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王様

さて食堂に来たところ、もうすでに誰か人が座っていた。片目を前髪で隠した穏やかな雰囲気をした男の子だ。彼の名前はギフト。第三王子。彼の両親はリヒトと同じでこの国の王様と王妃様だ。ジャルジーは異母兄弟で母親が踊り子……つまり妾の子で周りの人がそれをネタにずっと嘲笑ってきてそのせいであそこまで性格がねじ曲がっちゃったわけ。根はめちゃくちゃ良い子で兄弟大好きっ子なんだけどね。和解してからの彼は犬みたいで結構人気高かった。まあ人気な理由はそれだけじゃないんだけどね


「聖女様!おはようございます。はじめまして」


ギフトはこちらに気付くとすぐに駆け寄ってきて片膝を付き挨拶をする。少し顔をあげて優しく微笑む彼。スチルとしてピックアップされるシーンでもあるこれはちゃんとかっこいい。あ、もちろん1枚目のスチルは僕がスキップした地下でのケロベロス戦で助けに来たリヒトのスチルだよ。みんな出会いイベントで必ずスチル貰えるんだ。ジャルジーはあの窓割ったシーン。確かに綺麗だった


「はじめまして。俺は橘翔琉」

「僕はギフトって言います。これからよろしくお願いします」

「あぁ、よろしくな」


彼は穏やかでマイペースでめちゃくちゃ頭がいい。でも過去シーンは相当暗かった。というかこのゲームの攻略対象全員過去暗いんだよね。そのせいで余計貢ぎたくなって破産寸前のオタクが続出してるの。そういえば最近一人一人の過去話を一冊の小説にして売ってたんだよなぁ。僕ももちろん読んだ。そして凹んだ


「どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもない」


心配そうに顔を覗き込んでくる。この優しく可愛い弟感、惚れる人がいるのも分からなくない


「それでは席に着きましょ?聖女様、こちらです」


そう言ってギフトに手を引かれ椅子の前に連れてかれる。椅子を引かれ座って座って、とギフトに視線を送られる


「ありがとう」


そういうとギフトは嬉しそうに笑った。そっと、座ると椅子はめちゃくちゃフカフカで柔らかい。驚き


「じゃあ押しますよー」


そう言ってよいしょよいしょと小さな声で言いながら押すギフトが可愛らしくて頬が緩みそうになり慌てて堪えた


「よーし、完璧です!じゃあお隣座ってもいいですか?」

「ん?もちろんだよ」

「ありがとうございます」


隣に座るギフトを横目で見ながらリヒトの方を向く。リヒトはギフトを取られて少し寂しそうな顔をしながら席に着いた。クスッと笑っていると兵士のような人が部屋に入ってきて大きなドアの前に立つ。あ、王様来るみたい


「王様の御成です」


ドアが開き着飾った王様が入ってきて席に着く。その時王様は一瞬僕に鋭い視線を飛ばしてきた。警戒されてるなぁ。まあ、それもそうか


「ふむ、みんな揃っているな。それでは食事を始めようか」


当たり前のように手を合わせ祈りを捧げる王様たち。ここは少しはゲーム通りに行くか……


「いえ、揃ってません。王様」


僕がそう声をあげるとリヒトもギフトも驚いた顔をしてこっちを見てきた


「どういうことだ?」

「どういうこともなにもジャルジー王子は?彼も王子ですよね?」


そう聞くと王様はおかしそうにくくく、と笑った。ムカつく笑い方しやがって


「あれは妾の子だ。儂の子では無い」


本来のイベントならここで聖女が言葉を失って終わりだ。だが僕はそんな事しない


「最低ですね。こんなのがこの国の王様だなんて」


淡々とそう述べる。王様は怒ったようで顔がみるみる赤くなっていく


「子供作ったのは王様じゃん。なんであんたが怒ってんの?自分で作った子供なら最後まで責任とれよ」


言い切ると周りにいた兵士にこの世界の銃、なんていうか火縄銃みたいなやつを向けられる


「うるさいやつがいたら殺して口封じ。いい御身分ですね?」

「黙れ!」

「はぁ?黙るわけないじゃん。俺は聖女でこの世界を唯一救える人間でこの世界の誰にも負けない強さを持つ人だよ?お前なんかが僕を殺せるわけないでしょ」


わざと音を立てて立ち上がると一歩一歩、王様の方へ近づいていく。兵士にはゲーム内スキルの一つ、威圧を使っている。相手が強大な存在に感じちゃって行動不能にするんだよね。でも一応、撃たれるのは怖いし向けられてる銃口に結界を張る。撃てば銃が爆発するだろう


「貴様がいるだけで世界の瘴気は祓われるんだ。貴様を地下に閉じ込めておくことだってできるんだぞ!」

「やってみればいいじゃん。でもお前には無理だよ。だって…」


王様の耳元であることを囁く。王様の顔は青くなっていく。ほんとに血の気が引くってことあるんだ。レッグホルスターに突っ込んであった銃を抜く


「ねぇ、少しくらい早まっても気にしないでしょ?どうせお前は一か月以内に死ぬんだし」


そのまま銃を目の前の王様に向けて躊躇なく撃つ。なにか命乞いのようなことを言っていたが気にしない


「こんなやつ死んだ方が世界のためだ」


ぼそっと呟くと後頭部にこつん、と音がした。多分銃。リヒトかな?私の使っているようないわゆるハンドガン。まあ私のと比べると技術は全然で命中率も低めだけど。それにめっちゃ高い


「聖女様、さすがにそれは許されませんよ」

「……なんでだ?俺の役割は魔物を殺すことだろう?」

「父は魔物ではありません、あくどいやつでも魔物とは違うんですよ」

「なら、王様の死体を見てから言え。俺悪くないってわかるから」


僕は王様の死体を指さした。いや、王様のような死体かな?


