霞んだ君は色を取り戻す
今日から青春を謳歌する神流崎誠。俺は町に待ちわびた高校生になった。高校生といえばやっぱり青春!!アニメで見るような最高のスタートになるだろうと思っていた。けれどなんと今日は大雨。最近、晴天が続いていたのに神様はなんて不愉快なことをする奴だと思った。まぁそんなことを思いながら両親たちと一緒に高校へ向かった。高校にはもうたくさんの人が来ていて、雨にもかかわらずワイワイガヤガヤしていた。
「誠、あそこで記念に写真を撮りましょう!」
「おぉいいな!記念すべき写真だな」
母さんも父さんもワクワクしていた。そんな両親を横目に俺は緊張していた。並んでいた順番が来て入学式の看板の前に着くと、父さんは写真撮影を後ろの人に頼んでいた。
「よし、みんな笑えよ」
父さんはそう言ったが、緊張している俺には到底無理な話だ。
「誠、あんた顔がこわばっているじゃない。もーせっかくの記念写真なのに~」
「無茶言うな、笑ってって言われてすぐに笑顔になんてならねーよ」
そう返す俺に両親は笑って同感してくれた。時間も近づいてきたので両親と別れて教室へ向かった。当然教室には知っている奴なんかいなく結構静かだった。席に着くと前の席に座っていた奴が話しかけてきた。
「俺、神谷翔。よろしく!」
「あ、、俺は神流崎誠。よろしく」
いきなり話しかけられて心の準備ができていなかった俺は、たどたどしく挨拶を返した。そして話をしていくうちに名前呼びにすることになった。話していて翔はたぶん根っからの陽キャなのだろうと思った。それから少しすると担任らしき先生が入ってきた。
「やば!めちゃタイプ!!あの人彼氏とかいんのかなぁ」
「知らねぇよ。てかストライクゾーンどんだけ広いんだよ」
「いやあの人絶対20代前半だって!俺にもワンチャンあるかもじゃん!」
「手ぇ出したら犯罪だわ」
「ハハハハ、誠お前おもしれぇな」
「そりゃどうも」
翔はそれからも先生に夢中だった。入学式の前に自己紹介をしようということになって自己紹介が始まった。まず先生が一番初めに自己紹介を始めた。名前は白崎侑果というらしい。翔は侑果ちゃん侑果ちゃんうるさかったので、しばらくほっといてやった。そして翔の番が来た。中学の頃はサッカーをしていたらしく、そこそこ大会でも成績を残していたらしかった。いわれてみればたしかに身長もあるし筋肉もしっかりあった。それまで静かだった教室が、翔の最後の発言で教室が笑いへと変わった。白崎先生に告白してフラれたのだ。はじめはシーンっとなった教室だったが、白崎先生がバサッと返事を返しクスクスと笑いが起こり、最後にはみんなが笑っていた。この次に話す俺の身にもなってくれと、俺は翔を軽く睨んだ。俺は中学はバスケをしていて…っと翔と似たような自己紹介の流れで話した。それからは流れ良く順調に進んでいった。そんな中、目を引く人がいた。高校生にしては何か、凛とした大人っぽい雰囲気をまとっている女子がいた。その子の名前は三谷撫子。アニメのようなヒロイン的可愛さや綺麗さが群を抜いているわけじゃなかった。けれど俺にはなぜか惹かれるものがあった。そして全員の自己紹介が終わり少しするとチャイムが鳴り、先生の指示に従い体育館前へと移動した。そして吹奏楽部の音楽が始まり、体育館の中へと歩き出した。みんなさっきまでの緩い雰囲気はなくなり、緊張と不安の顔になったいた。ゆっくりと歩き出す前に続いて俺も歩き出した。保護者や先輩たちに見られている緊張はかなり大きいものだ。席に着くと国歌、そして長々と校長やPTAなどの話を聞いて校歌を歌い、長かった入学式も終わった。教室へ戻ると白崎先生から話を聞き、プリントをたくさん配られて解散となった。廊下には両親が待っていて、今日あった出来事の話などをして帰った。
次の日、今日からは一人で登校する初めての日だ。アニメのように朝一緒に学校に行く友達ができたら楽しいだろうなとか考えていた。学校近くで翔に会い、話しながら教室へ向かった。教室へ来る途中、結構たくさんの人から視線を浴びているなぁと思っていた。
「なんか視線を感じるんだけど翔昨日なんかやらかしたの?」
「誠、お前は俺を何だと思ってんだよ!さすがに入学初日からなんもしねぇだろ普通」
「入学初日から担任に告る奴も普通いねぇよ」
「それは言えてる!」
翔は笑いながら席に着き、横の壁にもたれていた。俺は教室の一番左後ろのアニメでいう主人公ポジだ。まぁそんなアニメのような日々は来ねぇだろうと自覚していた。そんな時、クラスメイトの女子が何やら俺を呼びに来て、廊下に来てと言われた。俺は何かやらかしたかなと考えながら廊下へ向かった。するとそこには誰かわからない女子がいて、その子についてきてと言われて人気の少ない中庭の廊下まで来た。そこで俺は人生で初めて女子から告白された。嬉しかった思いはあったが、まずは友達からと伝えた。その子は頷き、とりあえず連絡先を交換して少し話をしてから教室へ戻ると、そこにはめちゃめちゃニヤニヤしている翔が待っていた。俺が席に着くや否や告白されたんだろうと図星を突かれ、告白を断ったことを伝えた。
