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不撓不屈の奪還記  作者: じゃんべら
第2部 古神研究
20/45

オールダウン(6)

「そうだ。その理由がようやく分かったんだよ」

ローグが忌々しげに言う。

「どんな理由なんすか?」

「それはな...」

ローグが答えようとした瞬間、突如ひとりでに荷台が揺れ、がたがたと音がなる。

「...はぁ。荷台の兵站に紛れて、隠れてるやつがいるんだ。そりゃ不自然な積み方になるってもんだ。

お前らが向こうに言った後...荷台を袋から出して食料を取り出してる途中、突然がたがた音がし始めてな。それで気づいた」

「えぇぇぇぇ!!!じゃあ隊長、俺たちはそいつが潜んでるのに気づかず今までずっと持ち運んでたってことっすか!?」

「そうだ。...全く、クソとかションベンとかどうしてんだよ」

「何やら大変そうですね」

マシャールに少し遅れてシャドも到着した。

「荷台の中に隠れてる奴がいる。...どうやって隠れきっていたかも、こそこそ最前線に来る理由も想像がつかん。...十中八九、ろくでもない奴だろうがな」

「うーん...」

そもそもこの世界の社会構造や人々の暮らしについてよく分かっていないシャドには想像がつくはずもない。

ぐるぐると不毛な思索を続けるシャドだが、荷台に被せた布から突如突き出た剣を目撃したことによって思考を中断した。

「お出ましか」

ローグが吐き捨てるように言う。

突き出た剣はするすると動いて布を切り裂いていき、軌跡は長方形を描く。

剣が一周して突き出た部分へ戻ったところで長方形がぽとりと地面に落ち、剣を握った男が姿を表した。

背はシャドよりほんの少し高いくらいで、緑を基調とした鮮やかな色彩の服を着ている。

「...ん?お前らは何をしているんだ?他の兵士はどこへ行った。まさか死んだわけではないだろうな」

男は周囲を見回すした後首を傾げると、四人に当然のように質問を投げかける。

「...人に質問する前に、その食料を積んだ荷台にこっそり隠れてた理由を説明する方が先じゃねえのか。怪しすぎるぞ」

「こちらにはこちらの事情がある。お前ら兵士に何かしようという訳ではない。気にするな」

平然とした様子の男。

「気にするなって言ったって無理あんだろ!!

 ...それを言い出すなら、こっちだって質問に答えねぇぞ」

(周りの様子がおかしくなったから、兵站ごと盗んで逃げましたっていうのはめんどくさいことになりかねん...というか、なんであの男は兵站に紛れてた立場であんなに堂々としてるんだ!?神経がイカれてるぞ!!)

頭の中で毒づくローグに、ウェンドが耳打ちする。

「ローグ隊長...荷台に、もうひとりいる」

「はぁ!?」

思わず大声を上げてしまうローグ。

「くそ、考えるのがめんどくせぇ...おい!お前!俺の仲間が言うには、荷台の中にもう一人いるらしい!!なぜ隠した!!」

考えるのに嫌気が差したローグは駆け引きなしで直球で質問をぶつける。

「隠してなどいない。そもそも一人だとは言っていない」

男は少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻すと冷静に答えた。

「隠してないなら出てきてもらおう。俺達がお前と話している間にそいつが何をするかわからんからな!」

「そうか。分かった」

ローグの要求をあっさり飲む男。

男は布にできた長方形の穴を二倍に広げると、そこから女が顔を覗かせた。男とほとんど同じ背丈、痩せた身体に、上から様々な色のペンキを撒かれたかのように汚れたロングコートもどきを羽織っている。

「...っ!?」

シャドは女の格好を見て眉をひそめる。女が左目につけていたのは間違いなく「モノクル」と呼んで差し支えのないものだったからだ。

元の世界におけるメガネの歴史もこの世界のこともよく知らないシャドだが、カシャから聞いた話で蒸気機関がまだ発明されていない程度の文明レベルであることを知ったため、メガネを見ることはないだろうと思い込んでいた。

