聖女か…聖女ね……
ハッと目を覚ます。救国の乙女に聖女として召喚される夢を見た………………いや、夢だと思いたかった
「お目覚めでしょうか?」
体を起こすと隣にはリヒト王子が座っていた
「リヒト王子…」
「!聖女様は一目相手を見ただけで名前が分かるというのは本当なのですね。改めまして自己紹介させていただきます。グラン・シャリオ王国の第一王子をしています、リヒト・グラン・シャリオと申します」
幾度となく聞いたリヒト王子の自己紹介。一字一句違わない。あぁ、やっぱりこれはイベントなんかじゃないんだな。あそこがイベント会場だったとしたら気絶したあとの僕をそのまま会場の、別のエリアに連れていくなんてありえないし
「……聖女、か」
「困惑するのも無理はありません。聖女というのは……」
「いえ、わかりま…………いや、わかる。癒しの魔法を使えて世界の瘴気を祓う存在だろう?」
一度敬語を使おうとしてやめた。今はまだリヒト王子のコスプレのままだから。まだ男と勘違いされていると願いたいから
「その通りです。私も聖女というのは女の方とばかり思っておりましたので……まさか貴方様のように男の方、ましてや私そっくりな方が召喚されるとは……」
良かった、男と思われてるなら
「それで急に召喚したところ申し訳ないのですが我が国に……この世界に力を貸して欲しいのです」
「……わかってる、この世界の瘴気を祓って最終的に魔王を倒せばいいんだろ?」
「はい、その通りです。お願いします。それを出来るのは聖女様だけなのです。どうか……」
「うん、いいよ。ただ、しばらく一人にさせて。色々考えたい」
「あ、ありがとうございます。わかりました。私は席を外します。部屋の外にはメイドがいますので何かありましたらお声掛けください。また今日は既に日が暮れていますので明日このお城を案内させていただきます」
「わかった、じゃあまた」
「はい……最後に一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「聖女様、貴方様のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「……翔琉だよ、橘翔琉。よろしく頼むよ、リヒト王子」
「こちらこそ、これからよろしくお願い致します。それでは」
リヒト王子はそう言って頭を下げると部屋を出て行った。そうか、男として勘違いされたままなのか…………はは、良かった。女だと思われたら王様から王子やら攻略対象メンバーと結婚して欲しいだのなんだの言われるようになるから嫌なんだよな。なんで婚約者もいる男と略奪婚みたいなことしなきゃならないんだよ。きっと皆から愛される女の聖女がいなければ婚約者の女の子たちが悪役令嬢になって断罪とか起こんないはずだし。いや、でもあの学園に通わなきゃならないならもしかしたら問題起こるかも。元々彼女達の性格悪いし。あ、でもあの騎士の婚約者は好きだったなぁ。めちゃくちゃ凛としたかっこいい女性だったし。あ、橘翔琉っていうのはなんていうか、僕の彼氏?こんな僕でも好きって言ってくれるめっちゃかっこよくて可愛い彼氏の名前。会いたくなっちゃったな……ま、とりあえず今の問題は……
「ステータスオープン」
はは、見間違いじゃないや。これだよなぁ。ゲームの世界来ちゃったあるあるみたいな感じでレベルや持ち物全部僕のゲームのステータスそのままだ。全クリしてるだけあって裏ボスまで倒した僕の聖女はLv.999の化け物。いや……カンストって概念ないみたいでまだまだレベル上がるらしいけどさすがにここまで来ると課金しまくらないとレベル上がるの時間かかるんだよね。だからこのレベルで終わってるってわけ。
なんでレベルなんて概念があるのかって?確かに普通の乙女ゲームならレベルなんていらないんだけどさ二週目からは戦闘モードの解放があってストーリー上の敵を実際に倒してクリアみたいなのがあってそっちのモードだと戦闘中に起きるアクシデントやスチルが増えるからそのために戦闘モードも全部クリアして裏ボスも攻略キャラ分全部周回したからレベルが化け物になったってこと。あとその際に色々集めたドロップアイテムのポーション系がめちゃくちゃ残ってる。正直このレベルなら裏ボスでも一対一で殴り合いできるくらいだからポーション使うことない気がする……てか裏ボスも攻略できる仕様だったし。
でも聖女様ってゲームの中だと直接攻撃することってなかったんだよね。めちゃくちゃ非力の少女って設定だったから戦わせる男に身体強化やらなんやらとバフつけまくって倒すっていう……でも僕は自分でもある程度動けるし直接相手と戦えるのでは?そうしたら今まで書いてある意味もなかったこの力のステータスも意味あることになるのでは?