「やっぱりモテる男はちげぇなぁ~」
とからかってきた。
「モテたこと今までねぇよ」
そんなこんなで冗談を言い合いながらいろんな話をした。
「今日クラブ紹介あるらしいけど、翔は何に入るか決めてんの?やっぱりサッカー?」
「そうだな、そのつもりだよ。ここのサッカー部、部員多いらしいから大変だと思うけど楽しみだわ。誠は何か入んの?」
「ん~俺は入るならバスケかなぁ今までしてきたし」
「やっぱり今までしてきたスポーツに入りがちだよな」
「そだな!」
そしてクラブ紹介の時間になった。ここは全国でもあまりない部活があるから、珍しい部活でも部員はそれなりにいるみたいだ。正直eスポーツ部やアイススケート部など珍しい部活がまぁまぁあって、そんな部活のクラブ紹介は聞くだけでも面白い。バスケ部が平均身長が高い人が多かったが、キャプテンをしている人は見た感じ167くらいしかなく、他と比べると低く感じた。俺はたぶん身長を生かしたプレーじゃなくてテクニックやゲームワークなどがうまいんだろうなと思っていた。俺も身長はそこまで高くないから、似たようなプレースタイルかもなと感じていた。クラブ紹介が終わり教室に戻ると翔はワクワクしていた。サッカー部が予想以上によかったらしい。俺はあまりサッカーに詳しくないがこの学校にテクニシャンのように軽やかなプレーをする人がいるらしい。俺は席についてさっと周りを見回した。三谷さんは誰かと話をしていて部活の話でもしているのかなぁとか考えていた。担任が最後に戻ってきて、クラスの係・委員を決めることになった。なかなか決まらないだろと思っていたクラス委員に翔が立候補をした。俺は思わず「まじかっ」って心の声が漏れていた。女子のほうはなかなか決まらず後回しになった。俺は楽そうな保健委員になった。女子はなぜか保健委員になりたい人が多く、じゃんけんで決めることになった。その中に三谷さんがいて心の中で三谷さん勝て!っと思った。そして残り二人のラストまで残り、一騎打ちになっていた。結果三谷さんが勝ち、保健委員になった。俺は内心ガッツポーズをして大喜びだった。ほかの係・委員も順調に決まったが不人気のものは、やはりなかなか決まらなかった。最終じゃんけんで勝った人が、残っているものの中から選んでいく事となりようやく決まった。チャイムが鳴ったので、先生が締めて解散となった。教室を出ようとしたとき三谷さんが話しかけてくれた。
「よろしくね」
「うん、よろしく」
こんな短い会話だったけど嬉しかった。三谷さんから話しかけてくれた。鼻歌を歌いながら学校を出ると「誠キモイぞ」と言われたが気にならなかった。なにせ今日は気分がいい。家についても気分はよく、親から「なにかいいことあったんだね」と言われた。
今日はクラブ体験がある。早くバスケしてぇと思っていると、翔も同じことを考えていたみたいだった。翔とはあれからかなり仲良くなって今では親友なのかもって思っている。三谷さんとはたまに話すくらいだ。そんな展開の遅さに神様はうんざりしたのだろうか。先生から「保健室へこのプリント運んどいて」と言われて初めての保健委員としての仕事がやってきた。俺はチャンスだと思い、保健室へ行くまで三谷さんに積極的に話しかけてみた。そして三谷さんは俺とアニメの趣味が合うみたいで恋愛青春ものやスポーツものが好きみたいだった。
「男子ってあんまり恋愛ものとか見ないんだろなって思ってた。けど案外女子みたいにキュンキュンしたりするんだね」
「もちろんするよ~。男子って女子が思ってるよりもロマンチックなシーンに憧れてたりするんだよ」
「そうなんだね。たとえばどんなのがいいの?」
「ん~例えば夏祭りの花火が上がってるときにハグしたりキスしたりとかじゃないかなぁ〜」
「わぁ~それいいね!キュンキュンする」
「だよね!」
「うん!」
俺はこの流れで連絡先を聞いてみることにした。
「もしよかったら連絡先交換しない?」
「うん、いいよ。委員会でなにかあったとき連絡できないと大変だもんね」
「あ、うん、そうだね…」
保健室に着き先生の机に書類を置いて保健室を出た。
「三谷さんはなにか部活に入るの?」
「いや、私は入らないかな…」
なにか悲しげな気がしたが、気に入る部活がなかったのだと思った。そして休み時間が終わって教室に戻り、授業を受けて放課後になった。クラブ体験の時間だ!
