第二王子
無事暗殺者ルート解放のイベントを済ませて落ち込みから復活してきた頃、僕は魔法で作った的を銃で撃ち抜いて遊んでいた。もちろん防音になるように銃自体に結界張ってこの部屋に誰も入ってこないようにするための結界を張ってある。実験にはぴったりだ。
「10発中9発かぁ。やっぱ動いてるものを撃つのは難しいな」
でもここまで命中率高かったら戦闘でもなんとかなりそうかな。じゃああとはレッグホルスター作って装備すれば……うん、完璧!なんだかサバゲーするみたいでワクワクしてきちゃった。もしかしてこの銃に魔法陣を何十も描けば改造みたいなの出来たりするのかな……?物は試しだしやってみよっと
描いては撃ってまた新しい銃を作ってまた撃って気がつけば窓の外には朝日が昇っていた。やば、一睡もしてないんだけど……集中って怖いな。早く気合い入れてリヒト王子の格好しなきゃ。めんどくさいな。もう元の世界に帰りたいな。もう、嫌だよ……
「うじうじするな」
そう言いながら自分の頬をペちペち叩く。うん、大丈夫、気合い入った。そう思っているとドアをコンコンと叩く音がした
「聖女様、おはようございます。お目覚めでしょうか?」
リヒト王子の声だ
「おはよう、さっき起きたばかりで今服を着替えているんだ。少し待ってて貰えるか?」
そう言いながら急いで服を着替える。…………そのうち他の人のコスプレもしたいなぁ
「はい、外でお待ちしております」
ささっと服を着替えカラコンを入れる。よし、準備完了。行くか
「待たせたな」
「いえ、全然です。それではまず朝食をいただきましょう。食堂はこちらです」
すたすた歩き出した彼の後をついていく。見慣れた道。ここはムービーで描かれるシーンだ。なぜなら攻略対象の一人、第二王子のジャルジーが窓を割って入ってくるのだ。きらめくガラスの破片の中のジャルジーがやけに綺麗に描かれていたのは覚えている。そして僕は今そのシーンを見ている。やっぱり綺麗。パラパラを落ちるガラス破片の中で立ってこちらを見ている男と目が合う
「リヒト!聖女を召喚したんだってな!!俺様がそいつのこと見てやるよ。どこにいんだ?てかリヒト分身の術使えたか?いや、でも分身にしては身長少し低いか?」
「ジャルジー、お前の目の前にいるのが聖女様だ」
リヒトがそういうと僕の方を見てたジャルジーが唖然とする。少し笑っちゃいそう
「リヒト?ついに狂ったか?目の前にいるのはリヒトの分身じゃなかったとしても男じゃねぇか!聖女は女じゃねぇのか?」
「いや、目の前の女の子が聖女様なんだよ。聖女様にこれ以上失礼なことするならそろそろ怒るよ?」
「は、ははは!まあ男なら都合いい。お前、俺様と戦え。俺様の方が強くて有能だってあのくそ大臣どもにわからせてやる」
「ジャルジー!」
「リヒト…邪魔すんじゃねぇぞ」
まあ見ての通りこのイベントは聖女と第二王子の出会いイベント。ジャルジーが聖女に喧嘩吹っ掛けてくる。で、リヒトが聖女様に失礼な態度とるなって言って代わりに戦うんだけど、その時に攻撃魔法禁止とか訳分からん条件出してきて……ジャルジーは剣の腕は王国随一と言ってもいいくらい強い、設定。だからメインヒーローのリヒトでも剣でジャルジーに勝つのは難しい。そこで聖女の出番。強化魔法をかけてリヒトが勝つようにするんだ。そしたらなんてことでしょう。リヒトが圧勝します
「聖女様……如何なさいますか?」
「え?」
僕が判断するの?リヒトがいい加減にって喧嘩買うんじゃないの?
「おい、聖女!俺様と戦え」
「わかったよ。戦えばいいんだろ?負けても文句言うなよ?」
「はっ、上等じゃねぇか」
鼻で笑われた。僕そんなに弱そうに見えるかな……
「では訓練場に移動しましょう」
リヒトが先頭を歩き出す。あの、ちゃんとリヒトが代わりに戦ってくれるんだよね?僕に戦わせたりしないよね?……いや、戦えなくはないけど…………
「お前名前は?」
訓練場に着いてまず一言目にジャルジーにそう聞かれた
「翔琉だよ」
「そうか、じゃあ翔琉」
そう言いながらジャルジーは僕に向けてたくさん立てかけてあるうちの一本の木剣を投げてきた。え、やっぱり僕が戦うの?
