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とある転生者が人間界で残した功績とその帰結

3話目です。

コレで完結となります。

 オレは転生者。


 とはいっても転生したてではなく、もうすぐ寿命が尽きようとしている転生者だ。

 

 今オレは自室のベットに横たわりながら、命の火が消えるのを待っていた。

 ここ数日世話をしてくれている使用人が数名と、今世での兄弟、その配偶者やオレの甥・姪たち、総勢十数名がベットの周りを囲んでいる。


 オレの妻や子どもがベットの周りにいないのは、ひとえにオレが今世では生涯独身だったためである。

 何度か縁談の話も持ち上がったが、どうしても前世でプロポーズ直前だった彼女のことが忘れられなかったのだ。

 前世では長年の片思いの末に恋人同士になれた彼女。

 幸せの絶頂寸前での別れだったので、尚更美化されてしまい、彼女以上の人を見つけられなかった。

 今世では皆本当の意味で魔法使いであるが、前世的な意味合いでもオレはもちろん魔法使いだ。

 

 なのでオレは直系の子孫を残せなかった。

 代わりといってはなんだが、今世では様々な功績を残したと思う。

 この功績が自分の子どもの代わりといっても間違いではないだろう。 


 遺跡という名のAE◯Nモールに残されていた日本語の解読。

 そこに残っていたいくつかの前世の商品を、今世の技術での再現成功にも寄与もした。

 可愛いわが子のような功績だ。


 可愛いわが子もいれば、扱いに困るわが子もいた。

 それが大した功績でなければ良かったのだが、実のところその功績がオレの功績の中で今世で一番評価されている功績なのだ、不本意ながら……

『ブラジャとショツ』といえば、この国の誰もが一度は憧れる、頭頂部を飾るための装身具。

 元々遺跡で発見されたそれは、今では国の文化の中心だった。

 オレはその文化の『発見の父』であり、『生みの母』と評されている。


『ブラジャとショツ』は『ブラジャーと女性用ショーツ』で、本来下着なのだ。

 しかし、オレが不用意な一言を発してしまったせいで、狂った価値観が今世中に広まってしまったのだ。

 本来、ブラジャーと女性用ショーツは下着で、被るものではない。

 ただそれは前世持ちのオレしか知らないことだが……


 今世での『ブラジャとショツ』は権威であり、憧憬であり、秩序である。

 そんな価値観を生み出してしまったオレは、それに異を唱えることも出来ず、後悔の日々を送るしかなかった。


 でもそんな日々がやっと終わる。死という誰もが迎える強力な離別装置によって……

 オレの死期が近いのを皆も分かっているのだろう、誰ともなくすすり泣く声が聞こえる。

 別れを惜しんでもらえるのは哀しくもあるが、今世のオレを認めてもらってるようで嬉しくもあった。


「皆、集まって……くれて、ありがとう……」


 オレは最期の言葉を告げ目を閉じると、人生に終止符を打った。


**********


 そう終止符は打たれたはずだった。

 一向になくならない意識に、閉じた瞼を開くと、そこは横たわっていた自室のベットではない。

 一面広がる白と黒の世界。

 そこは前世のドーム球場ほどの広さの部屋で四方の壁は白く、天井と床は黒かった。

 更にいえば、横たわっていたはずの体勢は、いつの間にか変わっており、両足を床に付け久しぶりに二本足で立っていた。


「「ようこそ、神界と迷界の狭間へ」」


 何もない場所にいきなり、2人の人? が現れる。

 片方は白いローブを身にまとう黒髪長髪、もう片方は黒いローブを身にまとう金髪短髪だ。

 どちらも美形という評価に値する容貌とだけいっておこう。


「君は人生を終えた」


 あー、やっぱり死んでは居るのか。ということは、ここは死後の世界ってことか?


「厳密にいえば、ここは死後の世界とは違うね」

 

 死後の世界じゃなければ、ここはどこなんだ?


「ここは神界と迷界の狭間」


 ん? オレ言葉発してないよな……


「この世界では、人間は心の声を隠すことができないんだよね」


 黒ローブと白ローブ、代わる代わるオレに説明をしてくれる。

 えっ! ちょっと色々理解が追いつかないんですけど……


「理解が追いつかないのは分かってるけど、こちらも君に関する結構差し迫った問題があるので、まずは説明したいかな。その後で君の疑問に答えるから……」


 白ローブが続けて少しだけ焦ったように説明し始める。

 とりあえず後でオレの疑問には答えてくれるとのことなので、今は大人しく白ローブの説明を聞こう。


「まず先に、いっておくけど、私の名前は白ローブではなく『イアディクス』なので……」


 えっ! イアディクスっていったら、今世の幼児期に読んだ本の中に出てきた神話に出てくる創造神だ。


「そう、私はその創造神。この世界の運営を担っているのだけど、つい最近とある問題が起こってね」


 創造神が直々に問題っていうくらいだから、結構問題なんだろうな。

 下手したらこの世界滅亡するくらいの問題なのか?