「誠!ようやくクラブに行けるぜ!もう行ってくる!」
嵐のように飛び出していく翔を見て、サッカーバカなのかと思った。俺も準備をして部活へ向かうことにした。廊下で三谷さんと会い、挨拶を交わした。普通に挨拶を交わす関係にまで成長できたことが、俺には嬉しかった。そして着替えて第一体育館へ向かった。ここ第一体育館は、バスケ部専用で広い体育館だ。俺が着いて少しすると、キャプテンがこっちに来てみんなに話しかけてくれた。
「みんなわざわざ来てくれてありがとう。クラブ紹介の時も言ったけど、俺はバスケ部キャプテンの須賀健です。今日はみんなにもバスケをしてもらうからね。手前のコートでミニゲームをします。まず、初心者の方いますか?いたらあそこにいる先輩のとこに行ってね。優しく教えてくれるから。経験者の方はまず、2ON2でもしてみるか」
何人かが初心者だったらしく、指示された先輩のところへ向かった。そして俺たちの方は、順に2ON2が始まった。先輩たちとやるため、みんななかなか勝てずにいた。クラブ体験だからといって、勝たしてくれるわけではないようだ。そして俺の番が来て相方も決まった。
「よろしくな。俺は雨宮智。5組だ」
「よろしく。俺は神流崎誠。2組だ。とりあえず頑張ろうぜ」
「おぅ、勝とうぜ!」
試合が始まり俺と雨宮は即席とは思えないほどパス交換をし、コートを動き回った。そして一瞬先輩たちに隙ができた。俺はそこへパスを出そうとすると、雨宮はそこにベストなタイミングで入って来てくれてなにか歯車がかみ合った気がした。雨宮はそのままシュートを決めて俺たちは勝った。
「おぉーすげぇ!よくあそこにパス出してくれたな」
「雨宮こそよくあそこで入ってこれたな」
「あたまえよ!あのタイミングしかないだろ。それより誠のパス最高かよ!きたときビビっときたわ」
「俺もなんか歯車がかみ合った気がしたよ」
「俺のこと智って呼んでよ。俺も誠って呼ぶから」
「わかった。これからよろしく智!それともうすでに誠って聞く前から呼んでたぞ」
「あら、そだっけ、まぁそんなことよりこれからよろしくな相棒!」
「あぁ!」
先輩たちから俺たちは褒められた。キャプテンからも褒めてもらってみんなからは「お前ら同じ中学なの?」とかいろいろ聞かれた。結局先輩たちに勝てたのは10組中俺たち含めて2組だけだった。そして楽しい時間はすぐに終わり、クラブ体験終了の時間になった。
「今日は来てくれてありがとう!今日勝てなかった子もバスケ部入ったら先輩見返してやろうよ。勝てた子たちは入れば他の人ともいっぱいできるよ。最後に今日はありがとう!また会える時を楽しみにしてるよ~」
俺は智と話しながら帰った。智とは帰り道が真逆でお互い笑った。そして部活に入ったら相棒を組もうと約束した。
クラブへ正式に入部したが、今日から本格的に授業が始まることになり、早くも憂鬱だ。つい先日席替えもあって翔とは離れてしまった。けれど三谷さんが俺の横の席になった。翔の代わりと言っては翔には悪いけど、おつりがくるほどだと思った。席が近くなった子とは仲良くなって友達も多くなり、青春を満喫していた。三谷さんとは今では休み時間によく話したりする。
「神流崎君は何か本とか読んだりする?最近ハマってる小説があるんだ」
「最近はあんまり読んでないかも。中学の時はよく読んでたんだけどね」
「そうなんだ。どんなジャンルが好きなの?」
「俺は恥ずかしいんだけど恋愛ものとかかな、いろんなジャンル読んだんだけど眠くなっちゃって。それで読めたのが恋愛ものだったんだ」
「なんか面白いね。でも恥ずかしがらなくてもいいんじゃないかな、ギャップ萌え?みたいなのなるかもよ」
三谷さんは笑ってそう言った。笑っているときの三谷さんはやっぱりかわいかった。
「三谷さんはどんなジャンル読むの?」
「推理ものが多いかな。恋愛ものも好きだけど、なんか推理ものは引き込まれちゃう」
「そうなんだ。今読んでるのも推理もの?」
「そうだよ。なんか表紙に惹かれて買ったんだけど内容がとても奥深くて面白くて」
そんな話をしていると先生が入って来て、次の授業が始まった。休み時間に三谷さんとよく話しているせいか、付き合っているんじゃないかって噂も流れ出していると翔から聞かされた。俺は三谷さんに謝ったが特に気にしている様子はなかった。「能天気に楽しめる人はいいよね」っと三谷さんはボソッと口にしていた。たまに普段優しくていつも笑顔な三谷さんからは想像できない発言をすることがある。俺は特に触れることなく、部活へ向かった。体育館へ着くと智がすでに練習していた。
「誠~遅ぇよ、1ON1しようぜ」
「悪い悪い、やろうぜ」
智とは1ON1をいつもしているが、なかなか決着がつかずいつも引き分けになっている。1ON1をしていると先輩が来て、練習開始の合図がかかった。練習が始まって、ラストにはいつも試合を意識したゲームがある。チームは一軍vs二軍的な感じだ。俺と智は二軍のチームに入れてもらってゲームをしている。俺たちはプレーの相性が合っていてら素早くボールを回して撹乱させて最後は個人技ってパターンが多い。ただ問題なのが俺とマッチするのがキャプテンなのだ。そのため、なかなか思うようには動かせてもらえない。キャプテンは運動量お化けでその上フェイントにほとんど引っかかってくれない。俺は自分で言うのもなんだが、フェイントを入れるのが上手いと思う。キャプテン以外なら7割決まる。けどキャプテンだけは3割くらいしかひっかからない。キャプテンは俺の目標でもあった。だからこそ抜きたいという想いも強かった。練習後には、いつもキャプテンとシュートやドリブルなどを競っていた。けどキャプテンの正確さは他の高校を見ても群を抜いている。俺はいつかキャプテンを越えると決意した。
