3)婚約者に突然、出会いました 3
夢のようなお茶会から一変、私にとって悲しい時間となりました。
キラキラと輝くお菓子を眺めながら、気持ちをかくして微笑みながらお茶で口を濡らすだけの時間。
こうなっては、この抜けるように青い空も憎々しく感じてしまいそうです。
私と同じく公爵家のお菓子を楽しみにしていたお姉様も、気を遣ってお茶を召し上がりながらお話に付き合ってくれました。
そのことを申し訳なく思う気持ち、どうしてこのドレスにしてしまったのかという後悔、仕事の出来る侍女達への八つ当たりを心の中で繰り返していたまさにその時、ユリウス様に初めてお会いしたのです。
◇ ◇ ◇
「こんにちは、小さなレディー。菓子はもういいのかな?」
穏やかな声をかけられ振り向いた私は、突然の王子様の登場に固まってしまいました。
短く整えた白銀の髪は太陽の光にまばゆく輝き、整ったお顔に穏やかな微笑みを浮かべていて、大好きな童話の王子様が現れたのかと思ったのです。
そんな私の手に軽く振れて気を引き戻してから、お姉様がその王子様を紹介してくれました。
「ユリウス様、ごきげんよう。リリアーヌ、こちらがギネス公爵家のユリウス様よ。ユリウス様、ご紹介させてくださいませ。こちらは妹のリリアーヌと申します。本日のお茶会を大変心待ちにしていましたの。リリー、ご挨拶を」
そこでようやく、この王子様がユリウス様なのだと気がつきました。
ぽかんとしてしまったことを恥じながらそっと立ち上がり、緊張しながらカーテシーをしました。
「おはつに、お目にかかります。チャムリー家次女のリリアーヌともうします。ほんじつは、このような素敵なお茶会に、おまねきいただき、ありがとうぞんじます」
「ああ、母が今回の茶会に力を入れていたことも納得の愛らしさだね。リリアーヌ嬢、私はギネス家嫡男のユリウス。ユリウス=ギネスだ。母だけでなく、私とも仲良くしてくれると嬉しいな」
つたない私の自己紹介に、ユリウスさまは紳士の礼をしてくださりました。
その礼の流麗さと、さらりと風にゆれる白銀のまばゆさに、私は瞬きを繰り返しました。
なぜなら、そのお姿とお言葉は正に、童話で王子様がお姫様に初めて会ったときと同じだったのです。
「リリアーヌ嬢は、我が家の菓子を楽しみにしていたと聞いているよ。テーブルに見当たらないけれど、食べないの?」
童話の中に迷い込んだかと困惑する私に、ユリウス様はそう問われました。
突然現れた王子様に話しかけられているという状況に、私の頭は混乱していました。なので、何も考えずにありのままを伝えてしまったのです。
「ええ、とてもとてもとっても、楽しみにしていましたの。いただいたベリーのタルトは、夢のようなおあじでした!でも腰のリボンがぎゅうとなっていて、もうおなかに入らなくて…」
私の返事を聞いたユリウス様は喉の奥で少し笑って、「そうか、では侯爵家に菓子を持ち帰るよう、包ませそう。だからそんな悲しい顔をしないで。今は、私とお話をしようか」と隣のお席につかれました。そして、お菓子を侯爵家に持ち帰れるように手配してくださりました。
帰るときに馬車へエスコートしてくださったときには、「邸で心置きなく食べるといいよ。次回会ったときに、また菓子の感想を教えてくれるかな」とやっぱり王子様のように頬笑まれたので、私はマナーも忘れて「ええ、もちろんですわ!」と元気にお返事をしてしまったのでした。