「お前も強いんだろ?」
「…………まぁ、戦えはするよ」
軽く木剣を降ってみる。うん、軽いし振れそう
「じゃあ俺様と戦え!」
リヒトは後ろで心配そうに見てるだけ。助ける気ないじゃん。やだなぁ……戦えはするけど実戦なんてしたことないし不安だよ……
「俺戦い慣れてないから手加減できないよ?」
「舐めやがって……お前なんて俺様の手にかかればすぐに倒せるんだからな」
「魔法使っていい?」
「……そうだな、聖女なんだし強化魔法くらいなら使ってもいいぞ?それしか取り柄ないんだからな」
「分かった、じゃあやろうか」
ジャルジーが真っ直ぐ剣を僕に向けて来る。その剣をじっと見ながら僕も構える
「っ、その構え方……」
「遠慮なく行くよ」
強化魔法を使ってすぐに地面を思い切り蹴り驚いてるジャルジーに向かって駆け寄る。ジャルジーが慌てて僕を倒そうと剣を振り下ろしてくるのが見える。姿勢を低くし左手を地面につけ右手でジャルジーの剣を受け止める。身体強化もあってなんとか耐えたがジャルジーの剣はかなり重く右腕はビリビリ痺れている。
「強いな。さすが、王国一の剣士だ。だが、力任せに振り下ろすのは良くないぞ」
そう言いながら剣をズラす。僕を仕留めようと力いっぱい剣を振り下ろしていたジャルジーの体は少しバランスを崩しよろめく。僕はその隙を見逃さず地面に着いている左手を軸にくるっと回転しながらジャルジーの手を蹴り飛ばす。すると勢いよくジャルジーの持っている木剣が飛んでいく。それは見事リヒトの真横の壁に刺さった。ざまぁ
「さて、ジャルジーよ。まだやるか?」
立ち上がると持っていた剣をジャルジーに向ける。良かった、何とか勝てた
「翔琉……お前は、何者なんだ?なんで、なんで……なんで叔父様と同じ戦い方を?なんで、叔父様の言ってたことを……」
実は僕、リアルさを追求するために何度もゲームをやりこんでムービーを見てジャルジーの過去シーンに出てくる叔父の戦い方をそっくりそのまま覚えてたんだよね。ついセリフまで同じこと言っちゃった……
「い、いや?俺は……お前の叔父なんてシラナイヨ?」
「……そうか……はは、王国一の剣士だって自負していたけど……こんなひょろひょろの男に負けるなんて俺様は……弱いな」
「そんな事ないと思うけど」
「同情か?んなのいらねぇよ」
「ほら見て、ジャルジー強かったから俺の手まだ震えてるもん」
「だけど俺……お前に負けた」
「そりゃ俺身体強化の魔法使えるし。それに……魔物と戦う時俺はまだ弱いよ。戦い方は知ってるけど実戦はほぼないから。きっと足を引っ張る」
「んなことねぇだろ、身体強化と回復魔法さえ使えれば」
「…なるほど、つまり肉壁になれと?」
「……そういう意味じゃねぇけど」
「うそうそ、冗談。だから戦場ではさ、一緒に戦ってよ」
「いいのか?」
「うん、俺は君がいい」
「……なら、一緒に戦ってやらんでもない」
「ふふ、ありがとう。ほら、手」
くすくす笑いながら手を差し伸べる。何だか可愛い弟が出来たみたいで楽しい
「仲良くなれたみたいで良かったですよ」
わざとらしく言いながらこっちに来るリヒト。木剣が真横に刺さった時のあの驚いた顔はめちゃくちゃ面白かったな
「あぁ、そうだな。弟が出来たみたいで嬉しいよ」
「なっ、俺様はお前の弟なんかじゃねぇ!!」
顔を赤くしてそう叫びながらジャルジーは走って行ってしまった。……いや、待てよ?これゲームで聖女様が言ったセリフとほぼ同じなんじゃ……まあいいや、男同士じゃ恋愛なんて始まらないでしょ。そう考えてるとお腹がなる
「……お腹、空きましたよね。食堂行きましょうか」
「…………うん」
恥ずかしい。歩き出したリヒトの後を僕は無言でついて行った