6)婚約者が突然、できました 3
公爵家の皆様が帰られた後、お父様は、お部屋に家族を集めました。
いつもならもう寝ている時間だったので、私は眠い目を擦りながらお父様のお話を聞いていました。
「今日から、リリーの婚約者はユリウス様だよ。リリーは大きくなったら、ユリウス様と結婚するんだ」
ユリウス様と、結婚―。
憧れの王子様と、つまり―。
「リリ、おひめさまになれるの?」
眠かったことも忘れてお父様にそう聞くと、苦笑いをして「ユリウスさまだけのお姫様になるんだ。幸せになるんだよ」と優しく抱きしめられました。
ユリウス様のお姫様になれる!
その夜は全然眠れず、なかなか眠らない私に困り果てた侍女が呼んだお母様に手を握られながら、幸せな夢に落ちたのでした。
◇ ◇ ◇
それから10年―。
「ユリウス様は今日もとっても素敵です!」
今日も今日とてキラキラと麗しいユリウス様はいつもの微笑みで「ありがとう。リリアーヌは、今日も可愛いね」と返してくれます。
出会った頃は9歳の素敵な王子様だったユリウス様は、19歳になり素敵な美丈夫の宰相補佐になりました。
ユリウス様は聡明でお仕事もテキパキとこなしていらっしゃるようですが、噂では「鬼の宰相補佐」と呼ばれる方もいらっしゃるようです。同じ宰相補佐として働く優しいユリウス様が、その方のせいで職場で大変な思いをされていないか少し心配です。
そうお伝えすると、「リリアーヌは優しいね、でも大丈夫だよ。ありがとう」と微笑んでくれるのです。そのお顔は成長と共に精悍になったのに、微笑みはずっと変わらず優しいので、私も嬉しくなって笑ってしまいます。
輝く白銀の髪の毛はあの日と同じくキラキラと輝き、当時から高かった背は更に高く、手足はすらりと長く、近くに立つと見上げるほどです。
昔から変わらず優しいユリウス様が、私の目線にあわせて話してくださるので、長く話していても首が痛くなることなどないのですが。
そして今年は、私のデビュタントの年です。
私のデビュタントのお披露目が済むと、待ちに待ったユリウス様との結婚式を催します。
あのお茶会以上にキラキラした1年が始まるのです!
隣国に嫁がれたお姉様も、その日は帰ってきてくださるとのこと。
幸せで楽しみなキラキラした未来しかありません。
「楽しみですね、ユリウス様!」と言うと、「ああ、待ち遠しいよ」と微笑んでくださるユリウス様。
まさかあの日のお茶会以上に心が塞ぐことになるとは、この時の私は想像もしていませんでした。