魔法使いと城探検!
今僕はあのだだっ広い食堂で一人でご飯を食べてる。まぁ、仕方ないよな。だって彼らは久々の再開だし………僕も両親に会いたくなっちゃったな。どうせもう亡くなってるし元の世界戻っても会えないけど。そういえば元の世界での僕ってどういう扱いになっているんだろ。行方不明とか?ああ、でも僕…家族いないし失踪届は出てない…あ、翔瑠が出してる可能性あるかなぁ。籍は入れてないけど婚約者同然だし、同居してるし…実際ゲームでも聖女が元の世界戻った時こっちと違って時の流れはゆっくりだったけど少し時が進んでたもんなぁ……行方不明ってなってて………………そういえばさっき見た聖女はなんだったんだろう。よし、暇だしご飯食べ終わったら探索がてら外出て見るか。最初はどこ行こうかなー……やっぱりこのゲームの名物でもある庭園かな?あそこめっちゃ綺麗なんだよね。行ってみよ。食べ終わるとごちそうさまをして食器を片してくれるメイドさんにお礼を言いながら部屋を出る。目指すは庭園!!
「わぁ、綺麗……」
やはり庭園はすごく綺麗だった。色鮮やかなお花が咲き誇っている。庭園の真ん中には噴水がありその奥には垣根のような薔薇に囲まれた場所がありそこにはオシャレな椅子と机が置かれてよく聖女が誰かとお茶しているシーンで出てきていた。僕の足は無意識にそちらへ向かいその椅子に腰掛けた
「なんだか、落ち着くなぁ……」
翔瑠が告白してきた時もこんな場所だったな。赤い薔薇差し出してきて“結婚前提で付き合ってください”って顔真っ赤にして言ってたっけ?
「ふふっ」
思わず笑いが溢れた。あ、だめだ。また翔瑠のこと……辛くなっちゃうだけなのに。泣きそうになってしまい思わず俯く
「……君、だあれ?」
しかし目の前に少年が顔があり僕は驚いて声にならない叫び声を上げた
「あ、驚かせちゃった?ごめん!」
そう元気よく言ってきた無邪気な茶髪の少年。彼はファルシュ、と呼ばれる魔法使いだ。魔法使いとしての才能はピカイチだがこのように言動が幼い。それにもまあ色々原因があるんだけど
「少し驚いたな、そして俺は橘翔瑠。一応聖女だ」
「翔瑠?男の子っぽい名前なんだね!」
「え?」
「だって……違うの?翔瑠は女の子じゃないの……?」
そうだった。ファルシュはそういうのが視えるキャラだったな、不覚
「…………ファルシュくん」
「あれ?僕名前教えたっけ?まあいいや!なあに?」
「僕の性別のこと秘密にして貰えないかな?」
「なんで?」
「そりゃ、知られたくないからさ」
どうだ?納得してくれないかな?
「うーん……いいよ!その代わり僕のお願い聞いてくれたら!」
「僕にできることならなんでもいいよ」
「一緒にお城探検しよ!今日聖女様はお城探検の予定だったんでしょ?」
「うん、そうだけど……いいの?」
「僕じゃ嫌?」
寂しそうな不安そうな顔をして少し首を傾げるファルシュ。この可愛さには逆らえないや
「わかったよ、一緒に行こ。その代わり僕……ううん、俺の秘密言わないでくれよ?」
「うん!約束!!じゃあ行こ」
そう言ってファルシュは僕の手を引いた。少しだけ転びそうになりながらも僕も慌てて着いていった。最初に向かった場所、それは広い図書室だった。めちゃくちゃ広くて本がたくさん並んでる。そして魔法によって色々な本が右往左往している
「ここ、すごいでしょ!」
振り返ると彼は楽しそうに笑った
「うん、すごいよ。本が空中舞ってるなんて面白いね」
「ふふん、でしょ?ここは絶対に喜んでくれると思ったんだー!」
彼のその発言に胸が痛くなる。喜んでくれたと嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる彼から僕は思わず目を逸らしてしまった
「よーし、じゃあ次行くよー!!」
気付いてか気付かずかそう言いながら彼は僕の手を引っ張って図書室を飛び出した。そして辿り着いたのは騎士がたくさんいる訓練場だった。訓練中の騎士は僕を見ると手を止め頭を下げた
「リヒト王子様、こちらにどのような御用でしょうか」
隊長なのだろうか?こちらに近付いてきた騎士に僕は首を傾げる。そして少しして思い出した。僕リヒトの格好のままだったわ
