第35話 マルーンMarkⅡ現る
「マルーンちゃんは、お利口になりたいの?」
「あ、いや、なりたいというか、その、馬鹿だとさあ、なんだか扱いがわりーんだよ、リュートもなんか幼児に対するみたいになるしよ」
「あ、それはごめんね」
「いいんだ、それはよ、慣れてるからさ。ただ、頭が良くなるとどんな感じなのかなあって興味があって、というか試験の時だけテイムされるのも良いなあって」
「いいのかよ、テイムされるってことは奴隷になるって事だぜ?」
「いや、見てたらリュートは別に奴隷に怒鳴ったり、ぶったりはしてねえし、どっちかというと丁寧で妹に対する感じで接してるから、じゃあ、まあ良いのかなと、別にテイムしたり外したりもできんだろ?」
「うん、なんとなくお互いの合意ならテイムを外せる感じはする。ペルさんも一回外そうよ」
「いーやーでーすー」
言葉を伸ばしながら拒否されたぞ。
とりあえず試しにテイムというのも有りだよね。
マルーンちゃんは、知能が低いからか何となく幼女っぽいし、テイムは通りそうだ。
「じゃあ、放課後にでも試してみようか」
「え、今でもいいぜ」
「もうすぐ昼休み終わりだから」
「そうか、まあいいや、ペルリタ、ごちそうさま、ご飯おいしかったー」
「ごちそうしゃま、ペルねえちゃん、美味しゅうございました」
『良いのよ、じゃあ、放課後また会いましょうね、マルーン」
「おう、わかった、ペルリタ、カンパもなあ」
「まってゆ、マルーン」
カンパはマルーンちゃんを同年代呼びか、さもありなん。
マルーンちゃんはニパっと邪気の無い笑いをして、カンパの頭を撫でた。
みんなでF組寮を出て、学園に向かう道を歩く。
「あれだあれだ、お前達は、そのもう友達って言っていいか?」
「いいよマルーンちゃん」
「おう、問題ねえよ、マルーン」
「俺もまあ、良いぜ」
『私も友達にゃ』
「おう、メロディもか。うんうん、私は馬鹿だから、なかなか友達ができなくて、今日は一気に沢山友達ができて嬉しいな」
やっぱり、頭が悪いと、色々と大変なんだろうなあ。
わりとぞんざいに扱われたり、軽く見られたりしたんだろうね。
五時間目前に教室に入れた。
午後の授業は眠くていけないね。
F組の生徒は三十人ぐらい居るんだけど、一人一人に色々な事情があるんだろうなあ。
この勇者学園では、F組の生徒は人権を認められて無い感じなんだけど、でもそれは良く無いよね。
スキルは人が十五歳までに培った努力が形になる物なんだから、どんなスキルであろうと、馬鹿にしたり、見下したりしたら駄目だと思うな。
S組の生徒のスキルは強力だけど、たぶん魔王軍にばれて対策を練られている気がするんだよなあ。
なんとかF組の鶏肋スキルでもS組を倒せるって証明しないといけないね。
すごく難しいけど、やる前に諦めないで精一杯あがこう。
うん、マルーンちゃんの能力値も借りれたら何とかならないかな。
五時間目、六時間目と授業を受けて、帰りのホームルームを経てめでたく放課後だ。
「どうする、どこでやる?」
「そうだねえ、寮に戻ってやろうか」
「そうだな、帰るか」
「俺も見たいな」
「俺も俺も、カンパの時のテイムはいきなりだったから解らなかったからなあ」
「まあ、見た所でどうかとも思うが……、ああ、エリンも見たがるかな」
「そうですね、スキル研究家だから、見せたほうが良いかもしれませんね、僕が呼んできますよ」
「エリンって誰だ?」
「S組のスキル研究者の人だよ」
「S組は敵だからあぶない」
僕たちは顔を見あわせた。
「エリンさんは大丈夫だよ、マルーンちゃん」
「奴は研究者だから、あんまりS組の利益とか考えてないだろう」
「ビッチ先輩は悪い人じゃないよな」
「誰がビッチ先輩だっ、ジナンめ!」
扉の陰からエリン先輩が現れてジナンさんのお尻を蹴った。
「ぐおお、神出鬼没」
「私の噂をしていたね、なんだい?」
「ああ、マルーンちゃんに【幼女テイム】を掛けますので、興味があるかなって」
「あるある~~、呼んでくれなかったら、千年ほど恨む所だったよ」
「それはずいぶん長い間恨みますね」
「これがエリン? 子供じゃん」
「あーあー」
エリン先輩の目がキラキラと光った。
「うわ、なんだ、このINTの数値は、よく会話できてるな」
「そんなに酷いんですか」
「境界知性って奴だな、F組は結構緩いんだが、さすがに二年には進級できないだろうな」
「そうだ、私は馬鹿だから、リュートにテイムしてもらって知性を上げるんだ」
「おおおお、それは面白いな、うん、リュートの知性の三分の一が還流するか……、おお、一般人ぐらいには上がりそうだな」
「おお、ありがとう、エリン、嬉しいぞ」
僕たちはF組の寮に入り、食堂でテイムする事にした。
「お帰りなさいご主人様」
「主さま~~、あ、マルンもおかえり」
「おう、ありがとう、カンパ」
「ただいま、ペルさん、カンパ」
さて、マルーンちゃんを、ちゃんとテイムできるかな。
「『繋がれ!』」
テイムを宣言すると、胸の奥から繋がりが発射されて、間違い無くマルーンちゃんの頭を打ち抜いた。
マルーンちゃんはいつも悲しかった。
家族ではおねえちゃん以外はマルーンちゃんを人間扱いしてくれなかった。
生まれ損ない、駄目な妹として、一族に居ない者として扱われた。
優しかったのはお姉ちゃんだけだった。
優しくて大好きなお姉ちゃん、お姉ちゃんのためにマルーンちゃんは知性を上げたいと思った。
優しくしてくれたお姉ちゃんに、「私はお利口になったよ」と言って喜んでもらいたかった。
それが、マルーンちゃんだった。
「おおお」
「おおお」
テイムが通った。
能力が上がるのが解るね。
なんだか器用度と速度が上がった感じ。
「これが知性か……、ああそうかそうか」
マルーンちゃんはポロポロと涙をこぼした。
目の奥に知性の力が見えた。
「なぜ泣いてるの、テイムは成功したよ」
「ああ、ありがとう、主人、君は死んだ妹を助けるために……。うんうん、そうか、みんな優しい人だったんだな」
マルーンちゃんは優しい目で我々を見た。
メロディを優しく抱き上げて背中を撫でた。
『リュートのテイムは凄いにゃ』
優しい表情で、マルーンちゃんは静かに涙を流していた。
「なんで泣く? マルンと繋がってるから泣くと、私も悲しいよ」
「ああ、うん、カンパ、私はおねえちゃんの為に知性を上げたいと思った」
うん、そうだね、知性って皮肉だよね。
僕は一足先にマルーンちゃんの光記憶を見ていたから気が付いていた。
「姉は別に私に優しくは無かった、私を騙して善人の振りをして、実際は利用していたんだ」
「「「何だって!!」」」
悲しいよね。
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