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久しぶりの会話

 『♪~』

「・・・ん?」

懐かしい着メロの音がする。あ、着メロってもうわからない人もいるかもしれないけど、当時の携帯電話は電子音をいくつか組み合わせた着メロや楽曲のサビだけが抜き出された着うたっていうのを着信音として設定できて、好きな曲をDLしたり、自分で作ったりしてた。俺はそういう細々設定するのが苦手だから、買ったままの設定だったんだけど、唯一、違うのは、かなの着信音。かなの部屋に泊まったとき、かなが設定してくれた。なんとかって曲で、かなが弾いてくれたことのある曲。曲の名前は全然覚えられなかったんだけど、この着メロが鳴ると、かなが楽しそうに演奏してたのを思い出す。


 あれ?なんで、かなの着メロが鳴ってるんだ?

 携帯はいちおう海外でも使用できる設定にはしてきたけど、なんか知らないけどすげー高くつくらしいから、ずっと電源切ってあって、だから鳴るはずないのに・・・


 そこまで考えてはっとした。そうだ、俺、昨日の夜帰ってきたんだった。久しぶりに日本に帰ってきて、空港に迎えに来てくれた同期が他の同期にも声かけてくれたおかげで、久しぶりにみんなで飲みに行って、久しぶりに気の置けない連中と話せたのが嬉しくて、何時に家に帰ってきたかの記憶がない。

 そうだ、空港に着いて携帯の電源入れて、かなからのメール読んで、それで、声が聞きたくなって自分から電話かけたくせに、話の途中で電話切ったんだった。そのまま同期と飲みに行って、それで・・・

 慌てて携帯の着信ボタンを押す。

「もしもしっ、かな!」

勢い込んで電話に出たが、返事がない。しばらく待ってみたが、無言。

 ・・・あれ?今、俺、着信ボタン押したよな?あれ?


 恐る恐る耳から電話を話して画面を見るが、ちゃんと通話中。相手はかな。


 ・・・もしかして、怒ってる?いや、もしかしなくても怒ってるよな・・・。


「あの・・・かな・・・?あの、昨日は、ごめん。こっちから電話かけたのに中途半端に切って。怒ってる・・・よな?ごめん。あの、ほんとに」

ごめん、と続けようとしたとき、受話器の向こうですすり泣くような声が聞こえて、思わず、耳をすませる。

 かなが、泣いてる。

 俺、かなを泣かせた。

 謝ろうと思ったけど、なんて言っていいのか、わからなくて、言葉を続けられなかった。


 しばらくかなのすすり泣く声をずっと聞いてたが、それに鼻水をすするような音が混じってきて、泣き声が少し落ち着いてきたと思ったときに、「・・・だぁ」と小さな小さな声が聞こえた。鼻声だから普段と少し違うけど、間違いなく、かなの声。


「・・・ん?何?」

 せっかくかなが話してくれたのに、ちゃんと聞き取れなくて、聞き返す。

「優君だ、って言ったの。電話、つながった。久しぶりに声聞けた」

少し鼻をすすりながらも、嬉しそうな声。

「うん。全然連絡してなくてごめん。昨日の夜、帰ってきたんだ。昨日はちょうど空港に着いたところで」

「そうだったんだ」

「久しぶりにかなのメール見て、なんか、すげー話したくてたまらなくて」

「うん」

「でも、出張帰りってことで、まだ、出張終わってなかったから、会社の人と話さないといけなかったらしくて」

「うん」

「空港に迎えに来てくれた会社の人っていうのがたまたま俺の同期で。それで、なんか、せっかくだからって他の同期も誘ってみんなで久しぶりに会ったら飲みになっちゃって」

「うん」

「・・・で、久しぶりに飲んだらいつ帰ってきたか覚えてなくて。今のかなの電話で起きた」

「・・・うん」

かなの相づちに一瞬間があった気がする。

「あの・・・ごめん。昨日、かけ直さなくて」

「・・・待ってたのに」

「・・・だよな。ごめんな。本当、ごめん」

「朝、かけていいのかなって悩んだけど。今日まだ金曜日だから会社あるだろうし。

 迷惑かなって思ったんだけど、でも、やっぱり気になっちゃって。

それで、かけちゃいました」

「・・・本当、ごめん」

「いいよ。久しぶりに声聞けたし。・・・おかえりなさい」

「ただいま」


あー、やっぱりかなはかわいい。電話でもかわいい。

 出来るなら今すぐ会いに行きたい。でも、さっきもかなが言ったように、今日は金曜日だった。会社に行かないと。ベッドのそばにおいた目覚まし時計を見ると、あまり時間がないようだ。

「ごめん、かな。ちゃんと話したいんだけど、もう時間がない。会社に行かんとダメな時間になってる」

「そっか、私こそ朝早くにごめんなさい。お仕事、頑張ってね」


やばい、切られそうな感じだ。今ここで次の連絡をつけておかないと!


「あ、待って。かな、今日、金曜日だから店でバイト?終わってから会えない?」


慌てて声をかける。


「うん。今日はお店でピアノ弾くよ。でも、土曜日も演奏があるから、あんまり遅くに会うのは・・・」

かなが困ったような声で言う。すごく残念だったけど、しょうがない。予定が空いてる日を教えてもらうように頼んで、電話を切って、あわてて準備して会社に向かった。

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