時が過ぎるのは早く、中間テスト1週間前になった。俺は数学が大嫌いだ。数列を見ただけで睡魔が襲ってくる。それに今日から部活もオフだ。翔も同じことで嘆いていた。
「なんで部活ないんだよ〜ストレスで禿げるわ!」
「わかる〜!とりま化学とか意味わからん!!」
「こんなん社会に出ても使わねぇだろ〜」
「これ使う仕事にはならねぇから無くならねぇかなぁ」
こんな感じでうだうだ言っていると後ろからなっちゃん(三谷さん)とその友達の栞(早坂栞)が声をかけてきた。
「誠も智もそんなにうだうだ言ってないで勉強しなよ〜」
「そうよそうよ、特に智は理系科目絶望的なんだから頑張りなさいよ!」
「誠、来年も新入生頑張ろうな」
「え、やだよ。俺は上がるに決まってるだろ」
「親友が困ってるときにそんな辛辣なこと言うなよ〜」
「あ!じゃあ今度みんなで勉強会しようよ」
「お!それいいね!集まろうぜ」
「ん〜」
「なっちゃん来ないの?」
「ん〜まぁいいか、少しくらい思い出はあってもいいよね」
「そうだそうだ。高校生なんてたった1回だけだぜ、楽しもうぜ!」
そんなこんなで明日の放課後に図書館で勉強することになった。
図書館に着くとそこには私服姿のなっちゃんがいた。普段学校でいつも一緒にいるけど初めて私服姿を見た。
「え、可愛い…」
「あ、ありがとう…」
「え!声漏れてた!?」
「漏れてたよ」
そう言われて俺は一気に熱を帯びた。そんな俺を見てなっちゃんも顔が赤くなっていた。そこに智と栞がやってきた。
「あれ、もしかしてお邪魔だった?」
と2人してニヤニヤして言ってきた。
「そ、そんなわけあるか、早く行こうぜ」
「う、うん、そだね早く行こ」
まだニヤニヤしている2人を置いて図書館へ入った。そして空いてる4人席を見つけてそこは座った。最初は雑談ばかりしていたが「よしやるか」と言う声で、プリントを広げてお互いわからない科目を教えあった。気づいた時にはもう外は日が暮れかけていた。
「もう18時か、そろそろ帰ろっか」
「そだな、帰りに近くのスタバ寄ろうぜ」
「いいね〜なんか青春っぽい!」
「だよね!こういうのなんかいいよね!今度はみんなでどこか遊び行こうよ!」
「そうだね。でもまずはテスト頑張らないとだね!」
「あぁ〜テストの日に嵐とか来ねぇかなぁ〜」
そう言うとみんな笑ってくれた。
そしてとうとうテスト期間がやってきた。俺たちはあの日の勉強会のおかげでなんとかみんなできた。問題の翔は今回自信ある!とか言っていた。そして今日から部活まで解禁だ。
「よっしぁ〜!今日から鈍った体やっと動かせる〜」
と颯爽と教室を出て行った。
「ありがと、2人のおかげで俺もあいつも助かったよ」
「いえいえ、お役に立てて光栄です。それに私も助かった」
「私も〜。ありがと」
「んじゃ部活行ってくるわ」
「頑張ってね!」
「いってらっしゃい」
2人に手を振って部活へ向かった。更衣室に着くと智がいた。
「お〜お疲れ!テストどうだった?てかそれより今日からやっとバスケできるわ」
「まぁまぁかな。智は?」
「俺もまぁまぁかな。体育館まで競走しようぜ」
「負けたらパン奢りな!」
「乗った!」
俺たちはダッシュで向かった。お互いほぼ同時だった。
「わからん!フリースローで決着付けようぜ!」
「負けても文句言うなよ」
「そっちこそ!」
なかなか勝負が決まらなかったが、俺が勝った。練習後に約束通りパンを奢ってもらった。携帯を開くと、俺と翔となっちゃんと栞の4人グループに翔が「今度の休みにカラオケ行こうぜ」と通知が来ていた。俺は「みんなに任せる」と返事を返してパンを食べながら家へ帰った。すると通知音が鳴って携帯を開くと、栞が「その前に甘いもの食べに行こうよ!」と言っていた。そしてなっちゃんも「それならスイパラ行こうよ」と言っていた。「甘いの俺も好きだからいーよ」と打って翔の返事を待った。少しすると翔が「俺もいーよ!あーいうとこ男子だけじゃ行きづらいとこだし。今週の日曜とかどう?」と来ていた。俺は「大丈夫」と返して携帯を閉じた。
次の日はもうスイパラのことでみんな頭がいっぱいだった。たまたま、みんな甘いものが好きだったためこの話はすぐに決まった。俺たちはまだ知らなかった。この決断があんなことに繋がることになるなんて…。部活に行く前に翔が「また時間決めようぜ」と言って駆けていった。俺たちはそれをきっかけに解散した。
スイパラ当日。駅にみんなで待ち合わせをしてスイパラがある駅まで向かった。スイパラへ着き、中へ入ると案の定、女子女子か男女のパターンしかいなかった。俺も翔も少し緊張していた。けどおいしそうなケーキを前に緊張よりも早く食べたいになった。俺はお皿にたくさん盛って席に戻った。俺たちは楽しく話をしていた。翔はここのケーキ全部制覇してやると息巻いていた。俺が次を取りに行こうとすると何やら視線を感じた。そちらを見るとこっちを見ているグループがあった。そして俺が気付いたことに気付いたのか、こっちへ向かってきた。
「久々じゃん。こんなところで会うなんて何かの縁ね三谷」
何しに来たのかと思えばなっちゃんの知り合いだったらしい。
「中学の友達?」
「うん…」
なっちゃんは下を向きながら頷いた。
「なに?シカト?まだあの事根に持ってるのね。もう過去のことじゃない、昔みたいに仲良くしましょうよ。私たち親友でしょ」
「ごめん。今、三谷さんは俺たちと遊んでるから今日はこっちに来ないでくれるかな」
なっちゃんの様子が変だったので俺はその子たちに気が付いたら言っていた。その女子はぶつぶつ言いながら帰っていった。
