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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第4部 全変地異
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王都再訪

「シャド...シャド!!起きてくれ!!」

「ん...」

目を覚ましたシャドは、横たわる自分の体にオーカが乗りかかっていることに気が付いた。

「起きたか!!...心配したんだぞ」

「オ、オーカ様」

(こんなに好意を持たれていたっけ...いや)

体験したはずのない記憶が、おぼろげながら脳の奥から引きずりだされる。

(...????これは一体)

「あまり病身を刺激するな」

「へぶっ」

そのタイミングで割り込んだデルコがオーカを放り投げた。

デルコはじっとシャドの顔を眺める。

「シャド...妙に起きるのが遅いと思っていたが、また魔法使いが現れたような奇妙な体験をしていたのか?」

「はい。いろいろと...」

シャドは異形の魔法式から得た情報を話した。

「ということです。僕がこれから訪れるべき場所が、分かりました」

「...お人よしのお前のことだから忠告しておくが、オーカを傷つけたくないならすぐに出発した方がいい」

「そうします」

シャドは頷いた。

「私は、あらゆるつながりを駆使して状況の把握と対策に努めることにする。収納袋には諸々の物資をたんまり補充しておいた。餞別として受け取れ」

デルコはそこで一端言葉を切ると、シャドに近づいて胸部を拳で叩いた。

「困ったことがあればいつでも戻ってこい。ガルムと共にな」

デルコは片手で短刀を回しながら、にやりと笑った。

「はい!...本当に、いろいろとありがとうございました。感謝してもしきれません」

シャドの目が自然と潤む。

「私はシャドと出会って以降未曽有の災難に幾度も遭遇したが...なかなか貴重な体験をさせてもらった。ネイモリアとも”懇意”な間柄になれたことなど、実利も多く得た。...感謝している」

デルコはそう言って踵を返し後方で気絶していたオーカをたたき起こす。

「どうやらシャドはもう出発しなければならないらしい。お別れの時間だ」

「そんな!!」

起きてそうそう激しいリアクションを見せるオーカは、シャドに走り寄る。

「また、この国に来てくれ。お願いだ....」

オーカはうっすらと目に涙を貯めている。

「やるべきことをすべて終えたら、来ますよ」

シャドはオーカの頭を撫でた。

「さあオーカ。私たちもやるべきことは無数にある、仕事を始めるぞ」

「え...デルコはシャドと共にいくのではないのか?」

「いいや。...良かったなオーカ。悲しい別れが一つ減って」

「は?」

デルコの発言に愕然とするオーカ。

「......よし、ガルム。行こうか」

ガルムは姿を変え、凛々しい大狼に変化する。

シャドはその背に飛び乗った。

「...さようなら!」

シャドが手を振り、ガルムも大きな尻尾を振る。

「」

「もう一度来るのは約束だぞ!!」

二人の声に背を押されて、シャドとガルムはネイモリアを去った。

目指すは”神聖なる土地”。






「ゴシャァァァァァアアアア!!」

モンスターの断末魔が荒原に響き渡る。

「本当...キリがないな」

シャドは鈍色の剣を腰に収めると、ため息をついた。

隣では、ガルムがモンスターの死体を貪り食っている。

「食欲旺盛だね。食い歩きしよう」

シャドはぼろぼろになった死肉をもぎ取り、片手に持った状態で歩く。ガルムは両手に死体を抱えてかぶりついていた。

「それにしても...どこに行ってもモンスターばかり。なんでダンジョンの外に...あ」

シャドの脳裏によぎったのは王都メティナで起こった大氾濫。

「まさか...大氾濫が起こって阻止できなかった!?でも、それじゃあ森にいたあの怪鳥が現れた理由は説明がつかない...誰か、情報を知っている人はいないのかな」

(うーん...)

シャドの頭に浮かんだのは爬虫類人間と魔法使いの二人だった。

「イオナとレオの安否も気になるし...魔法使いよりは爬虫類人間の方が話が通じるかもしれないし...メティナに寄り道しよう」







王都メティナ、広い平原を取り囲む巨大な城壁...それは以前と姿形をまったく変えることなく存在していた。シャドは門を探す。

「ん?...なぜ開けっ放しに」

ある区間に密集して並び立つ門、その全てが開かれている。どこにも人の姿は見えない。

「...ガルム」

呼びかけに応じ、ガルムは身に着けている短剣を両手に構える。シャドも鈍色の剣を抜き放った。

シャドは腰をすこし引いた姿勢で剣を構えながら、ゆっくりと内側に侵入する。

「!!!」

シャドの眼前に広がるのは、瓦礫が散乱した無人の市街。

「この様子じゃ、イオナとレオの家も...」

どこかフラフラとした足取りで歩くシャドは、ダンジョンの入口がある王城へと向かう。

「ここも、人の気配はない」

探索者にあふれていた王城も今はがらんとしている。照明や家具などは無事な状態を保っているものがひとつもない。

「ダンジョンの中も見てみ...」

シャドがダンジョン入口につながる螺旋階段へ向かおうとした瞬間、服の裾をガルムに掴まれた。

「ん?」

ガルムは手を離すと王城の階層を上がる階段へ登り始めた。

「今の状況なら、王城の中に市民が籠っている可能性もあるかもしれないな」

シャドはガルムの後を追う。

階段を上りきると、長く続く廊下が姿を現した。両壁面に多くの扉が配置されている。白を基調とした質素な配色であり、王城というイメージから想像されるような派手さはない。

