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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第2部 古神研究
28/45

激闘、逆回転

シャドはいつものように無茶な戦いを繰り広げていた。突き出された武器に対し、横合いに鈍色の剣を激突させ破壊する。衝撃で姿勢を崩した相手に一撃を叩き込むと即座に場所を移動する。

相手は今までのような狂兵ではない。理性のある相手の攻撃は効率的にシャドの肉体を損傷させていくが、まだ勢いは衰えていない。

一方人狼は己の爪と牙、そしてつけられた輪と鎖で暴れまわる。直立しても10歳の子供ほどの身長しかないにも関わらず、恐ろしい怪力を発揮している。

二人の活躍により、少しずつ構成員の密度が減少していく。

(攻撃は順調だけど...く、あの人狼、流れ出ている血の量がかなり危ういかもしれない。ま、まずい...)

意を決したシャドは人狼に呼びかける。

「生きたいなら...逃げるぞっ!!」

人狼の振り回す鎖の間合いの内へ、躊躇なく飛び込んでいくシャド。

莫大な運動エネルギーを持った鎖がシャドの肉体を強かに打つが、吹き飛ばされてもまた人狼の元へ向かう。

何度も鎖に打たれながら人狼に十分近づいたシャドは、人狼の腕を掴んだ。その刹那、人狼はぎょろりと眼球を動かしてシャドを見つめる。

「言葉は分かるよね...逃げよう」

そのままシャドは走り出す。人狼は抵抗すること無く着いてきた。

構成員たちの隙間を縫って走るシャド。

「遠くへ....何っ!?」

太鼓の音が三度鳴り響いたかと思うと、周囲の構成員たちが一斉にシャドと人狼から離れる。その後一瞬の間を置いて近傍の建物の窓が一斉に開くと、矢が放たれ始めた。。

全方位から迫りくる攻撃に対し、人狼を抱え込んで守るシャド。全身に矢を突き立てられる。

「これくらいなら、全然、まだ、動けるな...」

シャドは人狼を抱えたまま、密集地帯を駆け抜けていた。






「一旦、撒けたかな...」

密集した建物の隙間に入り込んだシャドは、束の間の安息を得ていた。

「言葉がどれほど通じるかわからないけど...頼みがある」

シャドは体に刺さった矢を引き抜きながら、人狼に話しかける。

「この袋...知り合った人から貰ったすごい袋なんだ。こんなふうに口を広げれば、大きなものも収納できる」

ローグからもらった収納袋を広げてみせるシャド。

「ここに入ってくれないかな?そしたらもっと逃げやすくなるから」

シャドがそう言うと、人狼は後ろ向きに袋に入っていき、顔だけ出した。じっとシャドの方を見つめている。

「なぜ助けた?ってことなら...いろいろと情報を教えてほしくて。会話できなくても、どうにかならないかな」

人狼は袋の中に頭を引っ込めた。

「伝わったかな...よし、早く逃げないと」

シャドは立ち上がると建物の隙間から少し体を出し、目と耳で索敵する。聴覚が敵の足音をとらえた。

(やばいっ!!)

シャドは急いで足音が聞こえる方向とは反対の向きへ逃走し、密集地帯を駆け抜けていく。

「死ねぇええ!!!」

前方の樽を片手をついて飛び越える瞬間、建物の隙間から敵が現れ槍を突き出す。

それに対してシャドは頭を下げて槍を躱しながら着地するが、そこに右方向の建物にいる射手から放たれた矢が迫る。

「ふっ!」

今度は頭を上げて間一髪被弾を逃れたが、左足のつま先に矢が突き刺さる。

「...っ危ない」

一瞬体勢を崩しかけたが左に力を入れて体幹を支えると再び走り出した。








「...くそ...」

その後数十分の間、逃げ続けたシャドは敵を振り切ったが、分かれ道のない袋小路に行き詰ってしまった。

「...来た」

シャドは先程自分が通ってきた曲がり角、その向こうから聞こえる足音に反応して鈍色の剣を構えるが、両手が震える。

「流石に、血を流しすぎたか...」

衣服は血の赤一色に染まっている。体中に力が入らず、立っていることすらままならない「ぐっ」

右足の力が抜け、片膝を地につく。

(体...動け!)

