第25話 天使共が来た
メガネの事情聴取が終わると、午後の授業は終わっていて、放課後であった。
「マノリトさん、ノート見せてください」
「ええー、他の人に見せてもらいたまえよ」
教室を見渡した。
ケイトさんがナンだよという目で睨みつけてきた。
あんまりノート取っていそうな同級生がいないなあ。
さすがはF組。
「俺も見せろ」
「えー、カービン王子もですかあ、しょうがないですねえ」
さすがのマノリトさんも王家の威光には逆らえないようだ。
彼の綺麗なノートをカービン王子とともに書き写した。
「ジナンさんはいらないの?」
「はあ、勇者学園の用事で呼び出されたんだ、別にいいべ」
「あとで授業に付いていけなくて困ると思うんだけど」
「ふむ、リュートくんの言う通りだよ、ジナンさま、勉強はしませんと」
「いいんだよ、太っちょめ、貴族は怠惰が仕事なんだよ」
それはまた退廃的な信念だなあ。
「ふむ、リュート君、君は真面目なんだね、僕は少し見誤っていたようだ」
「そんなことはありませんよ、マノリトさん」
「僕は勉強が得意だから、時々は教えてあげるよ」
「ありがとうございますっ」
うん、マノリトさんとも仲直りだな。
やっぱり同じ部屋なんだから、ペルさんの事で不仲になってはいられないね。
ノートを取り終わって、マノリトさんにお礼を言って、僕らは寮に帰る事にした。
マノリトさんとも一緒に帰りたかったんだけど、実家で少し用事があると言って昇降口で別れた。
豪華な馬車に乗って行ってしまったな。
「さすがは有力商会の息子だ、良い馬車に乗ってんな」
「マノリトさんのスキルはなんでしょうね?」
「さあなあ、王府の噂には上がっていなかったから、それほど珍しいスキルではねえんじゃねえか」
結局いつもの三人でF組寮へ向かう。
リッチモンが襲撃してきたあたりで、羽根の生えた天使が三人いた。
「おおう、天使だ、すげえ」
「現場検証にきたか」
天使達の足下にはメロディがいて、説明しているようだ。
「なぜ、お前は我々を呼ばなかったのだ」
『ね、寝てたにゃ、この体はすぐ眠くなるにゃ』
「ちっ、使えない三級天使め」
おお、メロディが叱られているっぽいな。
「こんにちは~、リュートです」
天使に声を掛けると、なんだこいつという顔で天使はふりむいた。
「下人、我々は任務だ、話しかけるな」
『リュート!』
おっ、という感じで、天使が振り返り、僕の顔をじろじろとみた。
「お前が【幼女テイマー】か、では事情を説明しろ」
「わ、解りました」
「おい、クソ天使、お前、人に向かってなんだ、その態度は、おう?」
「ちんぴらめ、失せろ、天罰を食らわすぞ」
「俺も、カービンの兄貴も、襲撃に立ち会った当事者だ、追っ払っていいのかよ」
「ちっ、だったら協力しろ、我々は天使だぞ、貴様らとは魂の身分が違うんだ」
なんだかなあ、天界の人間もこんなのばっかりかよ。
気を取り直して、偉そうな天使さんたちに、事件を説明した。
「暗黒貴公子リッチモンか、恐ろしく手練れのドラゴンライダーだ、よく撃退できたな。勇者候補マイタケのおかげか?」
「いえ、運良く暗黒竜に【幼女テイム】が通りましたので」
「暗黒竜をテイムしたのか!! それは凄い、抗魔法力が凄まじく高いのに、良く通ったな」
「ご主人様~!」
F組の寮の方から、ペルさんがカンパを抱いて走って来た。
わあ、カンパが可愛い服を着てるなあ。
良く似合っている。
「主様~~」
「丁度良かった、あの黒髪の子が暗黒竜カンパリアです」
「「「!!!」」」
天使達三人の気配が激変した。
え、殺気?
「暗黒竜……、ダタイリアの娘!!」
三人の天使は一斉に腰の剣を抜き放った。
「ちょ、ちょっと何をするんですか、あなたたち!」
『やめるにゃ、カンパちゃんは、もうリュートの奴隷にゃ!!』
「この世に汚れたドラゴンなぞは要らないっ!! 全員、かかれっ!!」
天使達は一斉にカンパに殺到した。
『やめるにゃ!! ふざけるにゃ!!』
メロディが道を塞ごうとしたら、天使が彼女を蹴り飛ばした。
ペルさんの目が据わった。
「メロディちゃんに何をするんだっ!!」
レイピアを抜き、パーリングダガーを抜いて天使の剣を受け止めた。
カンパはペルさんの腕から転げ落ちてころころと地面をころがった。
そして、体が膨れ上がり、黒竜モードになって吠えた。
「この天使共、横紙破りだぜ!!」
「やめねえか、この鳥人間どもめ!!」
「やめてくださいっ!!」
カービン王子とジナンさんが剣を抜いて飛びかかった。
僕も杖を持ってカンパの前に立ち塞がって守った。
「暗黒竜は悪徳の女神リテラの眷属だ!! 見つけたら必ず殺さねばならない、そこをどけ人間!!」
くっそー、なんだなんだ、この天使共は、なんで人の話を聞かないで自分の正義感で突っ走っていくんだよ。
ふざけんなよっ!!
「ふざけんな、蹴ったメロディに謝れ!! カンパの命を狙ったことを手を付いて謝れっ!!」
「その言葉、女神様への挑戦と受け止める。お前のような薄汚れた人間も粛正してやるっ!! 行くぞっ!!」
「「おうっ!!」」
ピシャアアアン!!
という極太の稲妻と共に、大天使リカリエルが顕現して、回し蹴りで先頭の天使を吹っ飛ばした。
「にゃろう、誰がそこまでしろと言ったっ!」
「し、しかし、リカリエルさまっ!」
「うるせえ、【幼女テイム】は魔王特効の決戦スキルだからよう、下っ端が手出しすんな、ぼけっ!」
「う、うおおっ、大天使さま」
「なんだか、この前とキャラが違うわ」
「がおん」
「わりいな、リュート、見に来てよかったぜ、この馬鹿共は左遷させとくから、勘弁してくれや」
「あ、はい、リカリエルさま」
「そいじゃな」
リカリエルさまは三人の天使の耳を引っ張って天界に帰っていった。
「はあ、助かった」
「え、天使様達って……、大天使さまって、あんなだったんですか。この前の感じと全然ちがうのですが」
「あっちが地っぽいね」
「天使も、勇者学園も問題がいっぱいで大変だな、リュート」
「まったくですね、カービン王子」
ボワンと音がすると、黒竜が幼女モードになってとてとてと走って抱きついて来た。
「主様~~、こわかった~~」
「そうかそうか、安心しなよ、僕も、ペルさんも、カービン王子も、ジナンさんも、みんなカンパを守るから」
「ああ、そうだぞ」
「まかせとけや、やっぱ子供は守んないとな」
「大丈夫よカンパちゃん」
とはいえ、黒竜化したので、可愛い服がビリビリになって全裸になっていた。
変身すると服が脱げるのが困るなあ。
「……」
なんか視線を感じて振り返ると、マノリトさんがこちらを見て小刻みに震えていた。
「あ、どうも」
「き、君は全裸の幼女と抱き合って!! なんという破廉恥な男なんだ、見直して損をした、君とは再度絶交だ!!」
「えええ~~~」
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