18)婚約者に突然、会えました 2
ユリウス様はそのまま、私を庭までお姫様抱きでつれていってくださりました。
ユリウス様の整ったお顔が余りにも近く、心臓がどっくんどっくんと音を立て、顔はぽっと熱くなります。
庭には既にお茶の用意がされていて、そこでお話の続きを伺うことになりました。
ユリウス様から謎の紙が何枚も飛び出し続ける、不可思議な状況の中で。
◇ ◇ ◇
「可愛いリリアーヌ、しばらく会うことも手紙を書くことも出来ず、申し訳なかった。会えない日々は、本当に地獄だった…。宰相補佐など辞めようと思ったけれど、私の可愛いリリアーヌが宰相補佐になったことを喜んでくれたときの姿絵を見ることで、踏みとどまったよ。ありがとう、私だけの天使、リリアーヌ」
ユリウス様の微笑みと口調はいつもと同じく穏やかですが、何故か私の名前がすごく長く感じます。
ユリウス様が最年少で宰相補佐になられた時は、ユリウス様の努力が認められたことがとても嬉しかったのは事実です。
しかし、その時の姿絵をお持ちだなどとは知りませんでした。
そして、宰相補佐という大切なお仕事を、そんな理由で辞めようとしないでほしいです。
いろいろと思うところはありますが、やっぱり気になるのは、ユリウス様から絶え間なく降り注ぐ紙とその内容です。
その1枚をつかんでみれば、そこにはやはりユリウス様の筆跡で“あの時の妖精のように微笑むリリアーヌの姿絵は10枚あるが、そのどれも本物の愛らしさの10万分の1も再現できていなかった。いや、しかしリリアーヌは絵姿であってもやはり愛らしい。”と書かれていました。
これは、一体…
首をかしげる私の手からそっと、その紙を抜き取ったユリウス様は少し困ったお顔をされました。
「実は私の仕事の多さを懸念した宰相閣下が、脳内で強く思ったことが書類として出力される魔法を考案するよう魔法省に要請したんだ。確かに仕事上では大変有益だったよ。効率があがって、仕事を早く終えるようになった。だから、愛くるしいリリアーヌとの時間が多く取れるようにはなるはずだったんだ…」
ただ、とユリウス様は続けました。
「ただ、魔法省も想定外だったのが、私のリリアーヌへの想いの強さでね。妖精のように愛らしいリリアーヌのことを深く愛し、常に私の女神であるリリアーヌについて考えているから、いつもより少し強くリリアーヌのことを考えるだけで紙が舞ってしまうんだ。ましてや、この世の誰より愛しいリリアーヌ本人を目の前にしたならば、ご覧の通りで」
ユリウス様は困ったように、自身から絶え間なく舞う紙を示しました。
ユリウス様が連れてきた従者が、彼から舞う紙をせっせと集めています。
ある程度まとまると馬車に載せて運び出して行きますが、その馬車ももう何台目か分からなくなってきました。
「このような状態では、優しいリリアーヌを困らせてしまうだろう。この魔法を解除するよう、すぐに魔法省に依頼したのだが…。まだ試験段階で、治験も兼ねての施術だったんだ。そして、予定していた解除方法が効かず、今日まで来てしまった…」
ユリウス様はふうっとため息をついた後、「不安にさせてごめんね」と私の手を握ってくださりました。
その手の温かさと、まっすぐに私を見つめる真摯な眼差しに、私は勇気を出して聞きました。
今までのユリウス様とのキラキラ輝く思い出の中に影を落とす、あの時のことを。