「大丈夫?なにかあったように思うけど」
「う、うん。ちょっと食べすぎたみたい。急に胃もたれかな。ごめんね」
たぶん何か隠していると思うけど、それ以上は詮索しないことにした。二人も俺の判断を読み取ってくれた。
「よし!俺も少し食べすぎたし今日はここらへんでお開きにしよっか。また今度カラオケに行こ」
俺は翔と栞に手を合わせて謝っておいた。
「うん、ごめんね。ありがとう」
そして俺たちは店を出た。駅まで一緒に歩いていき、最寄り駅まで着くと解散した。
次の日、なっちゃんはいつも通りの様子で学校へ来た。俺たちは安心した。昨日のことがあって、大丈夫か心配をしていたから。でもとりあえず今日は、なっちゃんを楽しませようとみんなであれこれして楽しませようとした。
「みんな今日なんか変だよ、なんていうか変に気使ってるでしょ」
図星を突かれた俺たちは反応するのが遅れた。
「私なら大丈夫だよ。昨日のことはそんなに気にしてないから」
「そうなんだ、それならよかった」
ほっと胸をなでおろした。
「今日部活オフなんだけど誠はある?」
「いや俺も今日はオフだよ」
「んならみんなで一緒に帰ろうぜ!」
「いいね~!賛成」
「なっちゃん?」
「ごめん!今日ちょっと予定があって、行かなきゃいけないところあるから」
「そうなんだ。それじゃ仕方ないな」
学校を出るまで一緒に行き、なっちゃんと別れた。俺たちは近くのクレープ屋さんに向かった。栞がクレープのクーポンを持っていて100円で食べられた。
「あざます!」
「栞あざまる」
「いえいえ、どういたしまして。なっちゃんも来れたらよかったのにね」
「そうだな、100円で食べれたのに」
クレープを食べた後、なっちゃんが思ってたより普通でよかったとみんなで話していた。
「あ!今度、黒想神社で夏祭りあるんだけどみんなで一緒に行こうぜ!」
「あーもうそんな時期か、いいね行こうぜ」
「行こ行こ、楽しみだね、なっちゃんにも後で聞いてみよ」
俺たちは夏祭りの予定を軽く立ててから帰った。帰ってからグループで夏祭りのことについてなっちゃんに聞いてみたけど、その日は返信が来なかった。だから学校で聞いてみることにした。
そして次の日、なっちゃんはチャイムギリギリにやって来た。こんなギリギリに来るなんて珍しいなと思った。HRが終わり、夏祭りのことを聞いてみた。
「なっちゃん夏祭り一緒に行こうよ」
「軽くもう予定立ててるんだ」
「ごめん。その日はちょっと家族で予定が合って」
「まじか~それは仕方ねぇか」
「なっちゃんと一緒に浴衣着る予定だったのに」
「ごめんね」
夏祭りは結局三人で行くことになった。
夏祭り当日。神社は普段と違って大賑わいだった。俺が神社の入り口で待っていると翔と栞が一緒にやって来た。
「おまたせ」
「待った?」
「いや俺もさっき来たばっかりだよ。栞浴衣似合うな」
「俺は?」
「お前も言われたいのかよ」
「あたまえよ」
「似合ってると思うぞ」
「栞~誠に褒められた~」
「うん、よかったね」
「翔ってたまに子供みたいになるよね」
「そうだな、こんな奴がサッカー部のエースとか期待されてるんだから不思議だよな」
「それ言ったら誠もバスケ部で期待されてるらしいじゃん。誠モテてるのも気づいてないでしょ」
「え!そなの!?」
「そだよ。まぁ翔も人気あるみたいだけどね」
「え!マジ!俺もモテ期?」
「こんな姿見たらイメージ崩れるかもね」
「なんでだよ、ギャップ萌えだろ」
「物は言いようだな」
「そだね」
「失敬な」
笑いあいながら神社の中に入った。金魚すくいやわたがしやスーパーボールすくいなど、祭りならではのものをたくさん楽しんだ。お腹もいっぱいになってきて、そろそろ帰ることにした。
「来年は4人でこれたらいいな」
「そうだね!」
「俺らニコイチならぬヨンコイチだもんな」
「いいこというじゃん!」
「だろ!」
「帰る前に写真撮ろうぜ!」
「名案だな。俺らあんなにいつも一緒なのに写真とか全くないもんな」
「ほんとよ」
近くにいた人に写真をお願いして、初めて写真を撮ってもらった。
「4人揃えば最高の写真だったのにね」
「そうだな!今度4人で写真撮ろうな」
「あぁ」
「んじゃ俺、栞送っていくわ」
「いいわよ、一人で大丈夫よ」
「さすがにこんな時間なんだし女子一人じゃダメだろ」
「そうだな、んじゃ栞をよろしく!また明日学校でな」
「もー。それじゃあまたね!」
「またな」
俺は二人と別れて帰った。
次の日、学校へ行くと、なっちゃんが学校を休んだことを担任から伝えられた。なにやら体調が悪いということらしかった。それを聞いた俺たちは、部活終わりにお見舞いに行くことにした。帰宅部の栞は部活が終わる時間に合流することになった。そしてみんな部活が終わってお見舞いに行く時間になり、校門前は出ると栞もちょうど来て、なっちゃんの家に向かった。インターホンを押すとお母さんが出てきた。
「なっちゃんが体調が悪いって聞いてお見舞いに来たんですけど調子どうですか?」
「朝から部屋出てこないのよねぇ~。体調が悪いの一点張りで」
「そうなんですね。これもしよかったらゼリーとかポカリとか買っているので」
「わざわざごめんね。ありがたく受け取らせてもらうわ。」
「はい!それじゃあ僕たちはこれで帰りますね」
「ありがとね。これからも撫子と仲良くしてあげてね」
「はい!それじゃあ失礼しました。」
「おじゃましました」
なっちゃんがなるべく早く治ることを祈ってここで解散した。
次の日なっちゃんは学校へ来たが、なにかいつもよりも顔色が悪いように感じた俺は、あったかい飲み物を買って渡した。
