16)婚約者は突然、回想を始める sideユリウス 3
ギネス公爵家の茶会の菓子に顔を輝かせるリリアーヌも可愛かったし、なぜか落ち込んだまま茶を飲むリリアーヌも可愛かった。
どうしたのか聞くと、今日のために新調した洋服のせいで1つしか食べられなかったという。可愛い。
菓子を持ち帰るよう手配したと伝えると、ぱあっと明るい笑顔が戻った。可愛い。
次に会ったらという話をすると、笑顔で快諾される。可愛い。
その夜、今すぐにでもリリアーヌと婚約を結びたいと言った私に、明日チャムリー侯爵家への訪問を既にとりつけてあると父が答えた瞬間、喜びのあまりハグをしようとしたら避けられた。
我が父ながら、齢の割になかなか機敏であると感心した。
◇ ◇ ◇
1日ぶりに会うリリアーヌは、やっぱり可愛かった。
突如訪れた(約束は前々からしていたが、本人には当日私に会った感想を聞いてから伝えるつもりだったという)私に、リリアーヌはキラキラと輝く笑顔で菓子の感想を伝えてくれた。
その一生懸命さも、可愛い。
菓子には興味がないが、リリアーヌの感想は重要である。
そのつややかな赤い口から出てくる、小鳥の歌のような愛らしい声を聞きながら、私はある思いを強めていった。
今すぐにでも公爵家に連れて行きたい。
しかしリリアーヌのお父君は勿論、我が父もリリアーヌが応と言わねば婚約すら難しいだろう。
だから聞いた。
「それはよかった。ギネス家に来れば、いつでも好きなように食べられるよ。我が家に来るかい?」と。
純粋なリリアーヌは答えた。
「もちろん!いきたいです!」と。
だまし討ちのような会話を、両家の親が来たタイミングで投げかけたのが卑怯な自覚はある。
でも、それでも、そうまでしてもリリアーヌを手に入れたかったのだ。
その判断を、私は今でも後悔などしていない。




