その頃執務室での王子は……
「どういうことだよ、聖女は男なのか?いや、意味わからん。確かに結婚相手を無理やり変えられることがなくなって良かった……良くはないけど」
父の側近から渡された魔物の被害や税収などの報告書を見ながら愚痴を零す。聖女が男だったとしても彼のおかげで魔物の被害も減って瘴気も治まるしいい事づくめだが……
「リヒトおーじってばまた愚痴こぼしてるんすか?」
「あぁ、シェーンか」
ノックもせず入ってきたダボッとしたトレーナーに短いスカートを履いた綺麗な女性……のような男は笑いながら俺の机の上にどかっと追加の書類を置いた
「は?追加いらないんだが?」
「はいはい、文句言わないの……みんなから大人気の優男リヒト王子様♡」
「……リヒト王子とか柄にもないこと言うなよ、翔琉」
「あー!俺のことは翔琉じゃなくてシェーンって呼んでって言ってんじゃん!」
「二人きりなら別にいいだろ、それに翔琉も俺って言ってるぞ」
「あー……だめだ、一人称私は慣れないや。それより聖女様どうだった?やっぱ可愛い?それとも綺麗系?」
「………………男だった」
「……は?」
翔琉がぽかん、と口を開いたまま固まる。そりゃそうだ。なにがどうなったら聖女が男になるんだよ
「しかも見た目俺そっくりの」
「は?」
「で、声も話し方も素の俺にそっくり」
「は?」
「翔琉バグったか?は?しか言ってないぞ」
「いや、だって……は?意味わからないけど」
「俺も意味わかってねぇよ、なんだよ聖女が男って」
「な、なかなかに珍しいこともあるもんだな」
「あ、でも聖女の名前翔琉と同じだったな」
「へぇ、そりゃまた偶然もあるもんだな」
「でもこれで世界が救える……それは安心した、かな」
「リヒトってばずっと緊張してたもんね」
「うるせーわ。そりゃ緊張もするだろ……失敗したら世界が終わる可能性があったんだから」
「そうだな…でもきっとこれからもっと忙しくなるよ」
「わかってる…………力貸してもらうぞ?翔琉」
「はいはーい、じゃあとりあえずこの書類終わらせてね」
「……」
「まず世界を救う前に目の前の書類からー!逃げないの」
「…………ハァイ」
がっくししたまま報告書に目を通す。どれもこれも父への文句のような報告書だ。魔物のせいで不作だの、統治をしっかり出来てないせいで治安が悪いだの、ほとんど父のせいではなくこのご時世が悪いだけなんだがな。いや……父の統治が悪いのも実際あるか。はぁ……どうにかしなきゃだな