第31話 カンパと初飛行
カンパの服の袋をぶら下げてF組寮に帰ってまいりました。
「服を箪笥にしまってきますね」
「ありがとう、ペルおねえちゃん」
『カンパはリュートを乗せて飛行訓練をするにゃ』
「おお、主様をのせる~~」
カンパはそのまま変化しそうになったので、ペルさんが慌てて止めた。
「駄目よ、服を脱がないと、また破けちゃうわ」
「あ、そうだった、せっかく主様に買って貰った服破いたらかなしい」
そう言いながらカンパは服を脱ぎ始めた。
というか、竜モードになるたびに素っ裸にならねばならないのは意外と大変だな。
するするとカンパは全裸になり、黒竜に変化した。
うお、なんだか体積が膨らむなあ。
でっかくて威圧感があるね。
『主様、のってのって』
「そういえばリッチモンが乗っていた鞍はどこに行ったかな」
『変化したときなくなった~~』
まあ、急に人間に変わったからいろいろ動転していたのだろうなあ。
誰かが拾って仕舞って無いかな。
「ここにあるわよ……」
寮母さんのヘレナさんが竜用の鞍を持って唐突に現れた。
「助かります」
ヘレナさんと一緒にカンパに鞍を付けた。
意外としっかりしていて良い鞍だな。
高そうだ。
「ありがとうございます、ヘレナさん」
「なんでもないわ……」
そう言うと、ヘレナさんはうっすらと笑った。
『主様、のるのる~~』
「解った、こうかな」
僕はカンパの背中に跨がった。
うお、意外に視点が高いな。
「ご主人様、格好いいですよ」
「ありがとう、ペルさん」
『ブーツの踵でお腹を蹴って、行動を指示する』
「こうかな」
僕は軽くカンパの脇腹を踵で蹴った。
『そうそう、右は歩き出す合図』
そう言うとカンパはトテトテと寮の庭を歩いた。
手綱を引いて曲がりたい方向を指示して、両足で踵打ちすると、ストップの合図らしい。
なかなか楽しいね。
というか、テイムの関係でカンパとは意思が繋がっているから、曲がってとか、止まってとか思うと、カンパは指示通り動いてくれる。
『主様を乗せると楽しい』
「そうか、僕もカンパに乗ると楽しいよ」
『うれしい』
さて、そろそろ飛ぼうか、飛ぶ合図は……。
カンパが意思を受け取ったのか、羽を広げて羽ばたき始めた。
うおお、凄い風と砂埃が出るね。
ふわっと体重が無くなった感じになって、僕は空中にいた。
ああ。
ああ、いいなあ、空畜に乗る時もこんな感じなんだろうなあ。
カンパのお陰で僕の願いが叶ったね。
『色々飛ぶ』
「うん、お願い」
カンパは羽を固定して、地面に向けて急降下し、足を出して地面を蹴って再び空に舞い上がった。
おお、タッチ&ゴーだね、ペガサスナイトがやるのを見た事がある。
右に左に旋回、急上昇、急降下。
『竜弾も撃つ?』
「何発撃てるの?」
『六発だよ』
「弾の補充はどうするの?」
『丁度良い石を飲み込まないとならないから、時間がちょっとかかる』
そうか、体の竜弾嚢みたいな場所に石を溜めておいて、ブレスを纏わせて発射してるんだね。
六発発射すると、装弾するのは時間が掛かるのか。
「六発、連射できる?」
『全部も撃てるし、一発ずつ、二発ずつとかも出来るよ~~』
(ペルさん、竜弾を撃つから、何か的みたいな物を置いて)
(わかりました、壊れたバケツで良いかな)
(上等)
(ペルおねえちゃん、おねがいね)
(はい、ちょっと待ってね)
ペルさんは壊れて転がっていたバケツを柵に立てかけた。
「よし、アレを狙おう」
『やってみる、単発で良いね』
「そうだね」
カンパは空中で身をくねらせてターンを決めて、バケツに向けて降下していく。
結構速度が出るね。
バーン! と破裂音がして、カンパの口から竜弾が発射されてバケツに当たり爆発して粉々に砕いた。
「爆発した!」
『破裂石を飲み込むと破裂竜弾が使える。そこら辺の石だと飛んで当たる流弾が出る』
「破裂竜弾は温存しておこう」
『山の方に行くと、結構落ちてる』
「暇な時に拾っておくのも手だね」
『みんなで石拾いにいこー』
それも楽しそうだね。
「さて、降りようか」
『もう、おわり?』
「また明日乗ろう」
(クッキーがありますから、オヤツにしましょう)
『おやつ!!』
カンパはふわりと寮の庭に舞い降りた。
僕はカンパから降りて、ペルさんと一緒に鞍を外した。
カンパはグネグネと輪郭を歪ませて、また裸ん坊の幼女へと変身した。
「たのしかった、また乗って」
「また乗るよ、爆破竜弾の石も拾いに行こう」
「いこういこう」
カンパはペルさんにパンツをはかされながら、キャラキャラと笑った。
三人で寮の玄関に向かうと、メガネ先生が立っていた。
「いい気なものだな」
「何か御用ですか」
「勇者学園の決定を伝える、来月にクラス対抗の武術大会がある、そこでF組とS組が戦い、君たちが負けたら、その黒竜を勇者候補マイタケ君に譲ってもらう」
「何言ってるんですか、カンパは道具じゃないんですよ」
「これは学園長も了承した決定だ、嫌なら学園から出ていきたまえっ」
こいつっ。
ペルさんから殺気が漏れている。
カンパも怒っているなあ。
「よし、解った、試合はチーム戦だな」
物陰からカービン王子が姿を現した。
「カービン王子……」
「五対五のチーム戦だ、もちろんお前達に勝ち目なぞ無いがな」
「よし、五人集めんぞ、リュート」
「でも」
「学校やめて出て行くのはよ、いつでもできるべ。だったらお前、S組をぶっ飛ばしてから出て行こうぜ」
「私も出ていいですか、眼鏡先生」
「ペルリタ君か、君はまだスキルが発生していないから参加は不可だ」
「私が出たら負けるかもしれないからですか……」
「何とでも言いたまえ、これはS組とF組の対抗戦だからね」
それだけ言うと、メガネ先生は去っていった。
「カービン王子……」
「そう言うな、なあに、同じ歳の学生だ、絶対負けるって決まった訳じゃあねえよ」
そうだね、まあ、試合に負けたら、カンパを連れてこの学校は出て行こう。
僕たちはS組の養分では無いのだから。
「ご主人様、武術の特訓です」
「うっ」
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