大失敗
奇怪な模様の青い服を身にまとった人々が、薄暗闇の中で円を成し、その内側を向いて何かに対する祝福と願いの言葉を一心不乱に唱えている。円の中心には大勢の人間の遺体がうず高くつまれていていて、ひどい匂いがあたりに立ち込めている。
輪唱は長く、長く続けられたが、やがて「我らが神に乞う...今、ここに勇者の降臨を!」という言葉を最後に終わった。
瞬間、死体の山が強烈な光を放ち、忽然と消える。
それ以外には、何も起こらなかった
「なぜ召喚の成功を示す光が見えたのに勇者がいないのだ!」
「膨大な生贄を用いて失敗したとなれば、どう責任を...」「あれだけ入念に準備を重ねた我々に非があったとは考えられない。外部から何らかの妨害を受けたのではないか?」
そのような言葉が飛び交う中で、一人だけ青ざめた顔でうつむき、沈黙を保つ者がいた。
...それも当然、まさか自分のせいで国を救う勇者召喚の儀式がとんでもないことになったと言い出せるわけがない。
この世界には、大いなる存在の力によって生物や道具を呼び出すという術が存在する。
今回行われた勇者召喚の儀式は数百年行われることのなかった特別なもので、複数の人間が同じ言葉を唱え、膨大な数の新鮮な人間の死体を生贄とすることにより、厄災を払う「勇者」を呼び出すという儀式だった。
現在この国は正体不明の種族による侵攻を受けており、儀式が成功すれば異種族に対抗する力を持った勇者が召喚されるはずだった。だが、その計画は緊張のあまり訳のわからない噛み方をして「今、ここに勇者の降臨を!」と言うはずだったものを「沼、ここに勇者の降臨を!」と言ってしまった一人の男によって頓挫した。
かくして、この国は滅んだ。