けっこう好きな曲
ひたすらに走ってギャラリー会館に飛び込む。はあはあと肩で息をする俺に、受付のお姉さんからの怪しむ視線が突き刺さる。もしかしたら、心配してくれてただけかもしれないけど。
「あの、す...いませっ。今日の、演奏...って、遅れても...、てか、今っからでも、入れっますか?」必死で声を出す。
「あの、そんなにお急ぎにならなくても、入退場自由の無料コンサートですし、いつも、最初は当施設の案内がございますから、演奏はまだ始まっておりませんよ。ちょうどいい時間ですから、少し落ち着かれましたら、奥のホールにお入りくださいませ」
その答えに安心して、息を整えてから、色とりどりの食器や壺などが陳列されたギャラリーを足早に通り抜ける。その奥に、予想していたより小さなスペースがあって、奥のステージに司会らしい女性が一人立っている。「それでは、よろしくお願いします」と言い、ステージを下りていく。どうやら本当にぎりぎり間に合ったらしい。席はほとんど埋まっていて、通路に面した席はどこも空いていない。仕方がないかと後ろの壁に背を預けて立ち、腕を組む。
テッテッテッテッ、テッテッテッテッ、軽快な四拍子が始まり、それに合わせて、お約束だったかのように客が手拍子をする。この音...どこかで聞いたことがあるなと考えていると、ステージ横のドアが開き、大きいサイズから順に小さなサイズとなるリコーダーを吹いた4人組が行進しながら入ってくる。あの子は、前から2番目で、わりと大きめのリコーダー吹いてる。うわ、あんな小さな手で、どうやって穴ふさいでんだろ。自然と目で追っていると、ステージの真ん中で正面を向いた4人は、せーのとでも言うようにそろって身体を傾けて、それから曲が始まった。
テレッテレテテッレレ、テレッテレテテッレ、テレッテレテテッレレテレーレ
あれ?これ、あれじゃん、ピタ◯ラスイッチ!俺けっこう好きなんだよね。放送する時間は決まってるから、タイミングが合うときは、つい、見ちゃう。ていうか、めっちゃうまくね?特に、一番端っこでメロディー吹いてる女の人。リコーダーってあのリコーダーだよね、音楽の授業で使った。似てるだけの、違う本格的な楽器なんかな。
楽しい、なんで俺腕組んでんだろ。入場であの子をひたすら目で追っていた結果、手拍子に入りそびれた俺は、多分、後ろで立って不機嫌そうに腕を組む嫌な客になってたと思う。
最後のピ◯ゴラスイッチ!では、前のほうに座ってたちびっこちの元気なかけ声も加わり、すごく盛り上がってコンサートは始まった。
拍手がなってるうちに、気をつかってくれた人たちが、席をひとつずつ詰めてくれて、俺は、後ろのほうの通路側の席に座ることが出来た。