全力で力を振り絞るが、体が持ち上がらない。そんなことをしている内にも足音は近づき、とうとう構成員達が姿を現した。

「もうおしまいだ。お前は最初からここに追い込まれてたんだよ。

どこのモンだかしらねぇが...甚振って殺してやる」

構成員の一人が振った剣の側面が、シャドの頭部に当たる。シャドの体が横に倒される。

「かかれ!」

掛け声と同時に、大勢の構成員がシャドに武器を向けて近づいていき...突如起こった爆発によって吹き飛ばされた。

「...え」

残っていた構成員の首元に、次々と飛んできた短刀が突き刺さっていく。

「...」

シャドは無言で短刀の出現場所...背後の上方向に振り返った。

「会うのは二度目だな」

「お前は...っ!!」

依然と全く同じ格好をしている刺客が...そこに立っていた。






「...殺しにきたのか」

低い声で問うシャド。

「違う。取引に来た...私はデルコという」

涼しい顔でそう述べるデルコ。

「取引...?」

「お前の名は、シャドというのだろう?知っている。いままでの来歴も、分かっている。...村の案内を申し出たあの老人は、私の部下だからだ」

「バカな!!!」

愕然とするシャド。

「話を続ける。予想はついているだろうが、私は暗殺を中心とした後ろ暗い仕事を生業としている。そんな訳で、顔が割れるのは非常に困る。だが、ある時厄介なことが起こった」

デルコはシャドを指差した。

不死身のような人間に...顔を見られたという問題だ。しかも、その後殺害の依頼は取り下げられ、手紙を届ける依頼を頼まれてしまったためお前は依頼者側の人間となってしまった。襲撃することのリスクは計り知れない。私は頭を抱えた」

「...」

無言のシャド。

「そこで、まずは情報収集をしてどうするべきかの判断材料を得ようと思った。そして性格を分析した結果...目の前に現れて直接腹を割って話すのが最善だと判断した」

「...取引の内容はなんですか」

「そこの人狼が狙われない状態にしてみせる。具体的には、ミレニウムを全滅させる。私の要求は私のことを他人に喋らないことと...今後のお付き合いに前向きになってもらうこと」

「こ、今後のお付き合い?」

突然、現状の文脈とはかけ離れた雰囲気の言葉が出てきたために戸惑うシャド。

「私は個人で活動しているわけではない。組織を運営している。”夜陰”という組織だ...必ず役に立つ。そして私達の任務にも、必ずシャドは役に立つ。お互いに利益があると思わないか」

「...そうですね」

(イオナさんのような研究者との繋がりだけでは、目標の達成は難しいというのは薄々予感していた....たしかに戦闘力を有する組織と協力関係になれるのはうれしい。懸念事項だらけだけど...そもそもこの状況で選択肢はないに等しい)

「分かりました、乗りましょう」

悩む猶予すら惜しいと思ったシャドは、取引を受け入れる。

「感謝する」

デルコは眼を爛々と輝かせ、口元を覆う布の下でにやりと笑う。

「下っ端は放っておいていい、頭を殺す。赤い着物を着た男だ、名前はアンデ。金に物を言わせて魔道具を所持しているかもしれない。部下に任せるには危険過ぎるから私とシャドでやる。...もう動けるか?」

喋りながらデルコは曲がり角の向こうに爆弾を投げ込む。数秒経って大勢の断末魔が響き渡った。

「少し待ってください...」

シャドは収納袋は食料を取り出して貪り食うと、小一時間ほど休息をとった。



「よし...万全です」

体を動かして調子を確かめたシャドがデルコに報告する。

「早速行くぞ。まず、これで屋根に上る」

デルコはどこからともなく鉤縄のような物を取り出した。鉤のついた先端部分を2、3回ぐるぐると回した後、アンダースローのような投げ方で屋根の上に放る。鉤は屋根のてっぺんの折り返しの部分に引っかかった。

