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1000年前

ゆっくりと沈んでいく感覚。目を開けると水の中に沈んでいくのが見えた。水面に手を伸ばそうとするが腕は動かない。それに不思議と息苦しくはない。夢か、とすぐに納得する。白昼夢ってやつだろうか?でもなんでこんな夢を?


「ごめんね、みんな。私は元の世界に帰るよ」

「嫌、待ってよ!まだ、まだ話したいこと……やりたいこといっぱいあるから!だから……」

「わかってる、だけど私もう皆と一緒にいれないから」

「そんなこと言わんといてや……僕…僕は聖女とおれるん、楽しかったで?やから……」

「私も楽しかった!元の世界に帰りたくないくらい」

「じゃあいいじゃん、こっちにいてよ。一緒にいようよ」

「でもダメなんだ。私は……もう、一緒にいれないの」


3人の男と1人の女の話し声が辺りに響く。姿は見えない。この会話は……1000年前の魔王討伐の後の話……?


「やけど……!」

「シャッテン、もう諦めよう」

「なっ、ラートはこれでええんか!」

「良くない!嫌だけど……でも、聖女がそう決めたなら俺は従うよ……ファルシュは?」

「ぼ、僕は……」

「ファルシュも嫌やんな?聖女がいなくなるんは」

「嫌、嫌だよ。でも……でも、聖女を僕たちがここに無理やり残すのは違う、よ…………」

「っ!それは……そうやけど……でも」

「シャッテン、ありがとう。私も皆と別れるのは悲しいよ。でももうここにはいられないから、だから……最期は笑ってお別れしたいよ……だめかな?」

「わ、わかったよ……聖女がそこまで言うんなら…………僕らのこと忘れんといてな?」

「うん、もちろんだよ」

「なぁ……聖女」

「ん?」

「最後に1つお願いあるんだけど」

「いいよ、ラートの願いなら帰るなってこと以外なんでも聞いてあげる」

「皆で写真、撮りたい。思い出の。最後の」

「!もちろんだよ。ほら、撮ろう撮ろう」

「聖女の持ってるすまほ?ってやつで撮りたい。そしたら聖女は俺らのこと何時でも思い出せるでしょ?」

「…………そうね、そうしようか」

「じゃあ僕が魔法で撮ってあげる!ここ押せば撮れるんだよね?」

「うん、そうだよ」

「よーし、じゃあみんな並んで!聖女は真ん中!」

「わかったわかった」

「行くよー!はいチーズ!」

「どう?上手く撮れた?」

「うん、バッチリだよ」

「あ、そうだ!僕も聖女に聞きたいことあったんだ」

「ん?」

「聖女って名前なんて言うの?結局教えてくれなかったじゃん」

「そうだったっけ?私の名前は…………シェーン。シェーンっていうの」

「シェーン……ん、僕シェーンのこと忘れないよ」

「俺も!」

「僕やって忘れへんよ。僕たちの大切な仲間」

「ありがとう。じゃあ解散!最期は笑顔でお別れしよ」

「うん、またね」

「バイバイじゃないよ、また会えるって信じてるから」

「……ありがとう」

「シェーン…………ずっと忘れないから」

「うん……またね!みんな」


その声を最後に声が無くなる。シーンという音が耳に聞こえそうなほど静かだ


「……シェーン」


その時誰かの声が聞こえた。これはファルシュ……?


「ファルシュには誤魔化せないか」

「どうしようもないの……?」

「うん、どう頑張っても治らなかった」

「そう、なんだね……」

「でも私は楽しかったよ?だって……余命宣告されて……動けないままそのうち死ぬんだろうなって思ってたから」

「僕もシェーンに会えてよかった」

「そっか。ねぇ……ファルシュ」

「なあに?」

「私ずっと死ぬの怖かった」

「そりゃ、そうだよ。誰だって死ぬのは怖いよ」

「でもね、みんなに会えて死ぬのそこまで怖くなくなったんだ。だって今ここで命尽きてもきっと、みんなの中で私は生き続けられるでしょ?」

「うん、うん……そうだよ。僕は絶対にシェーンを忘れないよ」

「ありがと。君たちに出会えて本当に良かった」

「僕も。僕こそ本当にありがとう」

「……ファルシュ。お願いがあるの」

「いいよ、なんでも言って!」

「最期まで一緒にいて欲しいな。皆を遠ざけた私が言うのもなんだけどさ」

「もちろんだよ。ほら、手出して?」

「ありがとう」

「うん……うん、いいよ……」

「ファルシュ、泣かないで……?私、みんな、に……会えて……よか、た……よ」


女性の声が段々と弱々しくなって消えていく。その後誰かの啜り泣く声だけが響いていた。なんでこんな夢を見たんだろうか。この話は知っているけど……でも……夢に、見るほど衝撃的だったのかな?1000年前の聖女様は…………ううん、もう会えっこないから気にしてたらダメだよね


「お願い、彼らを助けて」


後ろから女性の声がした。なんとか振り向くが誰もいない。あの声は聖女?彼らを助けてって…………はは、どれだけ全員救うのが大変かわかって言ってるの?でも……僕も彼らをほっとくなんて出来ないし…………ちゃんと助けるよ。だって僕は聖女だから


「ありがとう」


そんな声が頭に響く


「り……!凛ー!凛起きてー!」


その声で目を覚ます。朝日が眩しく少し目を細めつつ目を開けるとベットの隣でファルシュが立って僕をゆすっていた


「起きた、起きたよ。どうしたの?ファルシュ」

「遊ぼー!!」

「わかった、分かったけど!一応ファルシュは僕が女だって知ってるでしょ?」

「ん!知ってる!」

「じゃあ女の子の部屋に無断で入ったらいけません!」

「え、そうなの?うぅ……気をつけます……」

「うん、それでいいよ。それで?遊びたいんだっけ?」

「うん!遊びたい!」


ファルシュは色々あって記憶の一部を封印して昔とは違う姿になっている。だけどきっと図書室を案内したのは前の聖女様が図書室を見て感動してたから、なんだろうな。忘れられない出来事だから……かなぁ


「残念だけど、僕は今日リヒト王子と城の中回ると思うから無理だよ。また今度ね」

「えー!今日ダメなの?」

「ん、また今度」

「わかったよぉ、じゃあまた後でね!僕凛と遊ぶの好きー!」

「僕も好きだよ。またね」

「うん、またね!」


そう言ってファルシュは窓を開け飛び出すと姿を消した。なんか……嵐みたいだったな


「聖女様、おはようございます」


ドアの方からリヒトの声がする。そろそろ時間かなぁ……昨日そのまま寝ちゃったし早く髪型ちゃんと綺麗にしなきゃなぁ……


「おはよう、服着替えたら行く」

「あ、はい……一応朝食の時間なので声をかけたのですが」

「朝ごはん食べるから、待っててくれ」

「わかりました」


鏡を見る。ちゃんとリヒト王子の姿だ


「準備できたぞ」


そう言ってドアを開ける。何だかやらなきゃ行けない事が複雑すぎて嫌になりそう。頑張るか


「改めて今日からよろしくな?」

「え、えぇ……よろしくお願いします」


困惑したような顔をするリヒトを置き去りに僕は食堂の方へ向かった

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