3-16 新しい旅
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その日も強い日差しが照りつけていた。
アルカディオは荷物を手に市場の間を抜けていた。すぐ横をクロエスが並んで進み、後ろにアールとリコの姿がある。アールとリコもそれぞれに荷物を持っていた。
「一度、ソダリア王国に戻って、闇の峰へ行ってみようと思います」
歩きながらのアルカディオの言葉に、そうだね、とクロエスが頷いている。
「まあ、今の国王陛下は寛大なお方だ。きみをいつまでもどこまでも追いかけたりしないだろう」
「せっかくの計らいを無視してしまうのは心苦しいですが」
「それなら、剣術師範とやらになるかい?」
アルカディオは首を左右に振った。
とりあえずは東部山脈の周囲で戦死者の葬いをする。これは絶対だ。その後、山脈を越えるなりして汗国に行こうというのが、この時の計画だった。
ついに市場を抜け、港が見える。何隻かの船が停泊していた。いく隻かでは荷物の積み込みが進んでいるのも見て取れた。
四人で桟橋へ進み、船に乗り込んでいく人々の列に並ぶ。クロエスは脇へ下がった。
「行っておいで、アルカディオ」
クロエスの言葉に、アルカディオは頷いた。
列は先へ進む。クロエスとアルカディオの距離は開いていく。
やがて船と桟橋の間に渡された板を渡って小舟に乗り、そこから沖の大型船まで移動してアルカディオは船の甲板まで上がった。
縁に沿って設置されている柵の際へ進み、遠くの桟橋にクロエスを探した。
彼は眼帯に覆われた顔をアルカディオの方に向け、手を振っている。アルカディオも手を振り返した。
船が桟橋を離れる合図が響き渡った。
乗客たちが声を上げて、桟橋に手を振っている。アルカディオもそれに混ざっている。
船が島を離れ始めた。
これが最後になるとは、アルカディオには思えなかった。
またここへ戻ってこられる。
不思議と確信のようなものがあった。
どこまでも旅をしても、自分は必ずここへ戻ってくると、知っている。
いよいよ海へ進み、桟橋の様子は見えなくなった。
アルカディオはそれでも本当に見えなくなるまで、甲板に留まっていた。
鳥が何羽も飛んでいる。
太陽は眩しく、風は柔らかい。
海は穏やかで、優しい。
アルカディオは一度、目を瞑った。
旅が始まる。
新しい旅が。
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後の時代において「ソダリア王国の魔剣戦争」という物語がいくつか生まれることになる。
主役は天才剣士の青年で、彼は聖剣に選ばれ、十二人の騎士を率いて魔物の群れと戦い、魔剣を破壊することで世界を救ったとされる。
この物語の謎は、主人公が聖剣を手に入れる場面が様々なことと、もう一つ、主人公の名前がバラバラなことである。
資料の散逸、証言の曖昧さがそうさせるようだが、ソダリア王国の公式記録と一致する名前がないため、この謎は謎のまま残されている。
(第三部 了)
(完)




