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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第2部 古神研究
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ワンダウンワンリブート

「はっっ」

シャドが眼を覚ましたのは、独特な形の木製の家具で彩られた見覚えのない部屋の床だった。

「ミレニウムの頭を倒した後、意識を失ったところを発見した。腰につけていた爆弾が爆発し酷い負傷をしていたのが原因だろうな」

傍らにはデルコがいる。

「そういえばあの子は」

「袋はこれだ。ここで出すのは止めてほしいが」

「分かりました。...あなたのおかげでずいぶん助かりました。ありがとうございます」

収納袋を受け取るシャド。

「感謝は不要だ。それより、さっそく今後の話をしよう。

私はとある依頼を果たすためにこの街に滞在している。ミレニウムのようにこの街で幅を聞かせている組織のうちの一つ、そこの頭の暗殺だ。その点今回ミレニウムが潰れたことによって組織同士の力の均衡を崩せたため、暗殺は容易になった。ここでシャドに暴れてもらえればより確実に依頼を達成させることが出来る。報酬は...ミレニウムの頭が持っていた魔道具二つと金貨100枚で、どうだ」

「金貨100枚!?!?」

「全く遠慮はいらない。私はただ依頼を達成することだけを望んでいるのではない。あらゆるリスクを排除して達成することを望んでいる。不死身のような協力者がいれば部下や私への負担は大きく減るからな。それを考えれば、頭の暗殺の依頼金の一分にも満たない金額を支払うことぐらいはする」

「依頼金はそんなに高額なのですね...というか、そんなことを言ったら僕がもっと欲張るかもしれませんよ...」

「多少の欲張りは構わないし、都合の悪い部分を隠し通す気もない。お前はそれだけ有用な存在で、こちらも大きなリスクを背負って助けることにしたのだ」

「...なるほど」

(裏社会の組織なのに、すごくしっかりしてる)

内心驚くシャド。

「ちなみに、なぜそんなに依頼金が膨れ上がるのでしょうか」

「この依頼は、恨みを持つ個人や集団が徒党を組んで金をかき集め、合同で出した依頼だ。裏社会で暗躍する組織の頭となり、おのが権勢を振るっている立場でも、恨みを買いすぎれば死神に追われ続けることになる。恨みとは恐ろしいものだ。

仮に、私の組織がこの依頼を失敗したとしても、ほかの組織が頭の暗殺を請け負うだろう。まあ、失敗はあり得ないが。

…追って連絡をする。次もよろしく頼むぞ」

「ええ」

シャドは立ち上がると、ゆったりとした足取りで部屋から立ち去った。




宿の部屋に帰ってきたシャドは、即座にベッドに飛び込む。

「疲れた...」

しばらく突っ伏していたシャドだったが、人狼を収納袋に入れたままであることを思い出して身を起こす。

「暴れないでくれよ...」

慎重に収納袋の口を開いていくと、ひょっこりと毛むくじゃらの頭が飛び出てきた。相変わらず何も言わずにじっとシャドの方を見つめている。

「うん、大丈夫そうだ」

収納袋の口を思い切って全開にするシャド。人狼はすっと袋から飛び出すとその横に着地した。

「まず輪っかを外そう」

シャドは腰から鈍色の剣を引き抜く。剣の質量や振る速度と釣り合わないほど強大な破壊力を生み出すこの剣であれば、分厚い金属の輪であろうと破壊できるとシャドは考えた。

「手と足を伸ばして、うつ伏せの姿勢になってくれ」

シャドがそんな事を言うと、人狼は言ったとおりに姿勢を変えた。

「...」

(やはり、完全に言葉を理解している...)

一つ一つ輪を砕いていったシャドは、破片を収納袋にしまう。

「さて...君について色々と教えてほしいことがあるんだけど、喋れないのは困ったな...」

人狼は四つん這いのまま、頭をかくシャドに近づくと、右手の小指を甘噛みする。

「ん...?あ、そういうことか。食べたいなら、食べていいよ」

瞬間、小指の付け根に牙が食い込み、断ち切られる。人狼は眼を瞑って指を咀嚼していた。

(なんかかわいいな...)

