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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第3部 地の底から
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地下降下

「皆の者、落ち着け!!」

突如、混沌とした現場に鋭い声が響き渡った。騒いでいた人々は思わず声のする方に顔を向ける。視線の先にいたのは仮面の人物。

「私は”万魔殿”のメローテルだ。

皆の者、この現象に恐れおののく必要はないっ!!!」

「メローテルだ、あいつは確かに”万魔殿”のメローテルだっ!!」

「メローテル様ぁー!!!」

「一流のダンジョン探索者だ!!本物だ!!」

デルコが現れた途端、聴衆の雰囲気が一変する。

人々の叫び声は歓声へと転じた。

「今しがた起きた揺れは、特殊な大氾濫が発生した時に起こるものだっ!ここにいる者達の中に、ダンジョンのモンスターと戦えるものは居るか!!ついて来いっ!!!」

「うぉおおおおおお!!!!」

「ついて行きますっ!!!」

「メローテル様ぁー!!!」

デルコがダンジョンの方へ向かって走り出すと、多くの人々が家から魔道具を持ち出してその後を追う。

(魔道具を持っている人が多い...)

シャドはそんな事を考えながら走り出した。全力を出してデルコに追いつくと、走りながら話しかける。

「僕はどうすればいいですか」

「イオナとレオに手伝うかどうかの確認を頼む。今回の大氾濫は過去に数例しかない特殊なもので普通の大氾濫より遥かに危険だということは伝えておいてくれ」

「分かりました」

シャドは走る方角を変えてレオとイオナの泊まる宿屋に向かった。



「え、部屋にいないんですか?」

「シャドという名前の者が尋ねてきたらダンジョンにいると伝えてくれ、とおしゃっていました」

宿屋のカウンターで会話するシャド。

「出ていったのは...ついさっきでしょうか?」

「いいえ、数時間は前かと」

「っ!!」

シャドは顔色を変え、急いで宿屋を飛び出すとダンジョンへ向かう。

途中で多くの人を率いてダンジョンへ向かっていたデルコに遭遇した。

「メローさぁああああん!!」

大声で叫びながら走り寄るシャド。

「どうした」

気付いたデルコが振り返り、シャドを横に来させる。

「レオとイオナの二人が...数時間前にダンジョンに行ったきり帰ってきていません。大丈夫でしょうか...?」

「...自力の帰還は不可能だ」

「助けに行ってきます!!」

「シャド、待て。無謀が過ぎる」

デルコは走り去ろうとしたシャドの肩をつかむ。

「それでも、放っておけません!!」

シャドは意思を曲げる気を見せない。

「...」

そんな様子のシャドを見て考え込むデルコ。

「いや、今は判断に時間をかけるのも愚策だな。

…全く、大氾濫に巻き込まれた人間を助けに行くなどお人好しが過ぎる」

デルコはそう言うと、背負った袋から緑色に発光する腕輪を2つ取り出した。

「これは、私が持っている中でも破格の性能を持つ魔道具だ。ダンジョン内で腕にはめたり口に咥えさせたりすれば致命傷を負った人間を救うことが出来る。明らかに死んでいるように見えても、煙になっていなければ問題ない。あの二人を見つけたら腕輪を装備させた上で収納袋に匿い、ダンジョンの浅層で二人の回復を待て。決して地上には出るな」