デルコは縄に足をかけるとスルスルとヘビのような滑らかな動きで登っていく。

シャドもその後を追ってのそのそと屋根に登る。

「さて、頭はどこだ...」

デルコは周囲を見渡す。ところどころで様々な色のついた煙が立ち上っているのが見えた。

「あそこだ」

その内の一つ、赤い煙を捉えたデルコは屋根の上を駆け出していく。司会に入った敵には全て爆弾を投げながら移動しており、相手からすれば突如天から死が降ってくるというものだった。

「ここか。出てこい」

デルコが声を発すると、屋根の下から鉤縄が飛び出し、デルコと似た服装の男が現れた。

「あの、2階建ての家屋の中に隠れています」

男の報告を聞いたデルコは、シャドに布がぐるぐるまきになった球体を渡した。

「これは?」

「密度の軽い毒煙だ。あの建物の入り口全ての前に設置してきてくれ。私は密度の重い毒煙を二階の窓から流し込む」

「えげつないですね」

「20秒ほど待ったのち、建物の中に突入して存分に暴れまわってくれ。爆弾も渡しておこう。建物から出てきた敵は私と部下で殺す」

建物の周りにはほとんど人がいない。隠れていることを悟らせず、のこのこ侵入してきた相手を大勢で打ち取るためだが、今回のケースでは逆効果となる。

「設置完了しましたっ」

フシューという音と共に毒煙が噴出される。毒煙は閉じられた出入口の隙間から容赦なく建物内に浸透していく。

「あ、この袋をあずけていいですか?」

「良いだろう」

シャドが投げた収納袋をデルコが受け取る。

「行って来い」

デルコの合図とともに突入したシャドは、毒煙から逃れるため外に出ようとしていた相手と鉢合わせる。

「せいっ!」

「ぐあああああ!!」

鈍色の剣で敵の頭蓋を粉砕するシャド。突然の仲間の悲劇に対応しようとする相手の動きは、明らかに精彩を欠いたものだった。

動きの冴えない構成員達を瞬く間に一掃したシャドは、半ば武家屋敷のような部屋と廊下の配置の建物を、会敵すると同時に爆弾を投げることを繰り返しながら進んでいく。

誰も彼もが一瞬で瀕死に追い込まれる。

「どこからこんな技術と資金が...?これは当たり前なのか?」

自分の手元にある道具に恐怖を感じながらシャドは虐殺を続ける。

「ん」

二階へと続く階段を発見したシャドは足をかけて登るが、違和感を覚えて立ち止まった。

「この階段、やけに音が響くな...」

階段が空洞になっている可能性に気づいたシャドは、急いで駆け下りると階段の側面を鈍色の剣で叩く。

「割れた...うぐっ」

べきべきと木製の板が割れ、暗い空間が向こう側に見えた直後、そこから飛び出してきた人影がタックルをシャドに当てる。

シャドが少しよろけた隙に人影は距離を取ると、シャドに向けて細長い筒を向けた。

「死ね」

男は言うと同時に、筒を持った両手の片方でひねるような動作をする。その瞬間筒の先から大きな炎が吹き出し、シャドの視界を埋め尽くした。放射された炎がまだ使っていなかった大量の爆弾に着火したことによって...大爆発が起きる。

「危ない危ない...火筒と緋の着物がなければ死ぬところだった」

ミレニウムの頭...アンデは、爆風で倒された体を起こす。

「今回の襲撃はどこの仕業だ?目障りが過ぎ...」

独りごちていたアンデの頬を、煙の収まらない爆心地から飛来した短刀がかすめた。

「破片が...入っているタイプじゃなくて良かった」

シャドは、煙の中からぬっと姿を表した。

「...嘘だろ」

そう呟いたアンデに、シャドは鈍色の剣を振り下ろした。

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