22)婚約者はいつも、想っている sideユリウス 2
先触れとほぼ同時に現れたキール殿は、険しい顔をしていた。
「ユリウス殿、もう限界だ。昨日、城へ行った日にリリーは、貴方の素の姿を見たようだ。また、その時の会話を聞き、貴方に嫌われているが無理して結婚すると勘違いしている」
挨拶もそこそこに告げられたキール殿の話に、全身の血の気がひき、くずおれそうになった。
私は確かに、リリアーヌの“王子様”たらんと努力して、リリアーヌの前では“素敵な王子様”である。
リリーヌの前だけでは。
それ以外の場では笑うことはなく、口調も冷たく辛辣で王子様からはほど遠いと自覚している。
自分が“鬼の宰相補佐”と呼ばれていることも知っている。
リリアーヌはそれが私のことだとは夢にも思わず、私の他にもう1人宰相補佐がいると思っている。
その人物と共に働いていて大変ではないかと、心配してくれたこともある。
本当に、リリアーヌは優しさでできているに違いない。愛しい。
大丈夫だと告げたときの、ホッとした顔も可愛らしかった。
私は嘘は言っていない。仕事は問題なくこなしている。
ただ“鬼の宰相補佐”が自分のことだと告げなかっただけだ。
現実から目をそらし、リリアーヌのことを想うとたちまち、リリアーヌへの愛がびっしりと綴られた紙がわき出す。
家の者も慣れたもので、すぐに紙を回収し、下がった。
「もう、リリーに全て話した方がいい。チャムリーの天使をこれ以上、傷つけたくないのなら」
キール殿の最後の言葉に、私は決意した。
何より大切な彼女を傷つけてまで、私は何をしているのか。
「これを、頼む」
私は昨日わき出したリリアーヌへの紙の束を、キール殿に託すことを決意した。
決意したのだが―。
「ユリウス殿、分かったから。貴方の気持ちはしっかりと伝えるし、悪い結果にはならない。だから、紙束から手を離してくれないか」
頭では分かっていても、これを読んだリリアーヌがどう思うのか。それを考えると、紙束から手を離すことができなかった。
キール殿に紙の束を託せたのは、それから数分経ってからだった。




