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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第3部 地の底から
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大氾濫

「大氾濫って...なんですか?」

「ダンジョンの中のモンスターが地上を目指して移動する現象だ。

まず、階層を繋ぐ階段が各階層間に一つを残して消滅する。残った一つは巨大化する。ダンジョンの外への階段は一番浅い階層...つまり第一層に一つだけ生成され、他は消滅する。

そしてモンスターたちは下の階層から地上をめがけて登ってくる。頻度は数年に一度。数と強さはその時その時だな。

私は一流のダンジョン探索者であるからにして参加するのは半分義務のようなものだ。他の一流ダンジョン探索者達も、王都が滅んで喜ぶような奴は...ほぼいないから、まあ参加する。

で、お願いというのは私の手伝いだ。絶対に損はさせないことを保証しよう」

「やります!」

「「...」」

シャドは即答したが、レオとイオナの二人は黙り込んでいた。

「大氾濫の対処とその直後のダンジョン探索は魔道具を獲得するのに絶好の機会だ。他のダンジョン探索者に恨みを買うのは避けたいから様々な対策と妥協を重ねた上での行動になるが、それでも得られる利益は莫大だ。レオとイオナはシャドのような不死身体質ではないから、じっくりと検討してくれ...着いたぞ。ここが2層だ」

デルコと共に階段を降りきったシャドは、新たな階層を目にした。

「あれ、なんか、見た目が1層と殆ど変わらないんですが...」

「変わったところといえば、地下茎を持つ植物が砂の上にちらほら見えるようになったくらいかな?」

イオナがぱっと見で感じた変化を述べる。

「風景はあまり変わらないが、出現するモンスターの姿はガラリと変わるぞ。...早速いたな」

「今度こそ!」

シャドは意気込んだ。


それから数時間後、一行はダンジョンの探索を終えた。

「今日はお世話になりました」

ダンジョンの出口は城の地下空間の壁にある。入り口より出口のほうが高い位置にあるという、ダンジョンの構造と明らかに矛盾した配置になっている。

「そうかしこまるなシャド。私達の仲だろう!」

バシバシとデルコがシャドの背中を叩く。

(えぇ...これが貴族のフリ?)

シャドは未だに、貴族メローテルとして振る舞うデルコの行動に戸惑っている。

「...あの、メロー」

そんな中、イオナが神妙な顔つきでデルコに話しかける。

「如何した?」

「大氾濫の件、よく考えておく...手伝えることになったら、その時は宜しく」

「ああ、分かった...存分に悩むといい」

デルコはそれだけ言うと立ち去った。


「じゃあ、僕もそろそろ行きます。ダンジョンの外でもガルムを出してあげられる場所を探さないといけないので」

デルコに続いてシャドも姿を消した。

その場に残ったのはイオナとレオ。イオナは普段の明るさが感じられない、不安げな表情を浮かべていた。

「イオナ。俺たちは、あの二人についていけるのか?」

レオが問いかける。

「わからない...でも研究者としてはこんなチャンスはない。二人だけじゃ成果を得られなかったダンジョン探索も...きっと、メローとシャドがいれば変わる」

「そうかもな」

それからしばしイオナは沈黙し、考え込む。レオはイオナの言葉を待った。

「でも...ダンジョンはやっぱり危険。モンスターと戦うことの危険性は今までの旅で遭遇した危険とは別物だよね。

ここで行かなきゃ研究が進まない、とは限らないし...どうしよう」

「とりあえず、ダンジョンに入って腕を試してみないか?今の俺たちがどのくらい通用するのか確かめよう」

「...だね。今日は宿に戻ろ」

二人は城の外に出て、宿へ向かって歩く。

長時間ダンジョンに潜っていたため、日は既に地平線の彼方に沈んで姿を隠した。一方、人々は仕事などを終えて次々と街の表に顔を出す。

「レオ...この数か月は結構楽しかったね」

イオナは横を歩くレオに顔を向ける。

「俺もそう思う」

相槌を打つレオ。

「不思議なことばっかり...シャドやガルムと出会って、ビリジンから王都まで一緒に歩いてきたのもそう。最初はそんな事になるなんて思いもしなかった」

「シャドの存在自体がそもそも不思議だ。過去の記憶がなく、自分が何者かもわからない。俺がシャドだったら正気ではいられないな」

「うーん、私はそもそもシャドが記憶喪失だとは思わないかな。それに...シャドには目的があるよ」

言い切るイオナ。

「たしか...肉体に古神を呼び込んだ女を元に戻す、だったか?目的というには無謀すぎる」

「それでも目指すべき方向がシャドには見えてるよ。むしろ、目指すべき場所がわからないのは私たちのほうだったりして」

「...かもな」

静かに頷くレオ。

それきり、二人は無言で往来を歩んでいった。






数日後。

デルコの紹介で借りることが出来た一軒家で就寝していたシャドは、夜中に目を覚ます。

部屋にある家具達が、床の上で小刻みに震えながら音を発しているのに気付いた。

「あれ、揺れてる?」

隣で寝そべっていたガルムは、仰向けのまま眼を見開く。

「地震かもしれない、ちょっと外に出ようか」

だんだん勢いを増す揺れを感じ取ったシャドは、寝転んだ体勢のガルムを抱えて素早く収納袋に入れると、家から脱出する。

「こんなに人が住んでいたのか...」

揺れは続き、周囲の建物からは次々と人が出てくる。

「世界の終わりだー!!」

「神様助けてくださいぃぃ!!!」

「何が起こってるんだぁぁ!!」

(たかが地震で騒ぎ過ぎでは...?)

パニックになっている周囲の人々の様子に疑問を抱くシャド。

「揺れは、そろそろ収まってるけど...」

「も、もうおしまいだァァ!!!」

人々の阿鼻叫喚は全く収まっていない。

(もしかして、地震が起こらない地域なのか?)

そんな事を考えていた時だった。

「皆の者、落ち着け!!」

突如、混沌とした現場に鋭い声が響き渡った。

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