10)婚約者に、会いに行きました 2
お相手の殿方は不機嫌なユリウス様にもかかわらず、愉快で仕方ないと言うように言葉を重ねます。
私があのような応答をされたなら、重ねて何も言えないでしょう。
「チャムリー嬢との婚約はどうするんだい?」
話が、私との婚約の話に移りました。
これは聞いてはいけない話だと分かります。
分かりますが、ユリウス様に気がつかれず、でも声が聞こえる範囲で追いかけてしまいます。
ユリウス様の言葉で1度止まった私の場所がちょうど柱の横だったこともあり、お二人は気がついていないようです。
「どうするって…どうしようもないだろう。母が楽しみにしている」
ユリウス様の言葉にはやっぱり、恨みがたっぷりと込められていました。
私と会うことを「避けている」。
私とを会うことは「うんざりする」。
それでも私との婚約は「どうしようもない」。
なぜなら「母が楽しみにしている」から。
確かに公爵家ご夫妻は、私を小さい頃から実の娘のように可愛がってくださっていて、ユリウス様と結婚して義娘になる日を心待ちにしてくださっています。
でも、だからって…
ユリウス様が優しかったのは、ご両親がこの結婚をお喜びだったから?
ユリウス様は、わたしと結婚したくないの?
一体いつから?
もしかして…、最初から?
一度浮かんだ気持ちはどんどん膨らんで。
「サラ様、申し訳ないのだけれど、具合が悪くなってしまったの。ここまでお持ちいただいたけれど、このまま馬車まで戻ってもいいかしら」
私はバスケットを持つサラ様のお返事も待たずに踵を返しました。
馬車に乗るときに「差し入れだけでもギネス殿にお渡ししましょうか」と気遣っていただいたけれど、私は唇を噛んだまま首を振るのが精一杯でした。




