第3話 スキル発表会に参加する
日曜日はまずは教会からだ。
普通の場合、春分のあとの日曜日はスキル発表会があるのだが、僕は神父さんに秘匿スキルとして貰ったので不参加なんだ。
スキル発表会は年に一回だし、成人式前のイベントだけはあって、村の人間はほとんどやってきているね、壇上には神父さん、あと温厚そうな聖職者の人と、美少女の僧侶さんが立っていた。
尼さんは僕らと同じ年代かな、若いのに教会の人は偉いなあ。
しかも可愛くて綺麗だし、髪が銀色で目元が涼しいね。
村の女の子とは違った垢抜けた女の子だなあ。
見惚れちゃうね。
今年の十五歳になった村の子供は五人、カナタちゃんもいるね。
彼女はなんだか嬉しそうだ。
くそう、良いなあ【グリフォン育成】。
「リュート君も壇上へいらっしゃい」
「え、あ、僕はその……」
「ええ、でも一応壇上に並んでね、目立つから」
「あ、はい」
修道女のお姉さんに村の子供達はてきぱきと移動させられたよ。
そうか、十五歳の子が会場に残ってたら、あらあの子はいったいと、目立つからなんだね。
やっぱり、秘匿スキルはたまにあるので手慣れている感じだね。
村での秘匿スキルは五年前かな、キリッとしたお姉さんのスザンヌさんが秘匿だった。
でも初夏に王都の勇者学園に通う事になって、ああ、神聖スキルを貰ったんだなって、解った。
噂だと彼女のスキルは【賢者】だったらしい。
うん、僕の【幼女テイム】とはずいぶんの違いだな。
僕は目立たないように段を上がり、ステージの後ろに引っ込んだ。
「なによ、リュート、ずいぶん後ろに引っ込むじゃない、そんな酷いスキルが出たの」
「ま、まあ、その、うん、カナタは嬉しそうだね」
「うん、思っていたのとは違うんだけど、良いスキルをもらっったわよ」
うん、知ってる。
これで秘匿スキルだと、カナタがどう思うかな。
まあ、凄いスキルである事はあまりなくて、大抵は犯罪スキルだからなあ。
そういうスキルを貰った人も、使わないで大人しくしていると、そのうち人は忘れてしまう。
というか、他人のスキルはよほど印象的でないかぎり忘れるものだ。
「鍛冶屋のケントですっ、天使様から、【彫金】をいただきましたあっ!」
お、なかなか良いね。
家の職業にちなんだスキルは当たりであるよ。
というか、大抵のスキルは家の職業を継ぐよ。
「農園のミラー、いただいたスキルは【農業】ですっ」
まあ、大体の農家の息子は【農業】が出る。
別に馬鹿にしてはいけない。
スキルのあるなしで農作物の収穫量が違うし、品質もぜんぜん違う。
結構良いんだよ。
「よろず屋のミリー、あ、あの【おしゃべり】が、出ちゃいました」
どっと、会場が沸いた。
こういう、他愛ないスキルもいいものなんだよな。
ミリーはおしゃべりだからなあ。
スキルになったら、さらに輪を掛けておしゃべりになるだろうけど、話術として磨かれて良くなるかもね。
「馬牧場のカナタ、ええと【グリフォン育成】を貰えました」
会場が、わっと盛りあがった。
割りと珍しいスキルだし、空畜畜産家として明るい未来が開けている、とても良いスキルなんだよなあ。
ああ、僕も【グリフォンテイム】を発表したかったなあ。
さあ、村の子供四人の発表が終わったから、発表会は終わりだろう。
僕は何となく発表しなかった事で、ああ秘匿スキルなんだなあと村人に思われて、ちょっとは悪く言われるだろうけど、そのうちみんなは忘れてくれるだろう。
うんうん。
一年の辛抱だよ。
来年に期待だよね。
神父さんがステージの前に立ち、手を開いた。
さて、閉会の挨拶を……。
「羊牧場のリュート君ですが、悲しい事に、禁忌スキルが出てしまいました」
え?
「その忌まわしいスキルは【幼女テイム】です、ああ、なんという忌まわしいスキルなのでしょうか。しかも悪質な事に、リュートは父親に頼み、それを秘匿スキルにするように私に申し込んできました」
え、なんで?
神父さん、どうして?
いつもあなたはほがらかに説教をしてくれる人徳者じゃないですか、どうしてそんな……。
ざわざわと教会に集まった人の目が厳しくなる。
壇上にいた、カナタとミリーが、ケントとミラーの後ろに隠れた。
その顔に浮かぶ表情は恐怖だった。
「な、なにそのスキル……」
「どんな犯罪的な事を妄想すればそんな酷いスキルが出るの……」
父さんが壇上に駆け上がってきた。
「ど、どういう事ですかっ!! マリガン助祭!! 約束が違いますっ!!」
「黙りなさい、これは黒スキルじゃあ、無いんです、もっと酷いスキル、禁忌スキルなんですよ、【魅了】や【洗脳】と同じ、精神を操る禁忌スキルなのですっ、なんという恐ろしい子供なのでしょう!」
「やめろ、うちの息子をどうするつもりだっ!!」
「処刑します、大丈夫、郷の大聖堂から、巡回処刑人の方をお呼びしておりますから」
「ふざけるなっ!!」
温厚そうな師祭服のおじさんが僕のお父さんに近寄り、一撃で殴り飛ばし、ステージから落とした。
「巡回処刑人のマチスと言います、リュート君、君のスキルはとても危険だから、処置させて貰うよ」
「つ、使いませんから、だ、大丈夫ですからっ」
「人の心をねじ曲げるスキルは発現と同時に処刑する事になっているのです。それがこのスキル発表会の役割なのです」
僕は息が荒くなった。
禁忌スキル?
そ、そんなやばいスキルになっていたのか。
幼女をテイムするだけのスキルだろう、悪用は、悪用はできそうだが……。
……、この、スキル、実はやばい?
このスキルを持ったまま幼い王女さまや貴族の御令嬢をテイムすれば、国が乗っ取れる?
え、そんな馬鹿な、ただ僕は妹を助けたかっただけなのに。




