第11話 勇者学園に入学する
夏はいつのまにか終わってしまっていて、二週間かけてペルと一緒に馬車で王都入りした。
「うわわあ、なんだか凄い喧噪だね、何か事件かな」
「ご主人様、これが都会というものです」
「そうかー、都会かあ」
僕は都会では何の役にも立たないので、ペルに任せっきりで勇者学園まで歩いた。
なんだか巨大で荘厳な建物だなあ。
村の教会の十倍ぐらいの広さがあるぞ。
制服の人が行き来していて活気があるな、そして制服がかっこ良くて、女子のは可愛い。
「ご主人様、手を、引いていきます」
「いつもすまないねえ」
「それは言わない約束です」
なんだか頭一つ小さい、一歳年下の女の子にお世話されるのは微妙な気持ちだが、だからと言って、僕は都会慣れをしてないからなあ。
ペルの手は冷たくて小さいなあ。
すべすべである。
ペルに手を引かれて、学園の中を行くと、行き交う生徒たちにくすくす笑われてしまう。
いや、なんというか体裁が悪いね、どうも。
「へっ、田舎者丸出しの奴が女の子に手を引かれてやがる、お前も勇者学園の新入生なら、誇りを持てよ、なあっ!」
金髪の気性の荒そうな生徒が僕に難癖をつけてきた。
あー、どうしよう……。
「あ”?」
僕が言い返す前にペルがもの凄い顔で殺気を金髪生徒に向けた。
「な、なんだよ、ガキの癖によお、生意気だぞ、俺を誰だと思ってるんだ、カーソン伯爵家のジナンさまだぞ、地面に手を付いてあやまれっ」
「お前こそ、ご主人様に向けての暴言を地面に手と額を付いて謝れ。殺すぞ」
ああ、ペルさん、殺すぞは不味いですよ、お貴族様のご令息ですしね。
伯爵さまなんて、僕は見た事も無い高位の貴族さまじゃあ無いですか。
「てめえは格好から見ると僧侶枠か、そんな田舎者と付き合っても良い事は無いぞ、俺様に鞍替えしろっ」
ペルさんは、ペッとジナンさまの足下に唾を吐いた。
ひ、ひいっ。
「す、すいません僕たちは田舎から出てきた者ですから、どうかご容赦ください」
「ご主人様は謝らなくていい、こいつは私が剣で土下座させる」
「い、いや、喧嘩を売ってはだめだよ、ペル」
ジナンさまの顔が赤黒くなり、ガーゴイルのような顔で怒鳴りだした。
「ふざけるなっ!! お前達がどんな地位かは解らないが、伯爵ほどは偉くは無いだろう」
「あ、いや、平民出ですよ」
「ご主人様の煽りは素敵」
「へ、平民が、お前、この俺様に、生意気な、口を、ききやがったのかああっ!!」
ジナンさまは腰から剣をズバリと抜いた。
ペルは変な歩法で距離を詰め、パーリングダガーで剣を巻き落とした。
「あっ」
「ご主人様に謝れ、ジナン、このお方はお前などが声を掛けられるような軽い存在では無いのだ」
「ここここ、このやろーっ!! ロッカ、ロッカー!!」
物陰から目付きの悪いメイドさんがやってきた。
「なんすか、ぼっちゃん」
「ここここ、このチビが俺の名誉を傷つけた、こいつが大事にしている小僧もろとも斬り捨てろっ!!」
目付きの悪いメイドさんは腰に短剣を下げていた。
じっとペルを見つめていた。
「これはこれは、教会の人形姫じゃあありませんか、けけけっ」
「あなたは殺人メイドのテーリアね」
「お、私の悪名も広まってきたね、さあ、やろうぜっ、人形姫相手なら文句はねえよ」
目付きの悪いメイドさんは腰から短剣、ブーツからダガーを出して構えた。
おお、かなりの腕前だな。
「ペル、なるべく殺さないで」
「ご主人様はやさしすぎます、なんとか努力しましょう」
「へへ、あんた、奴隷になったのかよ」
「そうだっ、私は身も心もご主人様に捧げたのだ!」
こっぱずかしい事を高らかに宣言して、ペルはテーリアさんの間合いに恐れも見せず割って入った。
カキン、キキキンキキキンと、短いサイクルで二人は斬り合いを始めた。
達人と達人だから、手が早くて何をやってるかちっとも解らないぐらい凄い。
そしてジナンさんは俺の方に剣をひっさげて来た。
「じゃあ、男は男同士で楽しもうじゃねえか、なああっ!!」
「うわっ、喧嘩は嫌ですってばっ」
「ご主人様!!」
「あはは、逃がさないよ、ご主人様の方に行けるとは思うなよ」
「逃げてくださいっ!!」
「逃がさねえ、平民風情が俺を馬鹿にしやがって、なあ、あのチビにずいぶん慕われてるなあ、お前を殺したら、どんな風にあのチビの綺麗な顔が歪むかなあ、えへへへ」
「そういうのはやめましょうよ、ジナンさま」
「てめえっ!! 誰が喋っていいって言ったかよっ!! もうお前、死ね平民!!」
ジナンさんは斬りかかってきた。
なんとか杖で避ける。
腕があまり立たないのが助かるな。
杖でぶん殴って制圧するか。
「おおおお、反抗するのか、平民、平民!!」
「うっせえぞ、おらあっ!!」
駆け込んで来た、大きな体の男が跳び蹴りを食らわせて、ジナンさまを吹き飛ばした。
「勇者学園は身分関係ねえっ、切磋琢磨して魔王を倒す為に力を蓄えるのが本分だろうがいっ!!」
「モヒカン」
「モヒカン」
「なんだー、このモヒカンチンピラはあっ!!」
僕を助けてくれたのは、モヒカンの見るからにチンピラ雑魚のような感じのとっぽい兄ちゃんであった。
勇者学園にはこういう人も通っているのか。
「お前、どこ中よお」
「ああ、王都貴族中学だ、なめんな、俺は伯爵令息だぞっ、そしてそいつは平民、あの女もそうだ、ぶっ殺してもかまわねえんだよ」
「この学園に通うって事は見る所のあるスキルの持ち主なんだろうよ、ぶっ殺すたあ穏やかじゃあねえな」
なんか、見た目チンピラだけど、良い人みたいだな。
漢気がある感じだ。
「てめえ、こそ、何中だっ!! というか、モヒカンだ、平民だなっ!!」
「おう、俺は学習院中よ、この秋、勇者学園に入学してきたんだぜ」
「え、学習院中? そ、そんな馬鹿な……」
「ぼっちゃん、まずいっ、そいつ、チンピラ第三王子のカービンさまだ、打ち首になるぞっ」
「げえええっ!!」
「しねえよ、ばっきゃろー」
カービン王子は漢臭く笑った。
王族なのかよー!
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