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8)婚約者に突然、会えなくなりました 2

 ドレス選びの帰りの馬車で、私はやっぱりユリウス様のことを考えていました。

 邸につくとそのまま、私はお母様のお部屋に向かいました。お母様のお部屋はアイボリーで統一されていて、ところどころお母様自身の手で小さなお花の刺繍がされています。

 その愛らしい刺繡を見ると、気持ちが落ち着くのです。

「お母様、ユリウス様が最近いらっしゃらないのは、お仕事がお忙しいからなのですって。私がユリウス様に、何か出来ることはないかしら」

 お母様は刺繍が得意ですが、私は刺繍がそれ程得意ではないのです。

 お母様くらい刺繍ができれば、ハンカチに心癒される刺繍をしてお渡しするのに。


 「あら、そうなの。ユリウス様がこんなにリリーに会いにいらっしゃらないなんて珍しいと思って、旦那様に聞いてみたの。ユリウス様はむしろ最近、前より登城時間が短いと聞いていたのだけれど…。アマンダ様がそう仰るなら、お城以外でのお仕事が忙しいのかしらね。お城にいらっしゃる時に、軽食をお届けしたらどうかしら」

 お母様はそう言うと、軽食にかけるようにと布を一枚くださりました。そこには小さなスズランが刺してありました。


 何て素敵な提案でしょう。さすがお母様です。

 ユリウス様のお疲れを癒せて、私はユリウス様にお会いできる。更にもしかしたら、一緒にランチも出来るかもしれない。

 1つの石で3羽の鳥を落とすような名案です。


 でも。

「お仕事中に、おじゃまではないかしら」

「ユリウス様が、リリーを邪魔だと思うだなんて、想像すらできないわ」

 お母様はそう言って、ふふふと笑いました。

 最近気弱になっていた私は、その言葉に少し元気が出ました。

 

 「お母さま、ありがとうございます。明後日のご予定を確認してみますわ」

 そっとハグしたお母様からは、白百合の淡い香りがしました。


◇ ◇ ◇


 翌日アマンダ様に、“ユリウス様に軽食をお届けしたいのですが、ご都合はいかがでしょうか”とお伺いのお手紙を書きました。

 直接ユリウス様に送らなかったのは、ユリウス様からの素っ気ない返信を見る勇気がなかったからです。


 アマンダ様からは、“是非に”というお返事が届きました。

 “明日は登城していること”、“お昼の時間は会議なので、執務室にいないこと”、“執務室に置いてほしいこと"、出来ればお手紙を添えると喜ぶと思うこと”が書かれていました。


 3羽の鳥は落とせなさそうですが、ユリウス様を少しでも癒すという1羽は落とせそうです。

 お会いできるかもしれない!と膨らんだ気持ちが、しぼみそうになるのを一生懸命ふくらませて、明日お渡しするお手紙を心を込めて書いたのでした。

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