19)婚約者に突然、会えました 3
「で、でも…。私、聞いてしまったのです。ユリウス様が“リリアーヌに会いたくない”と、“仕方なく婚約を続けている”と同僚の方にお話しているのを…。ユリウス様は無理をなさっているのではないのですか?」
ユリウス様を直接見て聞く勇気のない私は、ユリウスさまの大きな手の平を見つめながら聞きました。
何となく、ユリウス様は私を好いていてくださっている(どころか、私の知らないユリウス様がいるような気もするのですが…それは置いておいて)ことは分かったのですが、それでも私ははっきりと聞いているのです。
ユリウス様が“私に会いたくない”と、“婚約継続は仕方ない”とお話されていたのを。
今、聞いておかなければ、どれほどユリウス様が優しくしてくださっても、いつまでも心の片隅で「ユリウス様は仕方なく婚約(いずれは結婚)してくださったのだ」という気持ちが残る気がします。
ユリウス様のお返事が返ってくるまでの時間はとても長く感じましたが、先ほどよりも大量に紙が舞っていることも気になります。
足下に落ちてきた1枚に、ユリウス様の整った字で書かれた怖い言葉を見たような気もしましたが、読み直す前に侍従がさっと回収していきました。
私の手を握る力が少し強くなった気がして見上げると、ユリウス様は呆然としたまま固まっていました。
「、ユリウス様?」
そっとお声がけするとユリウス様は、はっと意識を取り戻し、「いつ、誰がそのようなことを言ったんだい、愛しいリリアーヌ?」と私の頬に手を添えました。
その手は少し、震えていました。
「昨日、ユリウス様に軽食をお持ちした時に…回廊でユリウス様が同僚の方とお話しているのが聞こえてしまって…。ユリウス様は、とても不快そうに私のことをお話されていましたよね。」
ユリウス様の輝く金色の瞳をまっすぐ見つめながらそう問うと、ユリウス様は軽く息を吐き、そのまま私の手を握りました。
「可愛いリリアーヌ、あの時君は近くにいたんだね。でもそれは誤解だよ。愛しい君に会いたくても会えない状況に辟易していて、少し強い口調になってしまったのかもしれない。驚かせてしまってごめんね。あの時話していたのは、宰相閣下だ。閣下は私のこの状況を知っているから、気にかけてくれていてね。君との婚約は私が望んで結んだもので、私が君と結婚したい。君に会ったときから今までずっと、私は君に恋い焦がれているよ」
そう言って微笑んだユリウス様が、私の手の平に軽く口づけました。
それは婚約の決まったあの日と同じで、私の不安な気持ちを魔法のように消し去ってくれたのでした。