シャドには、自分が食べられていることにおぞましさを感じるといった普通の感性はもうほとんど残っていなかった。

指を食べ終えた人狼は、自ら袋の中へと入る。しばらくするとかすかに寝息が聞こえてきた。

「どうしたものか...とりあえずイオナさんのところへ持っていこう」



「すみませーん。イオナさん、もとに戻りましたかー」

イオナとレオの部屋の前で呼びかけるシャド。

「あっシャド。おひさしぶりー」

勢いよくドアが開き、前のめりの姿勢でイオナが登場する。

「いつものイオナさんですね。そういえば、結構大変そうにしていたレオさんは...大丈夫ですか?」

シャドが問いかけるとイオナは途端にもじもじしだした。

「うーん、まあ、大丈夫、かな...生きてるよ」

「ちょっと外では話しづらいことがあるんですが、入っても」

「いいよー」

快くシャドを部屋に招き入れるイオナ。

「お邪魔しまーす...え゛っ゛」

シャドが目にしたのは足の踏み場のないほどゴミが錯乱した部屋と、中央にあるソファの上で白目をむいて天を仰ぐレオの姿だった。

「これは、どういう...」

「疲れすぎてこんなふうになっちゃったんだと思うよ、多分」

「可哀想に...」

(それにしても、室内の作業でこんなに疲れるって...何があったんだ)

「で、用事は何だっけ?」

「そうでした...これです」

シャドは収納袋の口を少し開けて、眠っている人狼の姿をイオナに見せた。

「何これっ!!!」

「人狼、っていう種族らしいです」

「すごい!御伽噺の生き物!!...袋から出してもらっていい?これで調べたいから」

イオナはモノクル型の魔道具を指さしながら言う。

「分かりました」

シャドはそっと人狼の腹の下に両手を差し込み、持ち上げて外に出した。

(ピクリともしない。結構ぐっすり眠ってるな...)

「ふむふむ...あれ、おかしいな。古神とは関係ないみたい」

「そうなんですか」

「まあ...古神と関係があるっていうのがそもそも曖昧な言葉だし。魔道具を所持しているかの識別については色々分かっているだけど、古神の方はなにしろ該当者がそもそも少なすぎるのもあってほとんどわかってないんだ...というか、何のしるしも出ない。人間じゃないからかな...調べてみよう」

イオナは本型の魔道具を取り出した。

「人狼...御伽噺...伝承...あった!!

”人と狼の交わり、罪の証に神はきまぐれを起こした。生まれるはずのない命、宿るはずのない魂。人にも狼にも疎まれる彼らは、生き延びることによってかつての罪の実在を示し続ける”...だってさ」

「他には...彼らの生態についての記述とかありませんか?」

「人狼について、これ以外の情報は持ってないよ」

「そうですか...ちなみに、動物と人を混ぜ合わせたような種族って人狼以外にもいるんですか?」

「御伽噺や伝承には出てくるけど...実際居るのは、猿みたいな尻尾がついてるとか、肌がちょっぴり鱗っぽいとか、爪や舌が長いとか、それくらい。種族というわけではなくて普通の人から産まれるんだ。

この子は眼、耳、鼻、口、手足、体表どこをとっても狼の要素がある。際立って獣に近い」

「どういうことなんだ...」

頭を抱えるシャド。

「そんなに悩まなくても良いと思うよ」

悩んでいるシャドに対して、イオナは軽い調子でアドバイスを送る。

「その人狼はまだ大人じゃないはず。人間の子供も言葉を理解しているのに喋れない期間があるんだし、大きくなるまで気長に待てばいいと思う」

イオナはニッコリと笑った。

「シャドは素晴らしい拾い物をしたね。君が謎を突き止めるため研究者と関わっていくのなら、研究者の興味を惹く何かを持っていることは大きな助けになるよ!」

「ですかね?それなら良かった...そういえば最近、魔道具を手に入れる機会も巡ってきましたし、順調です」

「え?魔道具も?」

シャドの何気ない発言にひっかかるイオナ。

「やっぱなんでもないですっ」

(うっかり余計なことを言ってしまった!!秘密にするっていう約束だったのに)

「なんでもなくないよ!」

追及するイオナ。

「まあまあ、その話は後々...ちなみにこの街には後どれくらい滞在するつもりですか?」

無理やりな誤魔化しと話題転換を図るシャド。

「た、たぶん2週間くらいになると思うけど...」

「分かりました。それじゃあさよなら!」

シャドは逃げるようにレオとイオナの泊まる部屋から去っていった。

「なーんか気になる...まあ、私はレオが復活するまでは動けないけど。治安が悪そうだし」

レオが疲労困憊した原因が自分であることを棚に上げて、イオナはそう言った。

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