第19話 一学期スタート
そんなこんなで僕の勇者学園の生活が始まった。
夏が過ぎ、ちょっと涼しくなった季節に新学期である。
都会の学校なのでわりと勉強が難しいけど、頑張って付いていかないとね。
クラス分けは別に学力順じゃないので、F組にはよく出来る人と出来ない人が混在している。
僕はわりと出来ない方、一番出来ないのはサテンさんかな。
出来るのはやっぱり王族たる、カービン王子で、入学試験でも首席だったらしい。
モヒカンなのにインテリなんだな。
マノリトさんは秀才、ジナンさんは平均点だね。
みんな凄いね。
お昼は寮に戻ってペルさんのランチを食べて、午後も頑張る感じ。
「ご主人様、頑張ってらっしゃいますね」
「そんな事はないさ」
「ご謙遜を、素敵でございます、さすがは我が愛すべきご主人様でございますね」
ペルさんははにかんで笑いながらそんな事を言う。
んもう、可愛いなあ。
銀髪の美少女でいつまでだって見飽きない感じで、僕はペルさんにやられているね。
「イチャイチャすんじゃねえよ」
「まあ、そう言うなジナンよ」
「へいっ、カービンの兄貴」
「というか、イチャイチャを見るのが嫌なら、寮に食べに来なくても良いじゃないですか、ジナン」
「そ、そう言うなよ、学校だと三級食堂か、購買でパンを買うしかなくてよお、手料理に飢えてんだよ、俺」
「ロッカに頼みなさいよ」
「ああ、あたいは料理とか無理、というかF組寮に籠もっていられると、ミリア・ミーガンが攻めてこなくていいや」
などと言いながらも、ロッカさんもペルさんのお料理をパクパク食べているのだな。
なんだか良い雰囲気だなあ。
僕はこういう生活が大好きだな。
ペルさんの手作り昼食を食べて、お昼休みが終わらないうちに学園に戻る。
F組の寮は学園から離れて入るから困るね。
「ペルさんには、俺が公爵になった暁には領地を分けてやるぜ」
「いや、美味しかったよ、ありがとう、だけで大丈夫ですよ、カービン王子」
「そういう物なんか? みな領地や俸禄が欲しいのではないんか?」
「気配りは時にご褒美よりも心を打つ事があるのです」
「ほお」
カービン王子は感心したように唸った。
この人も庶民的だが、ちょっとズレてるからなあ。
A組の寮から、ゴージャスな金髪の女性が出て来て、こちらにずんずん寄ってくる。
「カービン、いいざまね、F組の居心地はどう?」
「ナンヌ・マルクルンドじゃねえか、居心地は良いぜ、虚飾ってえもんがねえからな」
「だれ?」
僕は声を潜めてジナンさんに聞いてみた。
「お前、侯爵家の名前ぐらい覚えておけよ、カービン王子の元婚約者のナンヌさまだ」
「げええっ」
「カービン王子が【チンピラ】を引き当てた瞬間に婚約破棄状を叩きつけてきた豪の者だ」
「げええっ」
「う、うるさいわね、お黙り、ジナン・カーソン。【チンピラ】なんてスキルを引き当てる凡俗がいけないのよっ、私は悪く無いわっ!」
「ちなみに、ナンヌさまは、どんなスキルをお取りに?」
「【乗馬】よ」
「普通だ」
「な、普通だろ、【乗馬】でA組だぜ」
「だ、だまんなさい、公爵令嬢が【乗馬】よ、勇者を乗せて高速移動できるのよ、ふ、普通じゃないのよっ」
ナンヌさまは、【乗馬】にコンプレックスがあるようだ。
まあ、普通だしね。
「なによっ、ジナン・カーソンなんか、【金魚】なんていう、意味不明のスキルじゃないの、F組に落ちて恥ずかしく無いの」
「【金魚】?」
「あ、ああ、【金魚】だ、こう手を向かい合わせると、金魚が出る」
ジナンさんは側溝の上で両手からビチビチと跳ねる金魚を出した。
「……」
「な、なんか言えよリュート」
「【金魚】はどこから出てくるんでしょうか?」
「え、しらねえ」
「わりと赤とか金とか高そうな金魚が出ますね」
「そうだな」
「パワーアップすると、でかい錦鯉とか出るんじゃないですか?」
「それは良い、俺の将来の邸宅で鯉を出して生活しろいっ」
「ええ、嫌ですよ、カービン王子」
しかし、食用の魚とか出ればましだが、金魚かあ。
さすが鶏肋のF組のスキルだな。
「さすがF組のスキル、ダサいわねえ、みっともないわねえ、ねえねえ、カービン王子、今、どんな気持ちー?」
うお、ナンヌさんが煽ってきたぞ。
しかも高位貴族らしからぬ幼稚な煽りだ。
「黙れ、ナンヌ、貴様は今、キングオブF組の前にいるのだぜ、恐れ入れ!」
「な、なによ【チンピラ】がそんなに凄いスキルなの」
「いや、ここに居るリュートのスキルがキングオブF組スキルだ」
「いやあ」
僕はなんか照れてみた。
「いや、褒められてねえぞ、リュート」
「何よ、その貧弱な坊やのスキルがなんだというの、どうせF組スキルだから大した事無いわ」
「リュートが持って居るのは、【幼女テイム】だ」
「……」
「ナンヌ、貴様は処女であろう、というか、高位貴族の令嬢がビッチでは話にはならぬな。いわば、皆幼女なのだ」
「ひっ、ひいいいいいいいっ!!」
ナンヌさんは悲鳴を上げ、学園にむけて全力でダッシュして逃げて行った。
「勝ったぜえ!」
「いや」
「いやいや」
やっぱカービン王子はズレてるな。
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