「まだ体調良くないならあんまり無理はするなよ。俺らができることならしてやるから。」
「ありがとう…。何かあったらお願いするね」
「おぅ!」
放課後になり、「なにかあったら連絡くれ」と伝え、俺と翔は部活に向かった。部活に行っても俺はなっちゃんのことを考えていてしまっていて、バスケにあんまり集中することができなかった。あのメンツがたぶん何かあると気が気じゃないんだろなと思うと同時に、いい友達に出会ったなと思った。
「誠なんかあったのか?なんかいつものプレーじゃない気するぞ」
「ま、まぁちょっとな」
「そうなのか。ボーっとして怪我とかするなよ」
「サンキュ」
智に言われてやはりいつものプレーができていないのかと改めて自覚した。そして最後まであまり集中できないまま部活が終わった。着替えて歩いていると翔にあった。翔も部活にあまり集中できていなかったらしい。
「なんか今日のなっちゃんの顔を見るとやっぱり心配だよな」
「そうだよな。早く良くなるといいんだけどな」
学校を出て解散して家へ向かった。帰り道にスイパラで出会ったなっちゃんの中学の友達に出会った。
「あ、撫子の彼氏さん?」
「違ぇけどなんか最近なっちゃんの体調がよくないんだけどなんか知ってたりする?」
「いや知らないけど」
「そっか。それならいいや。ありがとう」
俺はそれ以上会話がなく気まずさもあり、別れを告げて走って帰った。
なっちゃんが休んだ日からもう結構経っているのに、俺にはなっちゃんの顔色があまりよくない気がしていた。普段は前までと変わらない感じに見えるけど、俺にはなんとなく顔色が曇っているように見えていた。これが気のせいではないことに気付いた時にはもう手遅れだった。そう気づいた時にはすでになっちゃんは学校を休みがちになっていた。俺たちの前では、どんなに苦しい状況でも俺たちに心配をかけさせまいと笑顔を作っていたのだ。遊びに誘っても全然来なくなり始めたときに、気付くべきだった。なっちゃんは中学の友達にいじめられていた。そして生きることが苦しくなって車の前に飛び出して死のうとしたらしい。なっちゃんのお母さんから連絡をもらい、俺たちは学校を飛び出してすぐに病院へ向かった。病室へ着くと、そこには眠っているなっちゃんの姿があった。俺たちは何もできなかった。気づくことができなかった。力になれなかった。自分に対しての苛立ちと悔しさ、そしてなによりここまで無理をさせてしまった申し訳なさで、目からはたくさんの涙がこぼれた。
「撫子さんをここまでなるまで気づけなくてごめんなさい。何もできなくてごめんなさい」
ごめんなさいとみんなそれぞれに両親へ謝った。
「あの子は家でも辛そうな顔は出さなかったのよ。誰にも心配かけまいと頑張って来たんだと思う。だから謝らないで。私たち親が気付くべきだったのよ」
俺たちは両親に頭を下げて病室を出ると、病室の前のソファーで目を覚ますのを祈っていた。数時間後、病室が騒がしくなりお医者さんも病室へと入っていった。数分後お母さんが出てきた。
「撫子が目を覚ました。中に入って話してあげて」
「本当ですか!失礼します」
両親は俺たちが入ると外へ出て行った。
「なっちゃん大丈夫なのか?」
「平気か?」
「なっちゃん心配したよ~」
「う、うん。ごめんね。心配させたよね」
「そんなことで謝るなよ。心配をかけたくらいで俺たちに迷惑がかかるなんて思わないでくれ」
「それより無理していることに気づけなかった俺たちのほうがごめん」
「なっちゃんほんとにごめん」
「悪い」
「いいよ、気にしないで。私が勝手に我慢してたことなんだから」
「それでもごめん」
「俺たちがこれからに毎日今まで以上に楽しませるから生きてほしい」
「俺も生きてほしい」
俺は何も言わなかった。
「また今度みんなでお見舞いに来るよ」
俺はそういうとみんなを連れて病室を出て、話が終わるまで待ってくれていた両親に深々と頭を下げて病院を出た。俺はイライラしていたため、みんなとそのあとすぐに別れて家の近くの公園に来ていた。あの時どうして気づいてやれなかった。あの時どうしてもっとなっちゃんに寄り添ってあげなかった。どうしてどうしてと、過去の自分に対する後悔と苛立ちは増していく。あの時の自分はなっちゃんに対してどんな言葉をかけるべきだったのか。ふと空を見ると、もう空には星が空を埋め尽くしていた。公園に来てからもうかなり時間が経っていた。俺は家に歩き出した。するとなっちゃんの中学の友達がいた。俺は走って声をかけた。
「お前があいつになにかしたのか!?」
「なにもしてないし。ただ少しからかってただけだから」
「お前のそのせいであいつがどれだけ悩み苦しんだかわからねぇだろ。あいつ死のうとしたんだぞ!もうあいつに二度と関わんな!!」
彼女は唇をかみしめてばつが悪そうに帰っていった。彼女が帰った後、俺はなっちゃんが死のうとしたことを口にしてしまったことを後悔した。勝手に言ってよかったものなのかと。そして彼女に対して八つ当たりしてしまったことも悪いと思った。「ほんと俺ってどうしようもねぇ奴だな」そう独り言を口にして家に着いた。
俺は毎日病院へ通った。病室へはなかなか入れなかった。どんな言葉をかけていいかわからなかったから。病室の中からたまに「猫みたいに、死ぬ前にさっと姿を消して消えられたらどんなに楽なのかなぁ」と聞こえるときがあった。なっちゃんの心の傷はとても深いものだとはわかりつつ、それを癒すためにはどうすればいいかといつも悩んだ。今日ここへ来る前に彼女がまた俺の前に姿を出してきた。
「本当にごめんなさい!撫子に直接謝らないといけないと思うんです。だから病院を教えてもらえませんか」
