表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/79

引き継ぎ

工場での1か月はあっという間に過ぎて行った。中国での工場では、もともと似た製品を作っていたとはいえ、俺が日本で担当していた製品を作るのは初めて。機械や材料はあるのになんで今まで作っていなかったかというと、それは、似た製品であってもスペックが違うから。


化学品って、どんな原料が何パーセントずつ入ってるかとか、取り扱いの注意点だかが書いてある説明書があるんだけど、そこには、ざっくりとしか書いてない。例えば、Aって原料が約60パーセント、Bって原料が約40パーセント、って具合に。どうしてはっきりとした配合を書かないかというと、企業秘密っていうのももちろんあるけど、書かないじゃなくて書けないっていうのが本当のところで。その日の気温や湿度、原料の状態によって、配合の割合、投入するタイミングなんかを微妙に変えないといけない。高スペックな製品ほど、求められるレベルが高いから、こういう調整が難しい。だからこそ、きっちり作れる日本の工場で作ってたんだけど、わりと最近、まあ、数年前くらいに方針転換した。なんでかっていうと、某大手自動車会社が、中国でも高級車を作るようになったから。たいていの会社は、高くついても日本製のその製品を買ってくれるから、日本で作って海外に輸出するって形で売ってたんだけど、その某大手自動車会社は、中国の自分たちの工場の近くに進出しろと言ってきたらしい。俺が働いてる会社だけじゃない。他の原材料メーカーや、部品メーカーも、どんどん進出してるって話だ。


ワンさんとかと話してると、ちゃんと鍛えれば、中国でもちゃんとした製品作れんじゃないかなと思うんだけど、うちの会社は、現地で雇った人間を教育しようという気は今のところないらしい。だから俺はけっこう頼られて、大変だったけどめちゃくちゃやりがいを感じてた。


1か月が終わって、工場長に呼び出されたときも、迷わず、このまま続けてここで働きたいと伝えた。ただ、会社の規定で、日本からの社員は管理職社員しか海外赴任はできないらしい。他の会社だとどこからが管理職か分からないけど、うちの会社だと、係長以上だ。俺は、当然そんな役職持ちじゃない。そういや、昇格試験の結果どうなったんかな。あ、話ずれたけど、工場長の話したことに戻すと、今回俺は特例として、とりあえずのヘルプ要因として来てもらったけど、今は、他の人員が来れないか東京の本社に打診してるところらしい。


分かってたことではあるのにただのつなぎって言われてがっかりしたけど、つなぎとしてでも、しっかり仕事をしようと頑張った。


このつなぎの役目はいつ終わるのかな、と思ってたんだけど、この呼び出しから1か月後、つまり、工場に来てから2か月後、後任がやってきた。


この後任は、工場から来た奴じゃなくて、研究所から来た奴だった。原料を、高スペックに改良する研究チームにいたらしい。まあ、この製品日本で作ってたのは俺のいた工場だけで、そこで係長クラスって、病気になって日本に帰ってきちゃった先輩くらいだったから(だから今俺がヘルプに来てるんだし)、現場から人が出せないなら、研究所からってなるのは妥当な流れだよな。


ただ、奴って書いてることで伝わるかもしれないけど、この後任、すごく感じが悪い奴だった。最初挨拶したとき、すごい大学、大学院を出て、俺より少し年上なだけでもう係長なのか、すげーなって思ったけど。でも、学歴あって、実績ある研究チームにいたからいい奴なんてことはない。奴は、本当に嫌な奴だった。


まず、当然立場的には俺のほうが下なんだけど、俺から引き継ぎするって形になるのがすごい不本意らしくて、「そんなこと言われなくても分かってる」って何度も言われた。あと、ずっと研究所で研究員としてやってきたのに、工場で、生産の仕事をやるのが不本意なのか、「なんで俺が現場に」って何度も言ってた。奴と現場をつなぐワンさんもすげー苦労してるようだった。


大丈夫かな?って心配だったけど、俺がどうこうできることじゃないんで、1週間くらいの引き継ぎを終えて、俺は、久しぶりに日本に帰ることが出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