シャドは一つの扉に手を当て、押し開ける。部屋の中には、分厚い書物が山積みに置かれていた。

保管の雑さの割には汚れていない書物の山から適当に一冊取り出したシャドは、本を開いて中身を確かめる。

「...読めない」

見覚えのない文字の羅列が記されているだけだった。ぱらぱらとページを流してみても同じような文字が延々と続き、図や挿絵といったものすら見つからなかった。

「ガルム、少し待っててくれ」

シャドは収納袋から白紙の本を取り出すと、本に書かれている文字を数行分模写する。

「よし、行こう」

その後シャドは他の部屋も調べたものの、ほぼ全ての部屋には本と本棚以外のものが見当たらなかった。

「なんでこんなに本ばっかり...」

そんな事を言いながら廊下を歩いていた時、ガルムが突如腰をかがめて戦闘の構えをとった。

長い廊下の奥から、首を深く沈めた白馬が現れた。夜空のような深い青の鬣と、透き通る氷の如き一本の角にシャドは目を奪われる。

「あれは...ユニコーン?」

白馬は少し頭を上げると、碧眼の瞳孔をこちらへ向け...消失した。

「へ?」

体が反射的に横跳びし、その横を超速で何かが通り過ぎる。

一瞬間をおいて、二の腕の内側と脇腹に刻まれた無数の線から血が滲みだした。

後ろを振り向くと、廊下の突き当りすれすれで停止した白馬がゆったりと体を震わせていた。その動作で、白馬の体に突き刺さっていた二本の短剣がぽとりと落ちる。

「...」

シャドは無言でガルムに視線を移す。ガルムの両手に短剣はない。

「ガルム、今武器を」

シャドが収納袋に手を入れた瞬間、白馬が両前足で地を蹴り、宙返りする。それと同時に体をひねり壁面に着地し、駆け出した。

狙って回避することは不可能だと悟ったシャドは収納袋を守るように身を丸める。ガルムは四足歩行の形態に変化しシャドの前に踊り出た。

シャドとガルムを強烈な衝撃が襲う。角は二人の体の芯をとらえることはなかったが、鬣の毛一本一本がガルムの体に浅くない傷を刻む。

白馬が突進を止め静止すると、シャドとガルムは宙を吹き飛ばされ廊下の曲がり角にたたきつけられる。

「ガルム!!」

シャドはガルムを引きずり曲がり角の奥に引き込むと、声を張り上げた。

「取引を受け入れる!!」

その瞬間、シャドの意識が急激に遠のく。一瞬で気絶状態に陥るのを踏みとどまったシャドは、小指を切断しガルムに飲み込ませた。そしてガルムを収納袋の中に入れる。

「死なないで」

収納袋に入ったガルムにそう声をかけたシャドは、廊下に接続する部屋の扉を開けようとする。その瞬間、壁面に脚をたたきつけることで方向転換を成功させた白馬に突き飛ばされる。角が片頬を貫いた。

シャドは再び長い廊下を転がされる。

「...逃がしてはくれないか」

白馬は突進し続けることはできない。その隙をついて部屋に逃げ込みたいシャドだったが、白馬は勢いをセーブした衝突を繰り返すことで突進の間隔をせばめているようでシャドに行動を起こす時間は与えられていない。

(...事態は硬直した)

何度も吹き飛ばされながら、シャドは冷静にそんなことを考える。魔力供給を得たことによって頑強さと再生能力が強化されたためシャドの生存力は大幅に上昇した。シャドは白馬に殺されることはないだろうと直感した。

(ここはいっそ、下手なことをせず我慢比べだ)

シャドは白馬に吹き飛ばされ続けた。








数時間が経過したところで、白馬の勢いに衰えが見え始めた。

(...今だ!!)

隙を縫ってシャドは扉を開け部屋に転がり込んだ。

「ここからどうするべきか...あ」

シャドの視線は部屋にある窓へ向けられた。



「ふぅ....」

ひゅうひゅうと風が全身にうちつける窓から城の外壁面に這い出たシャドは壁の突起を伝って外へ降りることを試みていた。

左手、左足、右手、右足...とっかかりを手先足先で確認しながらゆっくりと下っていく。

(落下したほうが早いか...?いやしかし)

この状況で不用意な負傷は避けたい。

そんな事を考えながらとっかかりに足をかけた時、不意に城が揺れた。

「おわっ!!」

足がずるりと滑り落下しかけるが、両腕と片足の筋力で引き上げて戻す。

すると今度は連続して揺れが襲ってきた。

シャドは壁にへばりついて振動に耐える。

「ユニコーンが暴れてるのか...?」

その時、シャドの顔の上に影が落ちた。

「ん?」

影はシャドの体を通過し、遠くへ飛んでいく。限界まで首を後ろに向け、影の元を探すシャド。

「あれは...ユニコーン?しかも血が噴き出て...!!!」

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