いや待てよ、このステータスで自分に身体強化なんて掛けたら……え、僕人間兵器に進化できるじゃん。うわ、MMORPGじゃ最強キャラじゃん。えー、なんでこんな乙女ゲームの世界なの……どうせならソードゲームの方が無双できて楽しかったじゃん。ステータスの無駄使い…………待てよ?なら銃あればさらに面白くなるんじゃないか?
魔法は無から有を生み出す力。理を逆らったことを起こせる力。でもそれは魔法の属性に沿ったことしかできない。例えば炎の魔力を持っていなければ炎は起こせない。でも聖女は全属性…………それこそ無属性と言われる部類も使える。無属性なら何でもありなんじゃないか?…………この手に収まるくらいの銃……想像してみればいけるか?
「やってみるっきゃない」
手を広げてみると手が光に包まれ気付くと手の上には銃が置かれていた。ただやけに軽い。銃はモデルガンでもちゃんと重いはずなんだけどなぁ。銃を軽く叩いてみる
「空洞音ってことは中身まで想像しないと上手く出来ないってことかな?」
なるほど……本物の銃の作りなんてしらないけどモデルガンなら分解したこともあるしなんとなく作れる気がする。でも正確に想像する必要がある、かあ……メモに書いてみる?じゃあ先に紙とペン……ルーズリーフと父に似てるキャラが書いてあったシャーペン作ろう。シャーペンならよくバラバラにしてたし簡単に作れる。よしよし、ちょっと楽しくなってきたぞ
「帰りたいと思わないの?」
ばっと後ろを振り向く。声が聞こえた気がした。僕の声が
「ねえ、そんなことより早く帰りたいでしょ?帰り方教えてあげるよ」
これはイベントである。一番最初、この世界に召喚された聖女がこの声に導かれ地下のケロベロスっていうまあよくある頭三つある犬の化け物を解放してやられそうになってリヒトが助けに来るって言う定番ストーリーのためのイベント。しかもその時聖女様は初めて魔法を使ってリヒトは見事ケロベロスを倒すっていうオチのイベント。ちなみに二週目からはこのイベントスキップできる。その時の聖女のスキップの仕方は……
「とりあえずこの部屋から出なよ」
「ねえ、きこえてる?」
「もしもーし」
「無視は悲しいよー?」
ガン無視である。リヒト推し以外は基本このイベントをスキップするがその度みな大爆笑のイベントである。必死にアピールする声を無視しているとそのうち声の主が現れるんだ。それがこの目の前の妖精。可愛らしい金髪の男の子妖精だ
「だから!帰りたいでしょ、地下行こうって言ってるんだ!」
目の前にまで飛んできてそう訴えてくる妖精をさらに無視する。それによって二週目から解放できるキャラのルートの解放である
「もういい!どうなっても知らないもん!べーっ!」
べーっとしたあと外に飛んでく妖精。あれのご主人様は敵国が聖女を殺そうと遣わせた暗殺者。ちなみにこれをやると面白い女認定されてそのうち通うであろう学園に入学してくる。一応今はまず女認定されてないけど。わかってればガン無視するだけのイベントのためゲームではまったく気にしていなかった。うん……だけど…………
「帰りたい、に……決まってるじゃん」
小さく呟いたその声は誰かに届くことはなく消えていった