「世界滅亡まではしないので、その辺りは安心して欲しい。ただ結果の規模の大きさとしては、問題のことと次第では、私が創造神でなくなってしまうくらいの問題ではあるかな」


 世界滅亡は免れたけど、創造神が変わるって、それはそれで世界に対する影響が計り知れないな。

 というか、創造神変更が起こるくらいの問題ってなに?


「まあ問題を率直にいえば、君が起点となった『ブラジャとショツ』文化が地上の人間たちに信仰レベルで根付きつつあり、更にその生みの親とされる君が亡くなった結果、亡くなった君にも信仰が集まり、君の神格化が進んでいるんだ。このままだと、君は問答無用で神へと至る。神へと至った場合、君の神力は創造神の私を遥かに凌ぐことになり、君が創造神となってしまう、っていうことかな」


「ちょっ、ちょっと待って! 気持ちも理解もイアディクス様の仰ることも、全てが追いつかないって!」


 思わず叫び声が出る。

 イヤイヤイヤイヤイヤイヤ……ブラジャーと女性用ショーツの呪縛から死ねば解き放たれると思っていたのに、なんでこんなことになってるのさ!


「君は人間界での人生において、悪さもしてないし善良だし……別に私としては君になら創造神を明け渡してもいいと思ってるんだけど、君の意思を無視して創造神にするわけにもいかないだろ?」


 イアディクス様、今サラッと恐ろしいこといった! 

 えっ、明け渡してもいいんですか? 創造神の座を?


「悪心持ってる者だったら、創造神の座を明け渡さないよ? 君は力を私利私欲のために使わないだろうからね。私がサポートに回れば、この世界も上手く回るだろうし、力ある善良な神が生まれるのは、この世界の更なる発展にも繋がるから」


 あーなるほど。イアディクス様は名誉やプライドより実利を取るタイプなのか。


「私としてはこの世界がより良い方向に向かうのが大事で、誰が創造神なのかっていうのは、特に拘りがないんだ」


 うーん、前世のお偉方たちはイアディクス様の爪の垢飲んだ方がいい。

 そんなイアディクス様だからこそ、創造神でいて欲しいと思うなぁ……オレは。


「そうかい? ありがとう。でも君が創造神になった方が、世界に使えるリソースが増えて、やれることも増えるんだよ。だから『創造神ブラジャーショーツ』になってみない?」


 え? イアディクス様なんていいました? 

 聞き間違えじゃなければ『創造神ブラジャーショーツ』って言ったよね?


「そうだよ、もし君が創造神になったら名前は『ブラジャーショーツ』になるんだよ。だって本来アレの名前はブラジャーとショーツっていうんでしよ?」


 イアディクス様の言葉に、神になる理由はともかくとして、ちょっとだけ創造神になってもいいかなと思ったよ。

 でも名前が『ブラジャーショーツ』になるなら、絶対オレは創造神にはならない。


「えー、創造神になろうよ。私、誠心誠意お仕えするよ、ブラジャーショーツ様?」


「絶対にイヤです!」


「ほらね、イアディクス様……僕がいった通りになったでしょ? ここからは僕にバトンタッチね」

 

 今まで無言だった黒ローブが、残念そうな顔をしているイアディクス様の肩を『ぽんっ』と叩く。

 きっと黒ローブ様にも名前があるんだろうなぁ。


「うん。僕の名前は黒ローブじゃなくて、ルグナヴァルっていうんだ」


 ルグナヴァル様っていうと、確か迷宮を司る神様だ。

 今世には遺跡の他に、迷宮がある。

 遺跡が過去の遺物に対し、迷宮は魔術的構造物で、ルグナヴァル様の産物とされている。

 迷宮は宝箱があって、中身には有用なアイテムがあったり、最深部にいるボスを倒すと更に珍しいアイテムが貰えるくらいしか、現状では分かっていない。


 今世の人々は遺跡と迷宮の違いが明確に分かってないから、どっちも研究する人が多かったが、オレは違うって知ってたから、迷宮の研究は全くしてなかった。


「そうそう、僕はその迷宮を司る迷宮神なんだよ。何で僕が君の前に姿を現したかというと、君をダンジョンマスターとしてスカウトするためなんだ」


 ん? またあまり馴染みのない言葉だけど、創造神への誘いよりは衝撃が少ないかな。


「そもそも迷宮の仕組みっていうのは、僕がこの世の全ての迷宮の管理責任者で、その下に個別の迷宮を管理するダンジョンマスターという存在がいるんだ。ちなみにダンジョンマスターは僕の配下で眷属ね」

