああ、でも天使は夢の中にしか現れない。

 誰も僕の無実を証明してくれる人はいない。

 両親は、妹も僕も死んでしまって、どんなに悲しむ事だろうか。


「さあ大人しくしなさい、なに、目をつぶっていれば痛みもなくすぐに女神さまの元に送り返してあげますよ」


 マチスさんの声は柔らかくて優しい、けれどそれは死の誘いだ。

 僕は羊飼いの杖を構えた。


「抵抗はおよしなさい、痛みが長引くだけですよ」


 壇の奧にいた尼僧姿の娘さんが前に出て来た。


「お父様、わたくしが処刑いたしますわ」

「ペルリタ……、そうですね、そろそろあなたも実績を積まねばなりませんが、ですが、彼のスキルの幼女の範囲がどこまでかが不明です、念の為に……」

「お父様、二ヶ月前にわたくしは初潮を迎え、お祝いをしたではありませんか。もはや幼女ではありませんよ」

「たしかに、スキルを授与される十五歳は来年ですが、確かに幼女ではありませんね」

「そうですとも、是非ともこの処刑を成し遂げて、来年には素晴らしいスキルを頂きませんと」

「解りました、ペルリタの腕ならば大丈夫でしょうが、油断をしてはなりませんよ」

「はい、お父様」


 ペルリタと呼ばれた美しい少女僧侶がありがたくも僕の処刑をかってでてくれたらしい。


 いらっ。


 なんだよ、お前は生きてるくせに。

 メリーは死んで天使になっちゃったんだぞ。

 ふざけるなよっ。


 僕は羊飼いの杖を握りしめた。

 武道の経験は無いが、羊飼いをやっていると、よく狼におそわれる。

 そんな時はこの杖を振り回して追い払うんだ。

 勝てないかもしれないけど、君なんかに斬られるのはまっぴらごめんだ。

 出来るだけ抵抗させてもらう。


「ふふ、勝てるつもりなのかしら、幼女に欲情する変態のくせに」

「黙れ、何も知らないくせに、巡回処刑人というのは罪人をあざ笑うのが仕事か」

「くっ」


 ペルリタの表情が強ばった。

 そのままお面のような無表情のままで彼女は腰のレイピアを抜き、左手にパーリングダガーを持った。


 ……。

 うん、ペルリタが、すげえ強いのが構えで解った。

 ちゃとした武道をやっていた感じだな。

 速度と器用さで戦うタイプだな。

 僕は杖を体の前に立てるように構えた。


 ペルリタがじわじわ距離を詰めてくる。

 殺気があたりに張り詰めていく。


 ざっ、と音がしたと思ったら、不思議な歩法でペルリタが目の前にいて、レイピアを凄い速度で突いてきた。


 ガッ、ガガガガッ、ガキュン。


 ガキュンは左手のパーリングダカーで杖を絡め取ろうとした時の音だ。

 トンと、ペルリタは後ろに飛んで、眉を上げた。


「人間の屑なのに、意外にやるわね、褒めてあげるわ」

「うらああっ!!」


 僕は、喋っている間に杖を大上段に振り上げてペルリタに殴りかかった。

 まさか反撃されるとは思っていなかったのか、焦った顔でペルリタはパーリングダガーで受けた。

 僕はそのまま踏み込み杖の中間を掴んで下の方を振り上げた。

 ペルリタはするりと避けて下がった。

 くっそ、敏捷性が高い。

 一瞬の虚を突いての奇襲だったけど、避けられた。


「罪を……」

「うるさいだまれっ!! 黙って戦えっ!! 口で人を殺す罪悪感を薄めようとすんなっ!!」


 僕が怒鳴るとペルリタはゴクリと唾を飲み込み、歯を食いしばった。


 雰囲気が変わった。

 やっと、ペルリタが僕の事を本当に見た、そんな感じがした。

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― 新着の感想 ―
人間相手の戦闘より、狼の集団と戦うほうが大変そう…。(大体狼は集団行動)
動揺してるだろうに、それでも不条理に怒りつつ相手を深く洞察してるな
おお、ブッダよ、寝ているのですか… 神の名の元に罪無き幼い命が刈り取られようとしています! ナントカシテー
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