村、訪問
翌日、シャドとカシャは村民達が去って無人となった村に来ていた。
「何の用事でここに?」
「私達のために武器や食料を残してくれたらしい。それの回収と...もう一つ、授かった力を使う」
「授かった力というのは、視力だけじゃないんですか?」
「知識、身体能力から奇術、魔術のようなものまで様々与えられた。自分が何を授かったかについての大まかな知識も」
「凄まじいですね」
「自分自身、何が起こっているのかよく分からなかった。授かったのは、あの場所」
この村はいわゆる「円村」で、大きな広場を中心に環状に家が数十軒立ち並んでいる。
カシャが指さしたのは広場から村の端まで伸びる道の東端。道を挟んで向かい合う家の間に太陽が浮かんでいる。
「あそこで日の出を見ていた時だった。いつの間にか太陽から視線を動かせなくなって、身体もびくともしなくなった。その状態でしばらくすると頭の中に啓示が駆け巡った。そこらはよく覚えていない。意識がはっきりしたころには丸一日が経っていて、周りには人集りができていた」
カシャは淡々と語る。
「どうしたら良いかわからず立ち尽くしていると、人混みが割れ巫女が現れた。そこで多くの事、主に村に遺された伝承について語られ、こちらもその時分かっていたことをできる限り喋った。そこから数ヶ月後、警備の役目を任された」
「子供にそんなことを任せるなんて。両親は何か言わなかったのでしょうか」
「両親?産みの親など知らない。子供は皆等しく村の子供」
「な、なるほど」
思わぬところでカルチャーショックを受けたシャドに構わず、カシャは話を進める。
「最初の頃は先任者と一緒に生活の基本から侵入者の対応まで行ったが、数週間経つと先任者は役目を解かれ村に帰っていった。かなり年を取っていたからだと思う。
そこからはずっと一人で暮らしていた」
「...寂しくはなかったのですか」
「じきに、慣れた」
そういった直後すこし目を伏せるカシャ。
「...」
どこかしんみりとした雰囲気になったのを感じ取ったシャドは話題を元に戻すことを試みた。
「今回使う力は一体どのようなものですか。なにか準備など必要なものがあれば」
「遥か遠くを見る力だ。太陽が見つめているものを見る力。南方からこの地へ向かってくるものがいるかを探るために用いる。
しかしこの力、太陽から送られるのは遥か遠くの景色だけではなく、
太陽が持つ熱の一部を受け取ってしまうらしい。草原でこの力を使おうものなら草に火が点いて大惨事が起こってしまう。そのため草の剥げた広場で行う」
「え、カシャはその熱で火傷を負ったりしないんですか?」
シャドが当然の疑問を口にすると、突然カシャがシャドの手を握った。
病による高熱にも勝る体温の高さと、異性の手を突然握るという大胆な行動にシャドは驚いた。
「あ...」
「普段からこのぐらいの体温で、体は熱に丈夫。火に手をかざしたこともあるが特に熱さは感じなかった。心配する必要はない」
ニッコリと笑ったカシャを概ね信じることにした。
「...一応水を用意しておきます」
「木の桶に水を溜めておきました。これで準備完了です」
広場の中央に立つカシャと、それを端から眺めるシャド。シャドの傍らには水で満ちた桶が三つ程並んでいる。
「では、始める」
カシャは手に持ったやりで地面に模様を描き始めた。
磁界のような模様が槍の先で刻まれていく。
「ん、今、一瞬...」
シャドには一瞬、槍先が発火し火の粉を振りまいているように見えたが、目を凝らしてもそのような形跡は全く見当たらなかった。
カシャは未だ動き続けている。シャドは今までの人生から年中行事や冠婚葬祭の記憶を掘り起こしてみたがこれほど荘厳で神秘的な雰囲気を一人の人間から感じたことはなかった。
与えられた力は、間違いなく神の一部なのだと確信を抱かせられる。
「...お導きを」
その言葉を最後にカシャは槍を下ろし、片膝立ちで太陽を見上げる姿勢を取った。
カシャの眼の幾何学的な模様がせわしなく動いた次の瞬間、強烈な光と共に爆音が鳴り響きシャドは思わず目を瞑る。瞼の上に熱風が押し寄せた。
しばらくしてシャドが目を開けると、ところどころ地面が燃えている広場の中央で先程と同じ姿勢のカシャが見えた。
「カシャ?」
「....うまくいった」
そう言いながら立ち上がろうとしたカシャだったがよろけてしまう。
「水を」
「はいっ」
シャドは躊躇なくカシャに桶の水を掛ける。まるで鉄板に水を掛けた時のような音が鳴り、もくもくと蒸気が出てくる。
「とんでもない高温ですね...」
「急激な体温の変化のせいかすこしぐらついてしまったがもう平気。
それより、恐ろしいものを見た」
険しい表情のカシャに思わず黙りこくるシャド。
「こちらへ向かって来るものは見当たらなかった。少なくとも3日の間は警戒する必要はない。だが、大量の死体が見えた。歩いて2日ほどの場所を境に、そこより南は延々と死体が散乱した大地が続いていた」
「そんな」
あまりに近い距離に頭を抱えるシャド。
「一体、どれほどの規模の争いが起こればああなるのか想像もつかないが、今私達に出来るのは備えを万全にすること」
カシャも驚いているようだがやるべきことを見失ってはいなかった。
「ですね。そういえば村の人達が残してくれた武器があると言っていましたね。見に行きましょう」
キリがいいところで投稿したら少し短めになってしまいました。