[短編]まいたけさんのお菓子〜ミルクチョコレートで祖父も育児参加するの巻〜
人によっては不快になる表現があります。
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四つ辻にある立ち飲み屋『もっきり』。
八百屋の帰りにふと覗いてみたら。
美味しそうな天ぷら。
「あ、わたしにも舞茸の天ぷらください!」
「こんばんは、中村さん。珍しいですね」
「ちょっと聞いてよ、まいたけさん!」
天ぷらを待つ間、八百屋で顔馴染みになった発明家のまいたけさんと話をする。
まいたけさんは、五分刈り頭の小さなおじさんだ。
丸顔でひどく狭い富士額に、眉と唇は太く、ぎょろぎょろとした目に、鼻の脇には大きなホクロのある特徴的な顔。
何故かこの四つ辻でよく会う。
「娘がね、双子を産んだの。それで娘夫婦だけで世話してたんだけど、娘婿の残業が増えてきてねぇ。
もうだめ〜って、泣きつかれたからこっちに呼んだの。もう、毎日赤ちゃん2人の面倒見るのに必死よ。それなのに」
天ぷらを食べるまいたけさん。
ふんふんと頷いている。
「旦那ときたら、何もしないの!挙句に飯はまだか、掃除してないって。子育て2人やったわたしなら簡単に出来るだろうって思ってるのよ!
双子じゃないし!
そういえば、あの時もあの人何もしてなかったわ…!」
思い出したら腹が立ってきた。
怒りに任せてまいたけさんの天ぷらを強奪する。
「3時間ごとの授乳を2人分って、どれだけ大変か分かってないのよ…!」
涙目になったまいたけさんが、慌ててポケットからチョコレートを取り出した。
「それならこれを旦那サンに食べさせてく下さい。
ちなみに、娘さんの実の父親で、退職して自宅にいる人で合ってますか?」
「え、ええ。ミルクチョコレート?チョコ好きだから食べると思うけど」
すると、まいたけさんはにっこりと笑った。
ひと月後、またまいたけさんと『もっきり』で再会した。
「まいたけさん、何あれ、すごいわね」
「どうでした?」
「板チョコ全部食べたら、翌日から旦那の胸が張ってた。
泣きながらなんとかしてくれって言うから、母乳マッサージしてやったら、出るわ出るわ。
双子がお腹いっぱいになってた」
舞茸の天ぷらを注文してから、話を続けた。
「そうしたら、授乳しないと痛いって泣くし、授乳したらしたで、噛まれて痛いって泣くし。
しまいには、この1ヶ月全然自分の時間が無いって言って号泣してるの」
「ほうほう。1ヶ月ならもうそろそろ元に戻ると思いますよ」
「ええ。だから、まいたけさんにまたミルクチョコレートを貰おうと思って」
わたしはにっこりと笑って、カウンターに届いた舞茸の天ぷらをまいたけさんの前にそっと置いた。
その後。
夫「もう勘弁してくれ」
妻「それなら自分でご飯作ってね。わたし、絶対に食べさせるので」
さらにその後。
夫「ミルク、俺やるから、出掛けてこいよ」
娘「ありがとう!おやすみ!」
さらにその後。
夫「……なぁ、もう一回、出ないかな」
妻「えー。娘婿がやりたいって言ってるから、あなたは後ね」
さらにその後。
夫「……帰るの?まだいたら?…ひとり、置いていかないか?」
娘婿「お義父さん、ダメです」
娘婿は年末年始の休暇中、チャレンジ予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。m(_ _)m