史実では、13世紀後半にはイタリアで発明されている。またレンズに限って言えばその遥か昔から存在する。

「薬が抜けきらなくて、まだ眠い...レオ、これはどういう状況?」

「イオナ、それが俺もよくわからない」

「...」

この状況で平然と会話を続けるレオとイオナに絶句する四人。

「...あの」

「何か質問?」

シャドが声をかけようとすると、イオナと呼ばれた女がシャドの方を向いた。すると次の瞬間、何気なくシャドに向けられた眼が見開かれた。

「これって...レオ、大発見だよレオ!!やっぱり来て良かった!!」

「良かったな」

イオナは急にはしゃぎだし、レオもにやりと笑う。

「...あの」

シャドが再び声をかける。

「あぁ、ごめんごめん、つい。この道具で、君が古神から力を与えられたことを知って喜んんじゃった。私達は狂兵の噂を聞いてその調査にやってきたんだけど、彼らは古神の力で捻じ曲げられただけで、力を与えられたわけでなかったの。それだけじゃ満足出来ないから、成果を求めて最前線に来た。レオは私の幼馴染で旅の道連れにした。よろしく!」

イオナは一気に大方の事情を言い切った。

「古神!?その話詳しく聞かせてください!!」

「シャドさんって神から力を与えられたんすか?すげぇぇぇ!!!」

「格好も喋る内容も無茶苦茶すぎる...俺はもう疲れた」

三者三様の反応を返す。相変わらずウェンドは黙っていた。

「君はシャドっていう名前なんだね。

 ...それで、古神っていうのは...うわっ」

喋っている途中、荷台が突然揺れだしたことでイオナはバランスを崩しそうになり、レオに支えられる。

「これは何だ?イオナ、わかるか?」

「わからない...」

荷台を揺らしたのは地面。目に映る全てが揺れ動く。

「地震か...?」

そう呟いたのはローグ。剣を抜き放ち地面に突き刺して、姿勢を安定させようとしている。

各々が驚く間にも揺れはどんどんその激しさを増し、地の軋む音に混じっていつのまにか奇妙な声が聞こえ始めた。

「魔...複す......知、規...............獲」

「これって絶対地震じゃないっすよ!!!なんすかあれは!!!」

叫ぶマシャール。一行のいる場所から南西の方角、空中に突如雷が走り、強烈な紫色の光が弾けた。

紫の雷は地に落ちること無く高速で空中を動き続け、だんだんとその数と勢いを増やしていく。

「反応は...古神そのもの!?...まさかこの眼で見れるなんて!!」

この世のものとは思えない恐ろしい光景に対し、唯一イオナだけが喜びの声を上げる。

「準.......充...」

また奇妙な声が聞こえたかと思うと、紫色の雷の塊が円筒形に形を変える。やがてその円筒がひとりでに彫刻され、巨大な腕が顕れた。巨大な腕は一向にゆっくりと手のひらを向ける。

「イオナ、アレはやばいんじゃないか。逃げたほうが...」

「多分逃げれないよ、レオ。これから起こることを目に焼き付けることのほうが大事」

「そうか」

相変わらずマイペースを崩さない二人に対し、ローグ達は大慌てしていた。

「今すぐ逃げるぞっ!!」

ローグが慌てて反対方向へ駆け出していく。それにマシャールとシャドも続くが...

「ローグ隊長。盾の後ろにいたほうが良い。早く」

何かを感じ取ったウェンドは逃走を否定した。

「...」無言で引き返すとウェンドに近寄るローグ。

「マシャール、僕の後ろに」

「わかったっす」

シャドの経緯を聞いていたマシャールはすぐに従った。


「捕獲」

奇妙な声が聞こえた瞬間、雷の手から放出された紫電が地を埋め尽くした。


「眩しい...あれ、おかしいな」

数秒間の爆音と光が終わり、目を開けたシャドは疑問を覚える。

(痛みがないどころか、怪我をしたときに感じるはずの違和感すらない...そうだ、みんなは!?)

シャドが周囲を確認する。全員が倒れていたが一切外傷は見られない。

(僕やウェンドに庇われたマシャールやローグも倒れてる...

 そういえば、捕獲という単語が聞こえた。でもまだ捕まったわけじゃない。じゃあ、これから何が起こるんだ?)

そんなことをシャドが考えていると、再び奇妙な声が聞こえる。

「低...変性...法..........侵......懸念...排除」

「排除?」

聞き取れた単語の意味をシャドが考えた刹那、膨大な雷が忽然と消え去ると共に、付近の岩山がその輪郭を崩す。

「え?」

岩山の全てが一瞬にして液状化し、濁流へと姿を変え...全てを押し流していった。


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