5)婚約者が突然、できました 2
その日の午後、お気に入りのデイドレスに着替えた私は、ユリウス様とお茶をいただいていました。
ユリウス様と公爵夫妻が、昨日の記念にとお茶会に飾っていたクマのぬいぐるみを贈りにきてくださったのです。
お花が大好きなお母様が季節毎に設計されるお庭をユリウス様にも見ていただきたいとお願いすると、「喜んで」と快諾してくださったので、私たちは二人はお庭の東屋でお茶をすることになりました。
ユリウス様はその日もやっぱり、王子様のようにキラキラと輝いていました。
「リリアーヌ嬢、今日も妖精のような愛らしさだね。菓子は食べられたかな?」
「ええ!今日のあさは、ユリウスさまからいただいたおかしたちを、朝ご飯にしてよいと、お父さまからおゆるしをいただいて、とてもしあわせな朝でしたの!」
朝の幸せに満ちた時間を思い出してうっとりと話す私に、ユリウス様はにっこりと微笑みました。
「それはよかった。ギネス家に来れば、いつでも好きなように食べられるよ。我が家に来るかい?」
私は王子様にまたすぐ会えたことに浮かれて、更にまたあのキラキラしたお菓子を食べられることに嬉しくなって、思わずユリウス様のお手をとってしまいました。
「ぜひ!行きたいですわ!」
そして勢いよく答えると、ユリウス様は更に笑みを深めて振り返りました。
つられて振り向くとそこには、ギネス公爵様と公爵夫人のアマンダ様がいらっしゃって、「よくやった!」「さすがよ、ユリウス!」と何故かユリウス様を称えていました。公爵家御自慢のパティシエを賞賛したことが、そんなに嬉しかったのでしょうか。
嬉しそうに笑いあう公爵夫妻の隣ではお父様とお兄様がぼんやりと立っていて、お母様とお姉様は「あらまぁ」と言いながら頬笑んでいました。
ユリウス様は私がとった手を握りなおすと、「早く公爵家においで、可愛いリリアーヌ」とその手の平に口づけを落としたのでした。
◇ ◇ ◇
ギネス家へのお招きを請けた後、ギネス公爵ご夫妻とユリウス様、お父様とお母様は大切なお話があるとお部屋に戻られました。私はお姉さまと、お茶の続きをしながら、あのユリウス様ににた王子様が出てくる童話を眺めて過ごしました。
その後随分と長く話し合いが続いて時間も遅くなったので、お夕ご飯はギネス家のお三方もご一緒でした。昼間ぼんやりとされていたお父様が少し心配だったのですが、その頃にはすっかりいつもの様子でギネス公爵と杯を交わしていました。
お父様はいつも通りになりましたが、お兄様は何故かまだ、様子が違いました。
お食事の間ずっと私の隣に座って、まるで幼子にするかのように甲斐甲斐しく世話を焼いてきたのです。
「お兄さま!私はもうおさなごではありませんのよ。おしょくじのマナーだって、チューターにほめられますのよ」
ユリウス様の前で幼子のように扱われ恥ずかしくなった私がそう言うと、「確かに、リリアーヌの所作は美しいね」とユリウス様が褒めてくださったので、私の頬はぽっと熱くなりました。
それを見ていたお兄様が「いっそ幼子のままならよかったのに…」とうなだれていたことには、王子様に夢中な6歳の私はまったく気がついていませんでした。
「ギネス公爵家にいく」ことが、「ギネス公爵家に嫁く」ことだということにも。