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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第3部 地の底から
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離脱上昇

「やたらデカい敵が増えてきたな...いよいよ大詰めか?」

休息中のムスタは、地面に置いた砲身の上に腰掛け、前線を眺めている。大氾濫の発生から数日が経過していた。

「いや。今回は違う...まだまだ出てくるだろう」

ムスタの発言を瞬時に否定するデルコ。こちらは遠距離攻撃ができる魔道具を使用している。

「お前は本からそういう情報を仕入れてるようだがな。世の中、そんな単純なモンじゃないぜ」

ムスタは頭の後ろで手を組みながらそんな事を言った。

「...」

まったく相手をする気がないデルコは沈黙している。

「おいおい、つまんねーな...お?」

ムスタは突然立ち上がった。

「おい、見ろメローテル。俺が言ったことが本当になったぞ!!」

「何?」

前線で戦う者達の動きが徐々に少なくなっていく。倒れたモンスターの後ろから新たなモンスターが現れない。

「だがおかしいな。いつもだったら最後に”いかにも親分です”って身形のモンスターが出てくるんだが」

「様子を見に行こう」





下の階層まで続く階段は、大氾濫の最中であるにもかかわらずモンスター一匹たりともいなかった。

「いねぇ...な」

デルコとムスタは階段を少し下る。そうすることによって階層の床という障害物が取り払われ、下の階層がよく見渡せるようになる。

二人の目には、遥か遠くから大きな土煙を起こしながら迫ってくるのが見えた。

「おいおいやばいぞあの速度は!カノンッ!!」

ムスタは移動前に収納していた砲身を取り出して構える。

「待て、それは切り札だろう。まだ使うのは速い」

「は?」

デルコの発言の意味が理解できないムスタ。

「まだ情報が足りない。あの集団より強いのが出てきてもおかしくない」

「そんな心配いつもだろうが!第一どうやって情報を手に入れるんだよ!いつもはムカつくが筋が通ったことしか言わないお前だが...それはおかしいだろ」

ムスタはデルコを糾弾する。周囲の探索者達もムスタの変調に動揺し始めた。

「情報?それはダンジョンの奥から戻ってくる人間に聞けば良い」

「そんなやつ居るわけ...」

「シャドがいる」

「はっ!俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」

「ム...ムスタさん」

その時、周囲の探索者の一人が少し怯えた様子で二人の前に現れた。

「何だ!文句あんのか!」

「違いますぅ!!こ、これで見てくださいあっちの方向を...」

そう言って探索者が差し出したのは、人の腕程度の直径を持つ円柱の魔道具だった。

魔道具はレンズのようなものを備えており、21世紀レベルの性能を持つ望遠鏡として機能する

「なんも、変わったものは見えねぇぞ」

「右...もう少し右です」

「っ!!」

探索者の指示に従って魔道具を動かしたムスタは、衝撃の光景に驚き思わず魔道具を手落としそうになる。

「寄越せ」

そこに、手を伸ばして強引に魔道具をもぎ取ったデルコは仮面越しながらも器用に魔道具のレンズを覗いた。

「やはり来た...帰ってきたぞ、シャドが」



ムスタとデルコが率いる一団は、階段を下りきった辺りから十分な距離を取って陣を張った。シャドが来たのは設営が終了した頃だった。

シャドは、巨大な狼の背に乗って地を駆けてきた。

「...!!あれは...まさかガルムか」

デルコは魔道具の補助を受けて高速で接近し出迎えた。

「やり遂げたか」

シャドの表情を見たデルコはイオナとレオが助かったことを確信した。

「はいっ...!!」

「ところで、その狼はガルムなのか?」

「そうです...色々あって」

「後で話は聞かせてもらおう...ムスタが会うのは二度目か。彼がシャドだ」

遅れてやってきたムスタにシャドを紹介するデルコ。

「...お前、マジで生きて帰ってきたのか」

唖然とするムスタ。

「今我々は情報が不足していてな。見てきたことをすぐにでも教えてほしい」

デルコはシャドを地面におろしながら言った。

「多くのモンスターの群れをやりすごして戻ってきました。今見えるモンスターの100倍はいます。それと、明らかに雰囲気の違うモンスターに遭遇しました。詳しく話します」

そこからシャドはムスタとデルコにミノタウロスの説明を行った。

「そうか...大氾濫にはほぼ毎度、人間には使えない謎魔道具を持ったクソ強いモンスターが一匹出てくる。今回はそいつだろうな。ますます、良く生きて帰ってこれたなお前」

「あんまり追ってこなかったので」

「何だと?」

ムスタが首をひねる。

「はい。階段の方へ逃げたんですけど」

「妙だな」

デルコが顎に手を当てる。

「そういえば、こちらを追わないどころか、最後には背を向けていたような...」

「シャドが逃げたのと反対の歩行には、何かあったか?」

「特には...強いて言えば火山がありましたけど」

「ふむ、よく分からんな」

「た...大変だぁぁぁぁぁあああ!!」

その時、会話する三人の中に一人の探索者が飛び込んできた。全力疾走してきたのか滝のような汗を流している。

「探索者の集団の中に...突然、突然モンスターが!!」

「まずい、戦線が崩れる。ムスタはここに残ってくれ。シャド、行くぞ」

「はい!」

シャドはガルムの背に乗った。




「あれが、シャドの言っていた牛頭の怪物...」

片手で巨大な槌を振り回し探索者達を圧倒していたのはミノタウロスだった。なぜか体から溶岩を滴らせている。

「あれ?溶岩?さっきは体についてなかったのですが」

「...」

デルコはミノタウロスをじっと観察している。

「突然現れたのに魔道具の力が関わっているとみていいか、さて...あの程度ならいけるな。シャド、お前はもう第一層に戻れ。収納袋に攻撃が当たれば苦労が水の泡だ」

「ですが」

「いいからここは、私達に任せろ。...プリセット1、起動」

デルコは瞬く間に無数の魔道具を装着した。いくつかの魔道具はデルコの周りを浮遊している。

「これが...万魔殿と言われる所以ですか」

威容に、思わず感心するシャド。

「後でいくらでも見せてやる、さっさと行け」

デルコはシャドを第一層に送り出した。

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