12)婚約者から突然、恋文が届きました 1
次の日、朝ご飯の席に着くと、お父様とお兄様が心配そうに私を見ていました。
お母様はいつもと同じ風ですが、私の様子をきにかけていらっしゃるのは分かります。
「私は、ユリウス様に好かれていなかったようです」
静かな食堂では、私の掠れた小さな声でもきちんと家族に届きました。
「そんなわけがなかろう…」
「ユリウス殿に限って!」
「そうねえ、考えづらいわね」
家族はそれぞれに否定してくれます。
確かにユリウス様が、王子様ごっこに付き合ってくださっていただけなど、考えられないでしょう。
でも私はこの耳ではっきりと聞いてしまったのです。
「リリー、朝ご飯をいただきましょう。その後のお茶の時間に、何があったか教えてちょうだい。大丈夫、私たちはいつでも貴女の味方よ」
どのように説明したものかと迷っていると、お母様が私の手にそっと触れてそう言いました。
その言葉に給仕が再開し、いつもより静かな朝ご飯がはじまりました。
◇ ◇ ◇
「ユリウス殿が、“仕方なくリリーと婚約した”、と?」
「ええ、それもとても低く怒っているようなお声でした。お優しいユリウス様があれほどお怒りなんですもの、私はユリウス様との婚約を解消した方がよろしいかと」
私の話を聞いたお父様は「ああ…」と遠い目をなさいました。
いつかも見た光景だわと思っていると、お兄様が慌ただしくお部屋を出て行かれました。
戻ってきたときには、外出の準備をされていて、わたしをハグしながら出立の挨拶を告げられました。
「リリー、僕の宝物。お兄様は今から少し出かけてくるよ。大丈夫、何も悪いことなど起きないからね。リリーは母上とお茶を楽しんでおいで」
お兄様は昨日私が泣いて眠ったと報せを受けて、出張を切り上げて帰ってきてくださったそうです。
お仕事に戻られるのだと思った私が「お気をつけていってらっしゃいませ」とご挨拶すると、「必ず生きて帰る!」とまるで戦場にでも出かけるような凜々しいお顔で出立されました。
よっぽど過酷なお仕事があるのでしょうか。
◇ ◇ ◇
出張の続きに戻ったと思っていたお兄様がお帰りになったのは、その日の午後でした。
いつもはお仕事帰りでもパリッとしているお兄様が、何故かげんなりとされています。
そして手には、文書の束。
その1枚目がひらりと風に舞いました。
お仕事の書類だったら大変だと拾ったそこには、「親愛なるリリアーヌ」とユリウス様の美しい字で書かれていたのです。