彼女は本当に悪いと思っているのか深々と俺に頭を下げてお願いしてきた。
「悪いけど前にも言ったけど三谷さんには会わないでほしい。君に会いたいと思っていないと思うし、なにより君がしてきたことは許されることでは到底ない」
「はい…そのことはわかっています。もし許されなくても今まで本当に申し訳ないことをしてきたと謝りたいだけなんです」
「それは自分がその罪から少しでも楽になりたいだけなんじゃない?」
「そうかもしれません…でも顔を合わせられなくても、扉越しに謝罪だけでもしたいです。謝りたいという言葉に嘘はありません」
「わかった。これから病院に行く予定だったから一緒にならいいよ。けど三谷さんが謝罪をさせてくれるか、許してくれるかなんてわからないよ」
「はい、わかりました」
俺と彼女は一緒に病院へ向かった。病室へ入る前に深呼吸をしてから入った。俺も正直ここに入るのは勇気がいる。
「失礼しまーす。なっちゃん起きてる?」
「わ~来てくれたんだ!ありがとう!」
俺は少したわいもない話をした。翔と栞がどうとか最近学校で起きてることとか。
「ちょっといいかな」
「なになにそんなに改まって」
「なっちゃんに謝りたいって人が来てるんだけどいいかな。扉越しにでも話がしたいって言ってるんだけど」
なっちゃんの顔がこわばったが、中に入って話をすることをOKしてくれた。
「ごめんね、ありがとう」
なっちゃんにお礼を言い、扉のほうへ向かい、扉の前にいる彼女に中に入るように促した。彼女は驚いていたが中に入った。
「俺ちょっと飲み物買ってくるわ」
俺がいないほうが深い話がしやすいと思って俺は席を外した。病院のバルコニーに出て時間を潰していた。そしてそろそろかなと思い、飲み物を買って病室へ戻った。病室に戻るとさっきまでの張りつめている雰囲気はなくなっていた。
「話は終わった?」
「うん。優菜を連れてきてくれてありがとうね。まだ優菜を完全に許すことはできないけど、でも謝ってもらって嬉しかった」
「神流崎さんもありがとう。連れて来てくれたおかげで、撫子に謝ることができた」
「それはよかった」
「それじゃあ私は二人の邪魔しないうちに帰るね」
「え、あ、うん。わかった」
「あーわかった。バイバイ」
優菜ちゃんは帰っていった。
「優菜ちゃんって名前なんだな」
「下の名前で呼び合うほどの関係だったんだな」
「ん~まぁそうだね」
なにかあるみたいだが話したくなるまで待つことにした。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おっけー」
俺はもう安心だと思いほっとしていた。トイレから戻ってくると中から声がした。耳を澄ませてみると「優菜が謝ってくれたのにまだ生きることがしんどいって思うなんて、どれだけ器の小さい人間なんだろう」俺はその言葉を聞いて唇をかみしめた。とりあえず病室に戻った。
「どうしたの?なんか顔色良くないけど」
「いやいやちょっとトイレこんでて漏れそうで危なかったなって思ってさ」
俺はとっさに嘘をついた。そしてまた学校の話をして帰ることにした。
次の日、翔と栞に優菜ちゃんがなっちゃんに会って解決したことを伝えた。二人はほっとしていて、そんな二人にまだなっちゃんが死にたいって思っているかもしれないなんて言えなかった。だから俺は一人でなっちゃんに会いに行くことにした。部活が終わって今日も病院へ向かった。今日は病室へ入る予定だったため、途中コンビニに寄ってお土産を買いに行くことにした。病室に入るとなっちゃんが寝ていた。俺はどうしようかなと思ったが、直接言うことはできそうにないことをこの機会に言おうと思った。俺はベッドの横にある椅子に座って、眠っているなっちゃんの横顔を見て話し始めた。
「あのね「死にたい」っていう君に本音を言うと、生きていて欲しいんだぁ。でも、「生きていて」なんて残酷な言葉を今が精一杯の君に言うことなんかできなくて。だからね、いいよ。「君が幸せになれる方」を選んでよ。「死んでもいい」「逃げてもいいよ」でもさぁ、俺達…本当に、幸せになれないのかなぁ。「君」が居なくなる事に対してこんなに、心がギュッとなるのはなんでかなぁ…。君が生きてるのに「理由」は無い。でもね。「意味」はあったよ、…ちゃんとあったよ。だってね、俺は君が生きていてくれて、こんなに嬉しいから。だから、最後にこれだけ。産まれてきてくれてありがとう。出来ることなら生きて、君と幸せになりたいな。これはきっと独り善がり、でも口から出てしまう「生きていて」そこに君を責める気持ちなんて微塵もないんだよ。追い詰めてなんかいない、だから君が決めていいんだよ。「君が幸せならそれでいいよ」」
それだけ言うと俺は病室を出た。「ずっと生きていてほしいな…」そう呟いていた。俺は病院を出て、家に帰った。
次の日も病院へ向かった。今日は祝日で学校がなかったが、午後から部活があったから午前中行くことにした。病室へ入ると、俺を見て驚いたような顔をして布団へこもった。
「え、今大丈夫?また今度来ようか?」
「大丈夫。けど今はこのまま話させて」
「わかった。体調はどう」
「少しずつ戻って来てるよ。昨日ありがとね…」
「え!あ、あのお土産のこと?」
「それもだけど誠にに生きていて欲しいって言われて嬉しかった。もしよかったら話聞いてくれる?」
「わかった」
