第20話 魔王軍の刺客、暗黒貴公子リッチモン
遠くに空畜に乗った人影が現れた。
おお、良いなあ、僕も【グリフォンテイム】を取って空を自由に駆け回りたかったなあ。
カービン王子が背中を丸めた。
「ん、どうしたんですか王子」
「ダークドラゴンライダーだ、暗黒竜は人界では手に入らぬ、つまり、敵、魔王軍だぜっ!!」
ばっさっばっさと黒竜が羽ばたき、土埃を巻き上げ着陸態勢に入った。
竜の上に乗るのは真っ黒な甲冑を着込み、背中に大剣をしょった偉丈夫であった。
「【幼女テイマー】はどいつだ」
「そんな奴はいねえ、うせろっ、三下っ」
「はっ、はっはっはっ、三下は貴様であろう、モヒカンめ。雑魚の分際で暗黒貴公子たるリッチモン様に逆らおうとは笑わせる、お前が失せろ!」
「ば、ばーやろう、こ、このお方をどなたと心得る、クライネル王家第三王子カービンさまであるぞ、頭が、頭が高い!!」
ジナンさんが震え声でカービン王子の紹介の口上を述べた。
そうか、貴族というのは相手に喧嘩を売るときに口上をのべるのか。
「おお、お前が高名なチンピラ王子か、わはははっ、まったく見苦しいザマだなっ! そこをどけチンピラ! そして【幼女テイマー】を差し出せ、そうすれば命だけは助けてやろう」
「断るぜっ! 俺はダチを売ったりはしねえんだっ!」
「ほう、ダチ……、友達か、そうすると、そこの二人のうちどちらかが【幼女テイマー】か」
暗黒貴公子リッチモンは黒竜の上でニヤリと笑った。
「おい、【幼女テイマー】で無い方は逃げろ、庇うようなら両方殺す」
いかん、ジナンさんに嫌な選択をさせてしまう。
「ふざけんな、くらえっ!!」
ジナンさんの両手の間から金魚が沢山生まれ、リッチモンに向けて飛んだ。
「ははは、あはははっ、なんだこのスキルは!! 金魚、金魚を出すスキルとでも言うのか、なんという愉快なスキルだ!!」
リッチモンは大剣を抜き、金魚を全て切り落とした。
凄い剣の腕前だ!
「くそう、殺傷力不足か!」
うん、金魚だしね。
「やめろ、僕が【幼女テイマー】だ!」
「リュート!」
「おめえっ!」
「ほお、お前が性犯罪スキルの持ち主か。その変態的なスキルで我が親愛なる大魔王ピエラさまを拐かすつもりだな。そんな事は許されぬ事だ下等生物め」
「うるさい、黙れ魔王軍め!」
僕は杖を構えた。
「人形姫、人形姫を待てよ! リュート!」
「いいんだ、二人は逃げて」
「カカカ、ダチ公を置いて逃げるなんてえかっこ悪い事ができるかよっ」
「ロッカ!! ロッカ!!」
どこからか、ロッカさんが現れた。
『魔王軍だ戦え」
「えー、坊ちゃんが狙われているわけじゃあ無いから逃げればいいじゃあねえですか」
「う、うるさいっ! リュートが死ぬとなあ、死ぬとなあ、ペルの美味しい昼飯が食べられなくなるんだぞっ!」
「あ、そうか、うむ」
ロッカさんが前に出て来た。
「飯の恩義分ぐらいは戦うよ」
「ありがとう、ロッカさん」
「ほほう、人間にしてはなかなかの殺気だな、誉めてやろう。行くぞカンパリア!!」
そう言うと、リッチモンは黒竜の手綱をピシリと鳴らした。
GUOOOO……。
黒竜は低く鳴いてこちらに向かってズシズシと移動してくる。
まずい、ドラゴンを使うのか。
下りて戦うのかと思った。
「坊ちゃん、木の陰に、ブレスは範囲攻撃だ!」
「お、おう、リュートもこい、ロッカの邪魔だ!」
「いや、僕の戦いだから、人任せにはできないよっ!」
「よく言った、さすがは俺のダチ公だぜえっ!!」
黒竜カンパリアはこちらを表情の無い目で見て、速度を上げて突進してきた。
初手は前足パンチ、僕は後に飛んで避けた。
ドガンと前足が落とされた石畳が割れた。
凄い威力だ!
「わはは、只の人間が黒竜カンパリアに勝てる訳がなかろう、覚悟して末期の言葉でも考えるのだなあっ!!」
ちっきしょう、上に乗って指示してるだけなのに偉そうだな、暗黒貴公子め。
ロッカさんが飛び込み、竜の顔面に向けてナイフを突き込んだ。
眼を狙ったか!
だが、俊敏な動きで眼を外され頬に当たり、ナイフは跳ね返された。
「ちいっ! なんてえ堅さの鱗だ!!」
カービン王子が剣を腰だめにして竜にとっこんでいった。
「王子あぶないっ!」
「ぎりぎりを攻めねえとなっ!!」
竜は特に避ける事もなく、王子の剣を受け止めた。
ガキンガキンと斬撃は鱗に弾き返された。
「カンパリア、あのチンピラを焼き殺せ、ブラックブレスだ!!」
GAOOOON!
黒竜は一声吠えて息を吸い込んだ。
いけない!!
僕はカービン王子の前に飛びこんだ。
「リュート!!」
「逃げてくださいっ!!」
カチリという音と共に火花が飛び、真っ黒な業火が僕たちに向けて吐き出された。
ヤバイ!
ヒヒーンという馬のいななきが聞こえたと思ったら、カービン王子ごと、馬上に掬い上げられた。
「もう、馬鹿王子! 手間を掛けさせないでよねっ」
「ナンヌ!」
ナンヌさんがスキル【馬術】で僕たち二人を助けてくれた。
業火は誰もいない地面を焼いた。
「ちいっ、ちょこまかとわずらわしいっ!!」
暗黒貴公子リッチモンは、黒竜の上で苛立ったように言った。
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