「あ、俺は橘翔瑠。リヒト王子じゃなく聖女だ」
「……は」
ぽかんと口を開けたまま固まる騎士の方。まぁうん、そうだよね。いい加減この反応にも慣れたよ
「失礼致しました!聖女様、こちらに一体なんの御用でしょうか?」
はっとするとすぐに頭を深く提げてまたそう言ってくる
「頭をそんなに下げるな。俺はただファルシュに連れられてきただけだ」
「はっ……ファルシュ?」
「ん?魔法使いのファルシュだ、知っているだろう?」
「あぁ、あの……そりゃ、知っていますよ。だって」
「あーーー!いたー!!」
騎士が蔑んだような顔で何か言おうとした時ファルシュが大声を上げた
「ズマーニャ!ズマーニャー!!」
そう叫びながらファルシュは青い髪をした一人の男に手を振った。彼はファルシュが言った通りズマーニャという男。若いながらも時期副騎士団長と名高い剣士だ。もちろん、時期騎士団長はジャルジー。というか騎士団長は代々王族の家系の人らしい。コネじゃんそれ……実際ジャルジーは強いけど
「……あぁ、ファルシュ。来てたのか」
ズマーニャはこちらに気付くと歩いてきて僕の前に跪いた
「ご挨拶遅れ申し訳ありません。俺はズマーニャ。騎士団員です。以後お見知り置きを」
「あぁ、俺は橘翔瑠。よろしくな」
お互い挨拶を交わすと無言の時間が流れる
「あー……えっと、今ファルシュに連れられてお城探索していて……」
「……そうか」
「あ、立って大丈夫だよ?」
気まずく感じてしまった僕は適当に色々言ってみるが彼は一言で終わらせてしまう。そう、彼は所謂無口キャラなのだ。いや、実際は人見知り激しすぎの奴なだけなんだけど
「ズマーニャ!ズマーニャは今日もまた訓練してるの?」
「あぁ、そうだよ。ファルシュは?」
「今日は聖女様とお城探検の日!あちこち連れてってあげるのー!」
「そうか。楽しそうじゃないか」
「うん!めちゃくちゃ楽しいよ!」
「良かったな」
ファルシュと視線を合わせるために屈んで優しい笑顔で話しているズマーニャ。この二人は仲が良い。それが余計に騎士たちのファルシュ嫌いを助長させているんだけど
「また一緒に遊んでくれる?」
「もちろんだ、ただ今日は忙しいからまた後でな」
「分かった!また遊べるの待ってるね!」
「おう」
「じゃあ聖女様!次の場所行こ!」
そう言ってまた僕の腕を掴んで走り出すファルシュ。元気だなあ
「あ、そうだ!せっかくなら僕のお気に入りの場所案内してあげる!」
そう言ってファルシュは軽く地面を蹴ると空を飛び始めた。ふわっとした感覚と共に僕の体も浮いて空を飛び始める
「すごい……」
「!……へへ、でしょ?僕の自慢の魔法です」
嬉しそうに言いながらファルシュはどんどん高度を上げてお城でいちばん高い時計塔の屋根の上に降りる
「わぁ、高いなぁ」
「ここ綺麗な景色でしょ?ここからは色んなものが見えて好きなんだぁ」
「うん、すごく綺麗だよ」
「じゃあもっとすごいの見せてあげる!」
そう言って彼が手を広げると辺りにカラフルな花弁が舞い落ちる。ひらひらと舞う花弁は街を鮮やかに彩っていく。なるほど……確かに
「人を笑顔にする魔法」
……か。確かにそうだな
「…………ね、ねぇ、聖女様……今、なんて言ったの?」
「ん?別に何も言ってないけど」
「そ、そう?僕の気の所為……?ここに来たから、とかかなぁ……うーん……」
「大丈夫?」
「うん!それより!ね、聖女様の本当の名前教えて!翔瑠は聖女様の名前じゃないでしょ?」
「……うん、僕の本当の名前は凛。上杉凛だよ」
「凛……凛ちゃん!覚えた!これからもよろしくね!凛ちゃん!」
「もちろんだよ」
「あ、そろそろ僕お仕事の時間だ……行ってくるね!じゃあまた遊ぼうね!凛ちゃん!ばいばーい!」
そう言って塔から飛び降りるファルシュ。手を振り瞬きをし目を開けると自分の部屋のベットに座っていた。転送系の魔法でも使われたのかな?…………ふふ、今日色々あったけどファルシュと行動するのは楽しかったかも。また、かぁ。明日が楽しみだな
そう思いながら僕は布団に横になった。気がつくと眠りについていた僕に月明かりによって浮かび上がった影がかかっていることには気付かなかった