第十話 勇者学園の話を聞く
食事も終わり、お茶を飲みながら和やかな団らんを過ごしていた。
昨日はオーガのような顔で僕を殺そうとしたマチスさんだけど、今日は柔和で目が優しい。
「さて、王府から早飛び鳥で返信をくれました。おめでとうございます、リュートくんは秋の月から勇者学園の入学を許可されました」
「ええっ!」
「まあっ!」
両親が悲鳴を上げた。
メリーが死んでしまった上に、僕まで王都に留学だと寂しいのだろうなあ。
「勇者学園か、確かに大天使さまがおっしゃったように、リュートのスキルが対魔王の決戦スキルであれば、勇者学園で伸ばしたいと王様は考えるだろうなあ」
「おお、でもリュートは一人息子よ、魔王軍との戦いにかり出されて死んでしまったら……」
いや違うんですよ、チャラ大天使さまがですね、隠蔽のためにでっち上げした決戦スキルという大ボラなので、どこに居ようと僕の命はわりと危ないのです。
とは言えないなあ。
「リュート君はどうしたいですか、なんでしたら、私もここに住み込んで、ペルリタと共にあなたを護衛しますが」
「お父様は邪魔だわ」
「ペル、そういう事を言わないの」
もう、ペルは自分の欲求に忠実だなあ。
「解りました、王都の勇者学園に行きます、ですが、路銀や王都での生活費などは?」
「教会からお出しいたしますよ。なにしろ勇者になるかもしれない方ですから」
「ご主人様は必ず勇者の刻印を授かりますわ、これは確信です」
ちなみに、勇者という職業は無い。
心正しく、悪と戦うと、【勇者の刻印】というものが体のどこかに現れる。
それを持って当代の勇者が決まる。
各代に一人というわけではなくて、多いときは四人とか同じ時代に【勇者の刻印】を持つ者が現れることがある。
勇者学園とは、その刻印が発現する可能性を上げるために、先々代の勇者シイタケさまが作られた施設だ。
「それでは王都で勇者学校に行きます、勇者になれなくても、勇者をささえるサポーターや協力者にはなれるでしょうし」
「そうですね、私もそれが良いと思います」
「お父様、私も王都でご主人様のメイドをします」
「したいではなく、しますなのかい?」
「はい、これは決定です。勇者学園は全寮制ですが、召使いは一緒にいて良いと聞きます」
「ええ、学生寮って狭いでしょ、男子寮だろうし」
「ああ、いえ、勇者学園の寮は男女混合です。そうですね、ではペルの部屋もとりましょうか」
「わあっ、お父様大好きっ!」
マチスさんは塩っぱい顔になった。
愛娘はご主人様ファーストになってお父様にはかまってくれなくて塩っぱいという顔だね。
「そうかあ、リュートは王都に行ってしまうのか」
「さびしくなるわ、死んではだめよ、命は惜しんでね」
「学校を出たら戻ってくるから、大丈夫だよ」
「いやあ、勇者さまの遠征に参加したりで忙しくしそうだあよ」
「本当にねえ、子供はすぐ大きくなってしまうのね」
両親がしみじみと言うので胸が痛くなるよ。
ごめんなあ、生きて帰れるか解らないんだよ。
ちゃら大天使のせいで魔王軍から暗殺者が来るからね。
なんとか勇者学園で将来の勇者と仲良くなって、こう、助けてもらおうじゃないか、僕は小市民だしね。
うんうん。
マチスさんは両親と王都留学の細かい所を詰めて行く。
学園の入学式は秋の一月だから、まだ一ヶ月ほどあるね。
旅行の準備をして、二週間ほど馬車に揺られると王都だな。
噂には聞いてるけど、行った事は無い。
僕のいった一番の都会は領都だからなあ。
というか、なんとか武道とか身に付けるべきかな。
さすがにペルにばかり助けて貰って自分は戦わないのはみっともないしね。
とはいえ、杖道ぐらいしか適正がなさそうだけどなあ。
剣の類いは痛そうだから嫌なんだよね。
お昼ご飯も終わったので、また羊の群れの方へと丘を登って行く。
「本当に、素敵な場所ですわね。私は一生、ご主人様と一緒にこの景色を見たことを忘れないでしょう」
「いやあ、ただの田舎さあ」
なんか家の近くの景色を褒められると照れるね。
「なあなーあ」
おろ、なんだ、と思ったら岩陰から真っ白な猫が出てきた。
わあ、綺麗だなあ。
というか、
「メロディか?」
『そうだにゃ、こんな姿にされてしまったにゃ』
「ふわああああっ」
ペルがダッシュして白猫メロディを抱き上げて頬ずりをした。
『や、やめるにゃ、ペル』
「喋る可愛い猫、ふわああああ」
ペルはメロディの抗議の声も聞かず、モフモフをやめなかった。
猫好きなんだなあ。
「私は雰囲気が怖いのか、猫が逃げるんですよ、こんな、こんな大人しい猫ちゃんは初めてです、うほーっ」
ペルはだらしない笑顔でメロデイをなで回した。
メロディは嫌がって逃げようとするが、ペルは運動神経が良いので逃げられなかった。
「じゃあ、メロディもしばらく一緒なのか」
『ちゃんと務めたら、スキル製造班に昇格させてくれるそうにゃのだ、頑張るにゃあ』
よし、がんばれ、メリー。
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