第26話 カンパは寮の人気者
「おばちゃんのご飯、おいしいれす」
「んまああ、可愛いわね、カンパちゃん」
寮の晩ご飯である。
カンパの事をヘレナさんに相談したら、問題無し、ペルさんと同じメイド部屋に住んで良いと言われた。
ヘレナさんは陰キャだけど、器がでかい感じだなあ。
カンパはペルさんの服を借りてなんだかぶかぶかさんだ。
明日はお休みだから、街に出かけてカンパの服を買わなくてはね。
「メロディ、蹴られてたけど、大丈夫?」
『平気にゃ、でも、三下天使はゴロツキみたいにゃ、悲しいにゃ』
「ねこしゃん、ねこしゃん」
食事を終えたカンパがメロディを抱きしめた。
『ち、力が強いにゃ、ぐぐぐ』
「優しく抱いてね、カンパ」
「あい、主さま」
カンパが力を緩めたので、メロディは大きな息を吐いた。
「なんだこのガキは、F組寮は託児所じゃあねえぞっ」
「ケイト、おまえ、暗黒竜に喧嘩を売って、死ぬのか」
「え、竜? ええっ?」
「主さま、こいつ焼いていい?」
「駄目です。ケイトさんも謝って」
「ぐぬぬ、さーせんした」
なんだか適当に謝罪をして、ケイトさんは夕食のトレイを持って食堂の隅で食べ始めた。
口が悪い上に態度も悪いので、F組の女子に彼女の友達は出来なかったようだ。
サテンさんがまあまあになったけど、汚い食べ方で食事を取っていた。
こちらも見た目は良くなったが常識がスラム街なので、お友達は出来ていないようだ。
カンパも元が竜なので手づかみで料理を食べたりしていて、メロディに叱られたり、ペルさんに拭かれたりしていた。
まあ、幼児だからしょうがないね。
「明日からリュートはカンパを乗りこなせるように練習をするんだぜ」
「はい、カービン王子」
「良いなあ、俺も乗せてくれよ、カンパちゃん」
「ヤダ!」
幼児特有の投げつけるような拒否であった。
「そんなあ」
「なんだか犯罪くせえので、やめろ坊ちゃん」
「うるせえうるせえっ」
なんだか賑やかで、僕はF組の寮の雰囲気が好きだな。
「ご主人様は危険になる前に念話で私かカンパちゃんをお呼びください」
「ああ、そうだね」
「主さまの所、急行するー」
『私もリュートにテイムされれば念話が使えるかしら』
「メロディはなあ」
なんかメロディをテイムするのは抵抗があるなあ。
元妹だからかな。
「しかし、なんだな、勇者学園、魔王軍、天界と三つの組織があってそれぞれ動いてんだけどよ、どこもろくでもねえなあ」
「まったくですね、カービン王子」
「天使もガラがわりーし、幼女を殺そうとするしなあ」
「天使様って、もっと立派な方々だとばっかり思ってました、父が知ったら悲しみそう」
「マチスさんは義人だからねえ」
ペルさんはうんうんとうなずいた。
「とりあえず、リュートとカンパちゃんはF組で守るぜ」
「というか、黒竜テイムしたのに、S組にあがれねえのか、リュート」
「S組はなんだか気がすすみませんけど、そういやおかしいですね」
「人聞きが悪いからだね【幼女テイマー】」
「そうなんですか、エリン先輩、って、なんでF組寮でご飯食べてるんですかっ」
「お腹が減ったからだよ」
エリン先輩はトレイに晩ご飯を載せて持って来て、僕の隣にすわってパクパクと食べ始めた。
「勇者学園のS組ってのはねえ、過去に『勇者の刻印』が出たスキルだけを集めているんだよ。だから初見の上に人聞きの悪い【幼女テイム】は『刻印』がでないと入れて貰えないのさ」
「そりゃひどい」
「その代わり、【鑑定眼】とか【治癒魔法】とかのスキルが出たら問答無用でS組で、特権階級だよ」
「カービン王子の【チンピラ】は王家の創始者のスキルと同じなのにS組じゃないんですか」
「建国の王は残念ながら『勇者の刻印』が出て無いからね。逆に魔王を倒してなくて、悪食王ヨーハンを倒した勇者シイタケは『刻印』持ちだから勇者なんだよ」
「魔王倒して無いんですか、シイタケさん」
「悪食帝ヨーハンが大軍を動員して魔王軍をすり潰したのさ、その後、増長したヨーハンが異世界から勇者を召喚したら、スキル【洗脳】が効かなくて倒されたって事さ」
色々とややこしい事だなあ。
「勇者シイタケがこの学園を作ったのは、『私は魔王を倒していないので、将来、魔王を倒す勇者を育てる学校を作ろう』というのが動機だったらしいよ」
「さすが、『賢者』候補のエリン先輩、何でも知ってますね」
「なんでもはしらないよう、知ってる事だけさ」
そう言って、ちびっこい先輩はくふふと笑った。
なんだか年上なのに可愛い人だなあ。
「ごちそうさま、あ、ありがとう」
ミリンダさんが食後のコーヒーをエリン先輩に出した。
「さて、今夜、私がここに来た理由なんだけどね」
「はい」
「私に【幼女テイム】を掛けてくれまいか」
「え、えええええっ!!」
何を言い出すんだ、このちびっ子先輩は!
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