空港にて
都合のいいことに、俺はパスポートを持ってた。ダイビングで前より少し上のライセンスを取ったこともあって、海外の海に潜りに行く機会もあるかもしれないしな~なんて軽く考えて取ったことがあったから。
だからすぐに総務がチケットを手配して、上司からの呼び出しのわずか数日後、俺は機上の人となっていた。
中国の工場とは言っても、向かった空港は香港。すごく賑やかで、初の海外出張ということもあってめちゃくちゃテンションが上がった。本当はよくないんだけど、仕事用のビザを取ってないから、入管では、こっちにいる友人に会いに来たと言った。俺はスーツだし、実際仕事の話をしに来てるのが本当のところだから、税関職員に疑われるんじゃないかと思って緊張してたのに、簡単に通してもらえた。さすが日本のパスポート、すげえとか思いながら空港でぼーっと待ってると、俺に声をかけてくれる人がいた。
「○○工場の大島さんですか?」
すらっとした体型で、多分、俺と似たような年の男。流暢な日本語を話してるけど、多分、日本人じゃない。
「はい、大島です。迎え、ありがとうございます」
立ち上がってぺこっと頭を下げる。
「やっぱりそうでしたか。お疲れ様です。私はワンです。工場で働いてます。よろしくお願いします」
早速迎えに来てくれた車に乗った。ワンさんが運転してきたのかと思ったら、すでに運転席には人が乗っていて、彼も後ろの座席に座る。
「これ社用車?ですよね?運転手が別でいるんですか」
日本の感覚だと、役員でもないのに、社用車に運転手はいない。たいていは自分で運転する。え、どうみても見ても若いけど、この人実は偉い人なのか?!と少し焦る。
そんな俺の気持ちを読んだかのように、ワンさんが説明してくれた。
「ああ、違う違う。これ、普通なんですよ。中国では、自分で運転しません。危ないですからね」
危ないってどういう意味だ?テレビで見るイメージだと、自転車が大量に道路いっぱいの幅で走る光景だけど、あんな感じで運転しずらいってことか?
「ふふっ。乗れば分かりますよ。しっかりシートベルトしてくださいね」
意味ありげに笑うワンさんを見て、嫌な予感がしたが、とりあえず、言われたとおりにシートベルトを締めたら、車は走り出した。