「...はい」

「言い忘れていた。ダンジョンにガルムを連れていけ。私の見立てではガルムの力を借りなければ二人の救出は不可能だ」

「...ガルムにお願いしてみます。本当に有難うございます!!」

「幸運を祈る。後でたっぷり働いてもらうぞ」

「はいっ!」

シャドはダンジョンへ全力で走っていった。




ダンジョンの入り口がある王城の地下空間は、現在大勢の武装した人間で埋め尽くされていた。そこにシャドが駆けこむ。

「どいてください!!」

シャドは人波をかき分け、入り口のドームを目指す。

「おい、おい...!そこのお前!一人で行くのか!」

進もうとするシャドにダンジョン探索者巨人のような大柄の男が声をかける。

「そうですが何か!?」

「正気じゃねえ...一旦落ち着け!!」

男がそう言うと、数名の探索者がシャドに掴みかかる。

「放してくださいっ!」

シャドは拘束を無理やり振りほどくと、鈍色の剣を鞘から抜き放って構える。

「邪魔は止めてください...僕の心配は無用ですっ!”万魔殿”のメローさんから許可を得ています」

「は?」

突如抜き放たれた剣と突然出てきた一流冒険者の名前に唖然とする人々。その瞬間シャドは猛ダッシュでドームに飛び込んだ。

「あいつ、見たことない顔だ。新人か...」

シャドに声をかけた男は、ため息を吐きながらダンジョンの入り口を眺める。

「新人は無茶するもんだが、限度がある...メローの奴が何考えてるか知らないが、あいつは死んだな。...おい!お前ら」

男は突然声を張り上げた。

「俺たちは、あと十数人集まったらすぐ出るぞ!!蛆虫みたいに湧き出るクソモンスターどもを叩き潰す!」

「うおおおおおお!!!」

「この街を守る!!!」

「巨砲をブチかませー!!ムスタッッ!!」

地下空間で、密集した探索者達が沸き立つ。

「良い気合だ」

発破をかけた張本人...”巨砲”のムスタは、燃える探索者達を見てどこか冷静にそうつぶやいた。



「モンスターが...いない?」

モンスターの大量発生を覚悟してダンジョンに飛び込んだシャドは、あまりにもがらんとしたダンジョンの風景に困惑していた。

「とりあえず、下層への階段を探そう」

かすかに聞こえる音の方へ走ったシャドは、ものの数分で階段を発見する。

「ここか...」

階段は十数メートルの幅を持つ。いつもの階層間を繋ぐ階段と異なり、壁や天井がない。階層は数mの厚みを持って存在し、一つ下の階層の天井になる。

乾いた風が階段を伝って吹き上がり、シャドの頬を撫でた。

「行こう」

シャドは階段を駆け下りる。


それから数階層の間を、風景には目もくれず階段を探して下る事を繰り返したシャドは、とうとう下層から階段を登ってくる敵を視界に収めた。

「...っ!」

現れたのは、長い二本の頸を持つ大きな蛇。

それは、階段の上をまるで段差など存在しないかのように滑らかに移動している。

「動きが速い、逃げきれなそうだ。短時間で倒す...」

シャドが独り言を喋る間にも、双頭の大蛇の動きは更に加速する。

「そういえば、デルコさんが言ってたな」

シャドはそう言って少し開いた収納袋をその場に置くと、数歩進んで鈍色の剣を構えた。

大蛇は頭部を全くぶらすことなく移動しシャドに接近し、、牙をむき出しにした2つの口でシャドに襲いかかった。

「でやぁあああ!!」

前方上方向から降ってくる大蛇の攻撃を躱すようにしてシャドは前へと踏み込み、双頭の枝分かれする部分に一撃。

べきべきと骨が折れる音が鳴り、大蛇は体を激しくくねらせる。

「もう一発っ」

シャドは同じ箇所にさらなる攻撃を加えようと剣を振り上げるが、その瞬間に双頭の部分がが胴体に巻き付いた。万力のような力で背と腹が圧迫される。

「ぐ...」

身を縮め、力を籠めて圧力に対抗するシャド。

「がっ...ガルム!今だっ!!」

シャドがそう叫ぶと地面に置かれた収納袋が盛り上がり、中から短剣を咥えたガルムが飛び出す。跳躍し、大蛇の体に飛びつくとそこから駆け上って頭部に到達、咥えた短剣を手に持ち変えて眼球に突き刺した。

もう一方の頭部がガルムを丸呑みにせんと大口をあけて迫りくるが、ガルムは短剣を抜くと後方に飛び退いて回避した。

「すぅぅ...」

ガルムの活躍によって大蛇の体から投げ出され開放されたシャドは、深呼吸して圧迫された肺に空気を送り込むと大蛇に向かって走り出す。

その背後にはぴったりとガルムが追従していた。

大蛇は真正面から噛みつこうとするが、シャドは身を屈め両足を踏ん張って急停止する。そして間合いがズレて勢いが無くなった大蛇の頭部めがけて剣を振った。

「ちっ」

大蛇は頭部を引っ込めてそれを躱すが、そこへ短剣を握りしめたガルムが飛び込み噛みつく。ガルムは片手の爪を食い込ませ、牙を深く突き刺し、そして短剣を用いて猛烈な勢いで斬り刺す。

大蛇はガルムを振りほどこうと頸を振り回すが、そこへシャドのフルスイングの一撃がヒットし動きが鈍る。十数秒の藻掻きの末、大蛇は動きを停止した。

「ガルム、ありがとう」

シャドが収納袋を広げると、ガルムはその中へ戻っていく。

「ヘンテコなおとり戦法だけど、なんとか短時間で倒せた。どうか二人ども無事で...」

シャドはダンジョンの更に下へ潜っていく。

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