 

 なるほど、前世風にいえばビルメンテナンス会社があって、支店ごとに色々なビルを管理してる感じか。

 ビルメンテナンス会社本社の社長がルグナヴァル様で支店長がダンジョンマスターって感じか。


「違うところもあるけど、大まかにはその認識でオッケー」


 なんかルグナヴァル様は口調が軽いな……まあ、いいか。


「で、迷宮神である僕は神だけど、眷属であるダンジョンマスターは半神という扱いになる。眷属になった段階で、神格化は止まるから、創造神になるほどの神力を得ることはなくなるね」


 とりあえず創造神にならなくて済むのはありがたい。

 ブラジャーとショーツから逃れたいのに、更に近づくのは絶対イヤだから!


「ダンジョンマスターになったからといっても、完全に逃れられる訳ではないんだけど、創造神になるよりかはマシかな?」


 ん? 完全に逃れられないってどういうこと?


「え~と、ダンジョンマスターって、なるために必要な条件っていうのがあるんだ。君はそれに当てはまっているから、こうやってスカウトしにこれたんだよね」


 神じゃないとはいえ、それなりに力ある存在ではありそうだしなぁ……ダンジョンマスター。

 誰でもポンポンなれる訳ないか。


「その条件っていうのが、生涯において強烈な後悔をし続けた、性経験がない人間なんだよね。で、君の場合はそれに完全に合致してるんだ」


 まさかの条件一致。

 確かにオレはブラジャーとショーツに関して同じ後悔を強烈にし続け、前世の彼女の思って生涯魔法使いを貫いた。

 ダンジョンマスターになるための後悔の内容考えたら、完全に逃れられないってのは確かにその通りか……


「まぁ、もちろんそれもあるんだけど、ダンジョンマスターの力の源って君の後悔なんだよね。だから作るダンジョンもダンジョンマスターとしての力も、その後悔に影響されるんだよ。つまり君の場合、ダンジョン内にある宝箱の中身や、ボスを倒した際に手に入れらるアイテムが、ブラジャーとショーツに限定されることになる」


 なんですと?! お宝が全てブラジャーとショーツのダンジョンなんて嫌すぎる。


「でもさ、地上の人からすると、ダンジョン産のアイテムは質がいいから喜ばれるし、それがブラジャーとショーツなら、たくさんの人で賑わう、いいダンジョンになると思うんだ」


 悔しいけど確かにその通りなんだよな。でも宝物がブラジャーとショーツだけのダンジョンは心理的に嫌すぎる。


「じゃあ『創造神ブラジャーショーツ』様として、一緒にこの世界をより良くしていこうよ」


 黙っていたイアディクス様が、ここぞとばかりに攻勢を掛けてきた。

 無理です、ブラジャーショーツと呼ばれるのはもっと嫌なので……


「ダンジョンの名前は君の意思である程度決められるからね。あまりにも力の源から離れる名前は付けられないけど」


 せめて全く無関係の名前つけさせてください。というかある程度ってどのレベルなんだ?


「本当は『ブラジャショツの迷宮』にして欲しいんだけどなぁ……地上の人の受けがいいと思うし。それは嫌なんだよねぇ?」


「当たり前です!」


「そうなると、ギリギリ名前が付けられるラインでいうと『頭部を飾る麗しき装身具の迷宮』とかかな」


 なんか厨二? な感じはするけど『ブラジャショツの迷宮』よりはマシか……


「念のために聞きますが、創造神にもダンジョンマスターにもならない……という選択肢は?」


「うーん、なくもないよ。けど今でさえある程度、君は人の信仰を集めているから、それなりに力ある存在にはなってしまうんだよね。創造神とダンジョンマスター以外だと、あとはブラジャーとショーツを司る精霊になるしかなくなるけど、それでいい? ちなみに司ってるから姿形はもちろんブラジャーとショーツ被ってる状態だし、基本的には外れないよ」


 ナニ、その呪いのような状況……

 それを聞いたら、ダンジョンマスターが一番マシな選択肢に思える。

 とりあえずダンジョンの名前は、出来うる限りブラジャーとショーツから遠い名前を考えるしかない。


「分かりました……ダンジョンマスターになります……」


 そうして結局のところオレは、死してなおブラジャーとショーツの呪縛から解き放たれることなく、宝物が全てブラジャーとショーツなダンジョンを運営する事になるのだった……

評価など頂ければ嬉しいです。

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