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帰ってきた空港にて

久々の帰国。空港に着いたのは夜だったから、会社には寄らずに直帰することにした。

俺が住んでいるところは、今は海沿いに国際空港があるんだけど、当時はそこはまだ出来てなかったから、普通に陸地というか、住宅街の近くにあった。俺が勤めてる工場も空港の割と近くにあったから、同期に連絡すれば誰かは来てくれるだろうし、もし誰も捕まらなくてもタクシーで帰ればいいやと思ってた。


空港に着いてから久しぶりに携帯の電源を入れる。中国にいたのはだいたい3か月弱くらい。メールや着信なんかめちゃくちゃたまってんじゃねーかなとセンター問い合わせをしたが、悲しいかな、そんなにたまってなかった。


メールのほとんどはメルマガ。実家の親も、地元の連れも、盆正月以外は帰らないのを知ってるからか、基本連絡無し。海の友達からは、「最近ショップで会わないけど元気?」とかのご機嫌伺いがちらほら。


一番多いのはかなだった。海外で電話やメール受けるように設定変更すると、めちゃくちゃ金かかるから、携帯はつながらないようにするって伝えてあったからか、そんなにしょっちゅう連絡が来てるわけじゃなかったけど。


それでも、1週間に1回くらいは、かなから連絡が入ってた。学校のことや演奏のこととか自分のことが書いてあって、「お仕事頑張ってね」で締められてた。なんか日記帳みてーだなと思ったけど、なんか、無性にかなに会いたくなって、その場で電話した。


数回の呼び出し音の後、かなは出てくれた。

「もしもしっ。優君!」

勢いのよさに驚きつつも、懐かしい声に顔が緩む。

「おー、久しぶり。」

3か月連絡取ってなかったことなんて何でもなかったかのように返事をしてみると、沈黙が流れた。

「…かな?」

呼び掛けても何も返ってこない。

もしかして忙しいときにかけてしまったかと心配するが、今日は金曜日でも土曜日でもないから、キャバでのバイトも、レストランでの演奏もないはずだ。

「…ごめん。今、タイミング悪かった?かけ直すわ」そう言って切ろうとすると、

「違う違う!ちょっと急だったから、びっくりしただけで!うわー切らないで!切っちゃダメだよ!」

電話の向こうで慌てた声がする。

声の感じからかなの様子が想像できて、思わず笑ってしまった。


「...えっと、中国でのお仕事、終わったの?」

無理矢理落ち着いた声に変えたのにも笑えてきたけど、それにはつっこまずに肯定の返事をした。

「そっか...お疲れ様です。お帰りなさい」

「ありがと。ただいま」


あー、やっぱりかなの声はかわいいな。すげー癒される。


「あと、メールありがとな。今ちょうど空港に着いて電源入れたばかりで、まだちゃんと読んでないんだけどさ。けっこうメールくれてたみたいで。後でちゃんと読むな」


「え、あれ、日記みたいなメールだから、なんか恥ずかしくなってきた。やっぱ読んじゃダメ!」

「そう言われると気になるな、後でしっかり、じっくり読ませてもらいます」

「やだやだ止めてよ!」


必死になってるかなをからかうのが楽しい。あー、こういう感じ、なんかいいなあと思いながら歩いていると、


「大島!」


突然声をかけられた。


声のするほうを見ると、総務の担当をしている同期で。

「...え?何でいるの?」

「いちお、総務担当だからね。出張旅費の手配や精算も仕事のうちだから」


「…優君?誰かと話してる?」

電話の向こうでかなが不思議そうな声になってる。

「うん、ちょっと会社の人だから、ごめん、また連絡するわ」


とりあえず電話を切る。


「…ごめん。電話してるの気付かなくて」

気まずそうに同期がこっちを見てくしょうがない。


なんか、今回は期間は3か月弱と長いけど、行って帰ってまでが出張扱いになるから、会社の規定に沿った行程で移動する必要があるらしい。出張の基本は勤務地出発、勤務地帰着、経済的な経路。自宅への直行直帰や、バスじゃなくてタクシーを使う場合は、事前に会社の承認がいるらしい。その話は日本を出る前に説明されたらしいけど、中国を出るまでに、俺から自宅直帰の申請なんてなかったから、多分このルールを忘いるんだろうとのことで、なんか、帰りの飛行機に合わせて伝えに来てくれてたらしい。勤務時間外なのに。わざわざ。


「まあいいや、難しい話はよく分からんし。ちょうど良かった。俺、同期の誰かに迎えに来てもらえないか頼むつもりだったんだ。送ってってくれん?」


ちょうど良かったと頼むと、同期は、だから行程から外れると何かあったときに労災おりないし、いろいろ問題が...とかブツブツ言い出した。めんどくせ。


「じゃあ、もう、今、ここで出張打ち切りってことで。だったらいいだろ?プライベートってことで、送ってってくれん?」


無理矢理話を切り上げて駐車場へ向かう。


同期はまだブツブツ言ってたけど、なんだかんだで送ってくれるようだ。送ってやるんだからお茶でもおごれと言われ、流れで他の同期も読んで飲みに行くことになって、久しぶりということもあってめちゃくちゃ盛り上がってしまった。


家に着いた頃には夜遅くて、かなに連絡せずそのまま寝てしまった。

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