「私ね、中学の頃優菜と親友だったんだよ。いつも学校で一緒にいて行動してたんだ。中二の頃に初めて彼氏ができたんだけど、彼のことが優菜は昔から好きだったらしくて、私と付き合ったことが優菜の中ではとても嫌だったんだと思うの。始めは小さないたずら程度だったんだけど、それがどんどんエスカレートして陰湿ないじめになったの。陰で私が優菜にひどいことをしているみたいな噂を流されててその噂が広まって、彼は私のことを軽蔑するようになって、優菜が彼に言い寄ったらしいの。そして私は彼氏を取られて親友も失い、学校にも居づらくなった。だから中三の頃はあんまり学校に行ってないの。行けても保健室で教室に入るのが怖かった。そして優菜と同じ高校に行きたくなくてこの高校にしたの。そして中学の頃のことがトラウマになっていて。だから高校になって友達ができてもあんまり思い出を作りたくなかったの。思い出があればあるほど、裏切られた時の痛みや大きくなると思って。だから誠や翔や栞に遊びに誘われたときは嬉しかったけど行かなかったりしたんだ。ごめんね…。けど少しずつこの三人ならって思ってきていたときに優菜と再会して、やっぱり私は一人がお似合いなのかもって勝手に思っちゃって。あのスイパラで再開した日から優菜とまたいろいろあって生きるのがもう嫌になっちゃったけど、誠たちには迷惑をかけたくなくて誠たちの前だけでも普通で居ようって気を張ってたの。けどここから解放されたくて死んだら楽になれるかもなって思ってたんだ。病院でもそんなことを思ってて優菜が謝ってくれたけどやっぱりどこか過去をひずっている自分がいたの。けど昨日、誠の本音を聞いて私は誰かの役に立っているんだって思ったの。私が生きている理由はなくても意味はあるんだって教えてもらって、それなら最後にもう一度誰かを信じてみるのもありなんじゃないかってそう思えたの。寝たふりしててごめんね」
「話してくれてありがとう。優菜ちゃんのことはなっちゃんの中で区切りがついてるなら俺からは何も言わない。俺から言えるのは俺たちを信じることにしてくれてありがとう!「生きる」って道を選んでくれてありがとう!」
そう口にする俺の目からは涙がこぼれていた。
「もーなに泣いてるのよ。私まで泣けてきたじゃん!」
「なんでだろ、でも嬉しい」
「ありがと!」
俺たちは抱き合ってお互い気が済むまで泣いた。
「私頑張るね」
「頑張るのもいいけど、俺たち四人で手を差し伸べあっていこうな!」
「うん!!」
「んじゃ俺部活行ってくるわ」
「頑張ってね!」
俺が立とうとするとなっちゃんに手を引っ張られキスされた。顔が真っ赤になる俺に対してなっちゃんは手を振っていた。俺も手を振って病室を出た。ほんわか唇に残る感触を残しながら学校へ向かった。学校についても頭の中はまだまだ混乱していてなかんか整理できなかった。けどもう逆にバスケに集中して、いったん頭をクリアにしようと思った。部活が始まり練習が始まった。
「なにかあったか?何か吹っ切れた顔してるけど」
「あ、キャプテン。はい!なんかもう吹っ切れましたかね」
「よかった。お前は俺らの新戦力なんだから頼むぞ!」
「はい!」
ラストの試合では俺と智の連携でチームはフル稼働して一軍を一点差まで追い詰めた。
「お前たちはいいコンビになるよ」
「はい!智とバンバン点取りますよ!」
「キャプテンと副キャプにも負けないくらいのコンビ目指してるんで!」
キャプテンは俺たちに期待してくれている。その期待に俺は応えたいと感じた。部活が終わって智と別れた後、携帯を開くとなっちゃんがグループにメッセージを送っていた。謝罪と明日話がある。と書いていた。たぶん俺に話してくれたことをみんなにも話すんだろうと思った。
俺たちは神社に集まった。俺たちが集まって少し無言が続いたがみんな、なっちゃんが話し始めるタイミングを待った。そして俺に伝えてくれたことをみんなに伝えた。
「なんていったらいいかわからないんだけど、だけどなっちゃんが生きることを選んでくれて嬉しい」
「優菜ちゃんって子のこと俺なら絶対許せない気がする。そんなことをした優菜ちゃんのことを、少しでも許すことができたなっちゃんは本当にすごいと思う。器が小さいなんて思う必要はないし、むしろ器は大きいと俺は思う。そんで俺も生きることを選んでくれてほんと嬉しいよ」
「お前ら泣くなよ」
「泣いてねーよ」
「だって~」
「おいおいなっちゃんも泣くなよ」
「嬉しくて」
みんなが泣き始めて俺は黙ってみんなが泣き止むのを待った。
「てか誠は驚かないのかよ」
「そうよ。もしかして先に話を聞いてたの?」
「ま、まぁな。っていっても昨日なんだけどな」
「そうなのか」
なっちゃんも落ち着き、気晴らしにみんなでクレープを食べに行くことになった。
「今日からは思い出いっぱい作るぞ!俺たちは絶対離れねぇから」
「そうだよ!私たちはヨンコイチなんだから」
「あぁそうだな。記念に写真撮ろうぜ!」
「うん!みんなありがと!みんなと出会えてほんとによかった。うん、撮ろ」
「これが俺たち初の4人揃った写真だな!これからもいっぱい撮ろうぜ!」
「うん!そだね、ありがとう!」
「おぅ!それじゃクレープ食べに行くか」
「うん!」
俺たちはこれまで以上に絆が深くなった気がした。
次の日からは学校にも毎日来るようになり、笑顔も戻った。学校でも遊びに行くときも俺たちはいつも一緒だった。それは高校を卒業して道がバラバラになった今でも俺たちは変わらない。けどあの時とは違うことが二つある。それは神流崎撫子、神谷栞になったことだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。まだまだ言葉のチョイスが惜しいという部分もあると思うのでこうした方がいいよなどの感想やコメントいただけると嬉しいです。
改めて最後に読んでいただきありがとうございました。