第22話 【鑑定眼】のエリン先輩
黒竜は急降下と急上昇を繰り返し、竜弾をまき散らした。
轟音と炎で頭がクラクラする。
「S組の先輩、なんとか黒竜を倒してください」
「え、ムリムリ、私は研究者だから助言しか出来ないよ」
なんだよ、使えない先輩だなあ。
「【鑑定眼】!」
エリン先輩が一声言うと目がキラキラと光った。
「うん、うん、敵は暗黒貴公子リッチモン、魔王軍の中堅隊長だ」
「あれで中堅なんですか」
「魔王軍は層が厚いからね」
僕たちでは手も足も出ないのに、あれで中堅なのか、将軍格はどれだけ強いのか。
「竜の名はカンパリア、伝説の暗黒竜ダタイリアの子供だ」
なんか役に立たない情報ばっかりでてくる、これでS組なのか。
「皆の攻撃で、リッチモンの生命力は薄皮一枚ほど削られた」
「なんの攻撃も通ってないということじゃないですか」
「そうともいう」
黒竜カンパリアは執拗に僕を狙って爆撃してくる。
エリン先輩はなんだかトロい感じなので、僕が抱き上げて攻撃を避ける。
「ああ、すまない、戦闘は苦手で」
「だったら後ろにいてくださいっ!」
僕は通りかかったナンヌさんにエリンさんをパスした。
さすがは【馬術】持ち、うなずいて空中でエリン先輩を抱き取ってターンした。
「君たちでは黒竜カンパリアには勝てないと結果が出た、誰かS組が来るまで防衛しなさい」
「わかりました!」
というか、エリン先輩、役に立たねえ。
こちらの戦闘員は、僕、カービン王子、ロッカさん、あとペルさんだ。
ペルさんとロッカさんがかなり強いが、それでもドラゴンに一撃食らわせるほどの攻撃力を持たない。
カービン王子は剣の腕が立つが、僕は防御専門だ。
いつか、黒竜の攻撃が通って、誰かが死に、戦局は大きく敵に傾くだろう。
早く、誰か。
誰か来てくれ!!
「【鑑定眼】持ちはやっかいだな、カンパリア、あの小娘をまず潰すぞ!」
GYAOOOON!!
「いけないっ、逃げてエリス先輩!!」
「そ、そうは言っても」
エリス先輩はナンヌさんに襟首を捕まれて身動きがとれないようだ。
カンパリアは竜弾を吐いた。
「はっ、そんなものっ!」
さすがは【馬術】……。
と思ったら、二発、三発と行く手を防ぐように奴は竜弾を吐き、一発が馬の至近距離で爆発した。
ドカーーン!!
爆風に巻き込まれ、馬が転倒した。
だが、馬は最後の力を振り絞り、芝生の地面にナンヌさんとエリン先輩を転がした。
「ナンヌ!!」
「大丈夫!!」
「ああっ、ケイロス、ケイロス!!」
ナンヌさんが馬の名前を絶叫した。
エリン先輩は目の焦点があってない、落馬の時に頭を打ったか。
カンパリアは大きな弧を描いて上空に駆け上がり、そしてエリン先輩に向けて再度急降下をしはじめた。
「いけないっ!!」
無意識に手をかざしていた。
エリン先輩は一つ年上だが幼女っぽい、もしかしてテイムが通るかもしれない。
テイムされれば、僕の能力値がエリン先輩に乗るから逃げる事ができるかもしれない。
僕の胸の奥底で、ずるり、と何かがうごめいた。
『繋がれ!』
時間がゆっくり流れる。
僕の心臓から繋がりが飛び出し、エリン先輩に……。
あるえええ??
繋がりはカーブを描いて黒竜に当たった。
僕の頭の中に黒竜の記憶が流れ込む。
竜厩舎の中でひときわ体が小さくて、そのせいで伝説竜ダタイリア母さんががっかりしている事を感じとり、なんとか頑張ってお母さんに笑顔になってもらいたいと思った事。
魔王軍の幹部の人に乗られるかと思ったら、少し格下のリッチモンの乗騎となり、活躍の場が小さいなと思い、体が小さいからなんだろうなあと、思った事。
妹の黒竜レジトリアは体が大きくて魔王四天王の乗騎となり、自分をさげすんだ目で見てきた事。
だから、なんとか、今回の戦いで悪い人間を倒してみんなに認められたいと思った事。
そんな思いが僕の中に流れ込んで来た。
「そうかそうか、辛かったね、カンパリア」
「きゅい」
カンパリアは空中で急制動をかけ、僕の前に着地した。
「な、何をしているカンパリア、奴に竜弾をくらわせっ!!」
カンパリアの体がぐねぐねとねじ曲がり、煙と共に素っ裸の幼女が僕の前でひざまずいていた。
リッチモンは尻餅をついて、裸の幼女を見つめている。
「あなたが私のご主人様でしゅ」
……。
「……」
「……」
「幼女化した、これが【幼女テイマー】の力だとでもいうのか!!」
ええええええっ!!
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