センター
ふられる男の後悔をだらだらと書いているだけの話なのに、読んでもらえて本当にありがたいです。
前の話でも書いたように、俺が中国から帰ってきて、かなとまた会うようになってから、お互いの休みががっつり合うってことはあまりなかったから、週末に旅行に出かけたりとかは難しかったけど、なんだかんだで勤務の合間とかに時間を作って会えていたから、頻度として考えるとけっこう高かったと思う。ちょこちょこと時間を合わせては、お互いの出来事を話したり、一緒にご飯を食べたり、ちょっとしたところに出かけたりすることはすごく楽しかったし、何も不満はなかった。俺はかなに会えるのをいつも楽しみにしていたし、かなも多分、同じように、俺に会うのを楽しみにしてくれていたと思う。
こんな関係はだいたい1年と数ヶ月くらい続いて、変化が起きたのは、秋の気配が感じられるようになってきた頃だったと思う。俺は、休みの日に会社の用事を入れなきゃいけない事態に陥っていて、かなに会えるときが減っていた。会社の用事っていっても、仕事じゃない。忘年会の余興の練習だ。
披露するのは、あるアイドルグループの曲。そのグループはものすごく大所帯のグループで毎年人気投票をしていて、その順位によって、CDの収録に参加できる人や、テレビに出れる人が決まるらしい。俺に言わせれば、そもそものグループのメンバーそのものをテレビに映る人数におさえろよってところなんだけど。ああ、言いたいところはそこじゃなくて。その年の忘年会でこのグループの曲を披露するってことが決まって、なんと、俺が真ん中で歌って踊らなきゃいけなくなったんだよね・・・。
その真ん中で踊って歌う子のことはセンターって呼ばれてるらしいんだけど、なんで俺がそのセンターに選ばれたかというと、この年の人気投票で一位になった子が、俺と一文字違いだから。そんな理由でいきなり抜擢しないでほしいと思ったし、正直めんどくさいと思ったけど、一緒に余興に出るメンバーには趣味でダンスをやってる先輩や、このグループがガチで好きな後輩もいるから、そういうやつらの本気で練習をするって雰囲気に飲まれて真剣に練習し出すと、これが意外と面白い。もともと運動は嫌いじゃないし、あと、俺はわりと身長が高いから、手足が長くて映えるとおだてられたのもある。それで、夜勤明けのテンションでそのままカラオケに行ってみんなで練習したりとかで、かなに会う日が少なくなっていった。あ、少なくなったっていっても、全然会わないわけじゃないよ。ただ、会う頻度は確実に低くなっていたと思う。もちろん、休みの日なのになかなか予定を空けられない理由は伝えたし、内心どうなのかは分からないけど、かなからも、応援するメッセージが度々届いていた。
結局、落ち着いてかなと会えたのは、年末年始の休みに入ってから。普段は交代勤務で24時間工場は稼働しているといっても、さすがにこの期間は休みになる。かなも俺も実家に帰っていたけど、どちらの実家も今住んでいるところの隣の県で、車でだいたい30~40分くらいしか離れていない。
だから、地元で有名な神社への初詣に誘って、そのあと二人でのんびり過ごしていた。どこで?って尋ねられると困るから察してほしいんだけど、久しぶりにゆっくり会えるってなると、まあ、そうなるよね。
久しぶりにゆっくりかなを堪能してから、俺は、かなに忘年会での動画を見せていた。声も男だから野太いし、衣装も通販で見つけた安っぽいぺらぺらなものだったけど、ダンスと歌詞は完璧にコピーしたから、出来映えについては正直けっこう自信があった。実際、忘年会でもかなりうけてたしね。
ただ、自信があったとは言っても、さすがに反応が気になる。曲が終わってなんて言ってくれるんだろうと、若干緊張しながら反応を待ってたんだけど、まさかのリピート再生をされた。いやいやさすがにリピートは恥ずかしいでしょと思って、途中でスマホを取り上げたら、拗ねたように口をとがらせて、もっと見たいと言ってくれた。なんか、いつもは俺がかなの演奏を聴くんだけど、逆に俺が何かしているのを見るのは新鮮だったらしい。あと、普通に完璧でかっこよかったと言ってもらえた。かなり照れくさいけど嬉しい。
また見たいと言うかなを止めるために、苦肉の策で、かなにも振り付けを教えることにした。さすがに全部は無理だから、サビのところだけ。かなはピアノは弾けるのに、運動は苦手なのか、振り付けはちっとも覚えられないし、ダンスも正直下手だったけど、一生懸命に覚えようとするかなはめちゃくちゃかわいかった。本当はもっと詳しく書きたいんだけど、歌詞とか詳しい振り付けにも触れちゃうし、そうすると著作権とか引っかかりそうだからやめとく。
結局小一時間かかってなんとかサビ部分の振り付けを覚えたかなは、部屋にあるカラオケを流して、歌いながら踊ってくれた。それまで俺は、かながピアノを弾くのは聴いたことはあったけど、歌ってるのを聴いたことはなかった。初めて聴くかなの歌声は普段話す落ち着いた声よりも少し高めで、下手な振り付けと相まってとにかくかわいかった。
歌い終わったかなは、あー楽しかったと笑っていた。
弾む息を整えてしばらくしてから、じっと俺を見る。
「ねえ、優君。全然違う話をしたいんだけど。・・・いいかな?」
あ、なんか、雰囲気違う。とっさにそう思って身構えてしまったところに、部屋の内線電話が鳴る。受話器を取るとホテルのフロントからで、もうすぐ部屋の終了時間になるとのことだった。
「あのさ、今、年末年始だからフリータイムじゃないし、延長料金払えばまだここにいれるらしいけど、その、延長料金も普段より高めらしいから・・・その・・・」
そう俺が言うと、かなは、あっさり、部屋を出ようと言ってくれた。
ホテルを出てから、どこか別のところを探そうと、地元で俺が知っている喫茶店に寄ってみたんだけど、年始だからか営業していないようだった。だったらと、絶対営業しているだろうファミレスをのぞいてみたんだけど、他に営業しているところがないからかすごく混んでいて、駐車場にも入れないありさまだった。
そこで、「たいした話じゃないし、また今度にするね」とかなが言ってくれたから、その日はかなを実家の近くまで送って解散となってしまったけど、次に会ったときも、その次に会ったときも、かなからその『別の話』をされることもなく、かといって俺から尋ねることもなかった。
あのとき俺は嘘をついた。延長料金がかかるから部屋を出たかったわけじゃない。さすがに何十時間も延長とかになったら懐に響くかもしれないけど、話をするくらいの延長料金なんてどうってことない。ただ、かなの言う『全然別の話』をすることに、一瞬、躊躇してしまっただけだ。
あのとき、ちゃんと聞いておけばよかった。
あのときかなが何を話したかったのか、結局今も分からないままだ。