「これは…魔族…?」

「そうだ、俺は魔族を殺しただけ。お前らが小さいころの王様はこんな人間ではなかっただろ」


十年前起こった魔物による王都襲撃事件。その時王様が魔物に襲われ重体に、王妃様は戦闘に巻き込まれ殺された。そう言われていた。実際は重体のフリをした魔族が王様に成り代わりただ王国で好き勝手していただけなんだけど。さっきあの魔族に真実を囁いただけ。まぁ怖いよね、初対面のやつに魔族でしょ、なんて言われたら


「じゃ、じゃあ……本当の王は……父は………」

「地下牢でまだ生かされているはずだよ」


これは魔王討伐の旅に出る前に発覚する事実。しかも辛いことにそれを知る1週間前に力尽きたという……つまり今はまだ生きているはず。…ただ辛いことに王妃様は本当に殺されている。王様が逆らわないようにするためにわざと殺されたんだ、下手に騒いだら王子も全員殺すってね


「す、すぐに行きます。すみません、食事の途中なのですが行ってもよろしいでしょうか?」

「うん、もちろんだよ。俺も着いてく」


リヒトは誰よりも先に部屋を飛び出して行った。一番元の王様のことを知っているのはリヒトだから、それもそうだ。ギフトはあまり王のことを覚えてないらしく少し困った表情をした後ご案内致します、と手を引いてエスコートしてくれた。これは……なんだか、まあ気恥ずかしいな


「父様……父様……!!」


リヒトの泣き叫ぶような声が聞こえてくる。再会できたみたいだ。ただ、王様の声らしきものは聞こえてこない。つまり、喋れる状態ではないのだろう。そりゃ閉じ込められたまま食事もままならなかったんだ。当たり前、だよなぁ


「回復魔法、おかけします」


僕がそういうとリヒトはさっと横に避けた。王様は痩せ細って痣や怪我が目立つもののその目はまだ死んでなかった


「俺は聖女として召喚された橘翔琉と申します。王様、回復魔法をかけても?」


片膝をつきそう聞くと王様は少しだけ驚いたように目を見開くと小さく頷いた


「では失礼致します」


回復魔法をかけながら考える。なんで王様はあんなに驚いた顔をしたんだろ。おかしなこと言ったかな?


「あ、ありがとう、ございます」


途切れ途切れに王様が口を開いた。よかった、話せるくらいには治せたみたい


「それで、貴方様は本当に聖女様なのですか?その、男性…に見えるんですが…」

「あ、はい。俺は聖女ってやつで間違いないです」

「男性ですが聖女様です。ジャルジーと戦った際の強さは本物でした」

「ジャルジーと…そうか、本当にありがとうございます」


僕の手を掴んで嬉しそうに言っている。その顔を見るだけで助けた甲斐があったな


「それよりも、親子で感動の再開の方が大事なのでは?」

「そう、ですね。リヒト……」

「父様…よかった、会えて…本当に…」

「あぁ」

「えっと、お父様…ですか?」


少し戸惑ったような顔をして一歩前に出たのはギフトだった


「お前は、ギフト…なのか?」

「は、はい。そうです。僕はギフトで…」

「……そうか、大きくなったんだな。昔のお前は赤ちゃんで…すまなかったな」


王様が優しく微笑んでギフトの頭をなでるとギフトは涙を零した。久しぶりの親の愛ってやつなんだろうな


「じゃあ俺は邪魔になりそうなので上に戻りますね。少しすれば王様も問題なく動けるようになると思います。それでは失礼します」


小さく頭を下げて地上に繋がる扉の方へ向かい始める。出る前に足を止める


「ジャルジー王子にも会うことをお勧めしますよ。彼傷ついてますから」


それだけ言い残して地上に出る。う~、すっきりした。…てか結局今日はほかの人たちの紹介なかったな。直接会いに行くか?いや…会ったら会ったでリヒトと勘違いされて面倒なことになりそうだもんな。やめておこう。

そう考えながら歩を進めていると正面からジャルジーが歩いてくるのが見えた


「ジャルジー王子…」

「あ?翔琉じゃねぇか」

「あー、良いこと教えてやるよ。地下牢行けば面白いもん見れるぞ」

「は?地下牢?…そうだな、お前の言うことだし気が向いたら行ってやるよ」

「そ、じゃあな」


そう言って軽く手を振りながら歩き始める。多分あの様子なら地下牢行くだろうな。元の王様はジャルジーのことちゃんと愛してたしきっと少しは幸せになれるんだろうな。大丈夫、まだジャルジーはやり直せるよ。そう思いながら僕は自分の部屋に戻ろうとした


「聖女…?」


その紫の髪が見えて僕は足を止めた。後姿がちらっと見えただけ、だけど見間違いなはずがない。だってあれはゲームの公式聖女のはず、いっぱい見てきたもん。その姿をはっきり見ようと彼女が消えた方へ向かう。だけど壁を曲がった先には誰もいなかった。あれは…僕の幻だったのか…?

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